きまぐれ邦画帖
平柳益実
とき、10月某日。ところ、自宅居間兼AVルーム。輸入盤DVD『HORRORS OF MALFORMED MEN』を見る。映画館では時折上映されているようだが、日本国内ではビデオもDVDも発売できなかった昭和44年の東映映画『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』である。マニアの間ではアメリカでの発売が早くから知られ、輸入盤を扱うショップでは予約が殺到したそうだ。評判ばかり耳に入ってきてなかなか見る機会がなかったので、注文した。扱うショップによって売値が変わるが、$25前後で買える。DVDは画質もよく、石井監督の他、塚本晋也・川崎実監督のコメントなどの特典も充実している。いわゆる差別語・不快語、差別的な描写というものに嫌悪感のある人・感化されやすい人には薦めないが、常識的な映画ファンにはお薦めしたい。
それはともかく、既にファンの間では評価の定まったような作品ではあるが、未見の方にこの妙な面白さを伝えられたらと思う。
主人公の人見(吉田輝雄)は精神病院の鉄格子の中で、半裸で暮らす女性患者たちに囲まれ、不気味な看守(高英男)に監視されながら、自分の精神が正常か否か自身に問いかけている。人見の記憶の中に、脈絡なく残った子守歌と高波の打ちつける磯の風景…。病院のそばを通りかかった曲馬団の少女初代(由美てる子)が、同じ歌を口ずさんでいたことから、人見は病院を抜け出し初代に話しかける。彼女は、もの心ついた頃から曲馬団の団員たちと暮らしていたが、自分の両親と生まれ故郷を知らなかった。人見は、記憶の中の風景を描いたスケッチを初代に見せ、彼女にとっても見覚えのある風景だったと知る。初代は、かつて団員から、自分が日本海側の出身であるらしいと聞いたことを思い出す。人見は、更に話を聞こうとするが初代は何者かに殺されてしまい、殺しの疑いをかけられてしまう。こうして、人見は初代を殺した真犯人と自分の過去を探し日本海を臨む町へと旅に出る…。
この導入部を見ると、おそらく潤沢な予算はなかったと思われる作品が、既に独特な雰囲気をかもし出していることに驚かされる。だが、続く富豪の屋敷の中で展開する奇想天外な物語は、導入部を凌いでいる。北陸地方のとある町で、亡くなった名家の御曹子が自分と瓜二つだったことから、人見はこの男になりすます。一度埋葬されて、生還したふりをする件では、寺の住職(由利徹、大泉滉)と医師(上田吉二郎)、看護婦(桜京美)という懐かしい顔ぶれがそろってコントめいた芝居を見せてくれる。作品のトーンからはまったく浮いてしまいがちなシークエンスだが、石井輝男は強引にも一つの世界観の中に押し込めてしまう。ピンク映画まがいの絡みがあったり(作品は成人指定)、『仮面の忍者赤影』の世界から迷い込んだような怪人が現れたり、エピソードは盛りだくさんだ。逐一自分の置かれた状況を語る人見モノローグは、映画館ではファンの笑いを誘うらしいが、『張り込み』でも『飢餓海峡』でも、推理物の映画では、説明はどれも過剰だったような気がする。人見のモノローグは、時に実況中継みたいになる場合もあるが…。
そして、物語は奇形人間のパラダイスたる島へ渡るに至って屋敷での展開を更に超越する。その功績は土方巽と暗黒舞踏塾のパフォーマンスに拠るところ大だが、突然現れた明智小五郎(大木実)と人見たち一行が上陸してからの奇っ怪な人々の群舞が、この作品を凡庸なエロチック・ミステリとは一線を画すショーとなっている。ラストはあまりにも有名な、人見と秀子(由美てる子の二役)の禁じられた愛の道行き。ぼくには笑えないのだが、作り手思いはどのへんにあったのだろう。物語に、演出に、観客を楽しませる要素が詰まっていた。 それは今、映画館でなかなか見つからないものである。