■冥 聲■
 

五 虚空



 
 

 痛み分け。またしても勝敗は決することなく、ただ韓遂は己の領土を僅かに削らせ、そのぶん馬騰が進み出た。そこで、互いが兵を退いた。
 戦は続く。終わることはない。終わらぬ限り、問いも已(や)まぬ。

 「何故」の問いは已(や)まぬ。

 牀(ベッド)に横たわる馬超に、末の弟である馬鉄は縋り、泣くのを堪え、ただ必死で訴えていた。
 「次は、俺が勝つ」と。「大哥(あにうえ)のように勁くなる。大哥が出ずとも、今度は俺が、その相手を討ってやる」と。末の子らしく我侭を許されて育った馬鉄は、いつしかその我侭を気性のはげしさに変えていた。未だ幼いその総身に瞋りを隠さず、激情のままに己が力を恃(たの)み、信じる。その弟の頭を撫で、馬超はいまひとり、己を見舞う姿を見た。
 言葉はかけぬ。ただ心配を蒼白な面に顕し、凝(じ)っと長兄を伺う姿は、次男の馬休。その物言わぬ眸に、馬超は未だ頚を打たれて出せぬ声を、無理に搾り出した。
 すまぬ、と。
 すまぬ、仇をること、かなわなかった、と。
「大哥(あにうえ)―――」
 馬休はそう呟き、眼を瞬いて、僅かに唇許を歪めた。
「大哥に『すまぬ』などと云われては、気持ちが悪い」
 その声に顫えがある。そのまま貌を俯向け、暫し沈黙した馬休が貌を挙げたとき、その眼が赧(あか)く潤んでいた。
「我等は敗けていない。敵は、逐い払われた。次は、次こそは―――」
 云い掛け、馬休は言葉を呑み込み、唇を噛む。そしてそれが解けると同時に大きく息を吐き、一歩、牀に近付いた。
「大哥にばかり、負わせて、すまぬ」
 大哥と父上にばかり頼って、すまぬ。彼はそう続け、それ以上馬超に貌を見られることを厭う様に背を向けると、そのまま馬鉄を促し、ひとり先に立って、急ぎ足に房(へや)を出た。
 遅れて、馬鉄も立ち上がり、こちらは馬超に笑みを向ける。
「早く起きて、また稽古をつけてください」
 でなければ、俺が大哥より勁くなるやもしれませぬ。そう告げる末弟に苦笑を向け、後にはただひとり、黙してその子供等を見ていた馬騰が、馬超の前に残される。

 「何故」の問いはある。だがそれを、父に向けることはできぬ。

 それを思い、ただ父に眼を向けた馬超は、しかし向けるべき言葉がない。

「超よ」
 馬騰は息子を見降ろし、その貌に表情はない。
 傷は深く、縫っても未だ塞がらず、動かすことも叶わぬ。ただ、痕は残るが腕の動きに障るに至らず、と医師は告げていた。それは僥倖であると。今少し突かれた場所が違えば、肩が剔られ骨が砕けたか。今少し深ければ臓腑まで届いたか、あるいは筋を切ったか。危ういところであったと、息を吐いた。
 だが深傷(ふかで)は深傷。殊に頚を勁く打たれれば、後々まで響くことがある。それまでくれぐれも無理に動くなと、医師はきつく念を押して繰り返していた。
 だが父の面貌には、それを労る色もなく、かといって不覚を憤る色もない。謐かに、ただそれを見降ろしている。
 そして声にも、いかなる感情(おもい)も顕れぬ。
「休は、母に肖たな」
 顔も、そして理に勝る気性も。それを謂う父に、馬超は怪訝の色を向ける。その息子の前で、馬騰は更に続けた。
「だが、勁い思いを、己が裡に黙して語らぬまま圧しころすところは、お前に継がれたか、超」
 情の強(こわ)い女だった―――そう続ける馬騰に、馬超は瞬きし、そして顔を歪め、唇を噛む。
 その息子の表情の変化をどう見たか、馬騰は声は謐かなまま、話題を転じた。
「お前が出ぬ間、お前の兵は、令明に預ける」
 令明とはホウ悳の字(あざな)である。もとより馬超に不満はない。ホウ悳は馬騰が率いる将の中でも、抽んでた武勇の持ち主で、馬超を除けば最も馬騰に信頼されているといってよい。当然の計らいであると、そう思えた。その馬超に、馬騰は問う。
「何故、お前の代わりに休や鉄に任せてみぬか、それが判るか、超」

 鉄の歳で、お前はもう一軍を率いた事があろう。見事に為果せたであろう。
 父の言葉に答える言葉はなく、馬超はそれを、眼の覚める思いで聞いている。

「お前が令明に一目おいている事は、兵も知る。なれば、お前の代わりに令明に率いられ、それを当然と感じる」
 お前が今、そう感じたように。そう馬騰はちらりと微笑を見せた。
 父は謂う。それはお前が、馬氏が兵を率いる者であるからだ。儂がそう望むからだと。儂が主たる者、それは道理。だがいずれ、全ての兵を、儂はお前に預ける時が来る。超、それが判るか。今は儂が動かす兵は、何れお前の手足となる。

「それはお前が我が長子であるからではない。儂が、それを望むが故だ」
 お前の上に、その力を見出し、信じるが故だ。父の言葉に、馬超は何かを謂おうとし、しかし喉から出たのは、僅かに息を吸う音ばかり。
「長幼の故ではない。お前の兵を休や鉄に預けぬのは、それが幼く、力及ばぬ故ではない」
 あれらは、儂の側に置き、常に我が声の届くところに存るようにせねばならぬ。馬騰は馬超の額に手を置き、その重さを馬超は感じ、ただ眼ばかりを父に向ける。
「幼い頃より、お前を戦に出した。だが休や鉄にしたように、お前を側に置くことはしなかった。先陣に立たせた。あれらに赦す甘えを、お前にだけは赦さなんだ」
 それを休や鉄にさせれば、儂を怨むであろう。お前に及ばぬ力を叱咤すれば、お前ばかりが愛でられると、お前をも妬むであろう。
 だがお前は、弟達を怨む事はせぬ。己の力を、それのみを見て、儂に從う。そして、答える。
「それがお前に全てを継がせる事を望む所以だ。嫡男とは、そういうものだ」
 休や鉄を褒める些細な功で、儂はお前を褒めたことはない。それをつめたいと、感じたやもしれぬ。だが謂わぬ。謂わぬまま、更なる功を挙げる。超、お前はそういう奴だ。
 額に置かれた掌より浸みるように、声が響く。それを感じる馬超に、そういえば、あれもお前には厳しかったなと、喪われた妻を想う様に、馬騰は息子の眼の中にその姿を探すが如く、眼差しを和らげた。
「休や鉄は、これより先も、我が許に置く。お前ひとり遠ざけても、それは疎んじたが故ではない。それをする儂に從うように、休も鉄もお前に從う。お前にのみ与えられるものを、妬み嫉む事はない。それをさせぬようにあれらに与えるものは、お前に与えてゆくものに比べれば、些細なものだ」

 そして、と馬騰は続ける。
「そして、先に休がしたように、お前が儂に『何故』と問えば―――」
 儂はお前に怒鳴らねばならなかった。怒鳴って、その問いを呑み込ませねばならなかった。
 小賢しい事を問うなと、跳ね退けねばならなかった。
「お前が、休を制した様に」

 ちちうえ、と馬超は呼び掛けようとして、喉は未だ声を出さぬ。喉元を搾られる様な痛みだけがある。

「お前に、答えを与える事はできぬ。ただ己が裡の『何故』の声に、耳を傾けよ。それを謂う事しか、できぬ」
 父の手が離れ、馬超は出ぬ声の代わりに僅かに息を荒げた。
「その理不尽を悪(にく)め。だが超、それを問うお前は孤(ひと)りではない」
 儂もまた、お前が孤(ひと)りなる事を知る。そしてそれを知る儂も孤(ひと)り。
「お前の聲(こえ)を過たず聞くものはすべからく孤(ひと)り。それを知り、その上に立て。それが出来るのはお前のみだ」
 それがお前にこの父が、いずれ全てを譲る所以だ。
 謐かに、馬騰はただ謐かに告げる。
「儂の名である騰が、「あげるもの、のぼるもの」の意味を持つ、そしてお前にの名には「こえるもの」、そして「とぶもの」の意味がある」

 儂を超えよ。そう、馬騰は謂う。
 そして、いつか万が一にも、父の示す道が己に足らぬと見えれば、超えて超(と)べ。何故と問うのは、その時でよい。儂の中にある答えはその時にわかる。
 今はただ、身をいとえと。
 云い置いて、馬騰は裾を払い、それと入れ替わる様に、薬湯を運ぶ馬岱の姿が見えた。
「お話しが終わられたなら、休まれよ」
 薬湯を勧めることはせず、それを脇に置き、馬岱は牀に横たわる馬超に手を伸べる。その動きに、馬超は己が半身を無理に起こそうとしていた事に気付いた。
 そして気付くと同時に動く手で馬岱の袖を掴み、顔をあげて声を搾る。
「――――ぜ、」
 何故、とそれは声にならず、ただ掠れた声の後に、喘ぐ息が繰り返される。
 何故、どうして。問えぬ筈の言葉が、聞くものの去った後に、幾度も溢れ出す。

 何故母が、妹が死なねばならなかった。何故、あの男がそれをした。
 そして何故己は、未だそれを叔父と呼んだ。
 そして、何故届かなかった。何故敗けた。
 正義というものが、道理と云うものが己にあったなら、勝てるべきは己ではなかったか。仇を討つのは子として道理。ならば何故それを為果せぬ。
 仇を討つ我等にこそ、正義はあった。理由はあった。何故それが赦されなかった。韓遂は未だそこに生きてある。何故仇を討つ事も、詰ることも叶わなかった。
 何故、届かなかった。
 何故――――

 その正義が赦されぬ理由が、先に父と韓遂の間の不和としてあったというのか。
 けれど己はそれを知らぬ。ただ憎いと、それのみがある。相手を殺す理由のみが。

 その理不尽を叩きつける様に、馬岱に縋り、声なき問いが堰を切って溢れ、頑是無い子供の如くに、その袖を掴み、揺さぶって慟哭する。
 その慟哭の中に、口惜しいという思いがあった。あの男。仇の前に立ち塞がる、あの爪牙。閻行という男。それに勝てぬ己が口惜しい。
 届かぬ己が口惜しい。
 与えられぬものを与えられぬ、己の信じる道理が通らぬ、それが口惜しい。

 渾沌として、訴えるべき言葉はただ嗚咽となり、それを支える馬岱が、傷に障らぬよう、そっと背に手を回し、宥める様に叩いた。
「俺になら、構わぬ。幾らでも吐き出せばよい」
 思い屈(くん)ずるすべて、吐き出してしまえ。そう告げる馬岱の声は、ただ穏やかだ。穏やかなまま、今一度馬超の躰を牀に戻し、頬を拭う。
「俺は若に答えを与えられぬ。そして、仮に殿がその答えを与えられたとて、若は満足せぬ」
 その答えは、若の裡にのみある。
 そしてそれを見出すのは、若ひとり。それゆえに殿は、若に全てを与えると謂われた。
 孤(ひと)り立てと―――

「若は剋てる」
 喘ぐ息を忙しく繰り返す馬超に、馬岱は繰り返す。
 剋てる。
 けっして、敗けぬ。
「それが証に、若の側にあり、それを守ろうとした俺は敗けていない」
 剋つべき者の側に存ったが故の事。俺は、若に守ろうとして守られた。

 岱、とその名を呼ぶ声が出ない。何かを謂おうと、動かす唇(くち)より言葉は出ない。
 それがもどかしくて頚を振ることも侭成らず、ただ未だ袖を掴む指に力を込め、勁く引く。それに馬岱は微笑を向け、それ以上の言葉を遮る様に、馬超の唇許に手を伸べた。
 承奕と、その字を縋る様に動く唇許が匿(かく)されて、掌に蓋われて、ただそれが外れた時には息のみがある。
「一旦眠り、その後で薬湯を」
 その頃合を見計らって来る。だから寝め。馬岱はそう告げて身を起こし、馬超は己の手を馬岱の袖より外し、喉に宛てた。
 声が出ない。投げるべき問いは、それゆえに己の裡にのみ存り、答えもまた、己の裡にある。それを探るように、馬超は瞼を閉じ、それに安堵したように離れる気配が、謐かに遠離かった。
「――――ッ、」
 嗚咽だけが、房(へや)に響く。
 そしてそれに答える聲(こえ)は、未だない。


 
 閻艶。
 行という名に変えて、韓遂はその名を与えた。彦明(げんめい)という字(あざな)と共に、未だ字を持たぬ男に、それを与えた。一軍の将として、己の傍らにあれと。郷里の父母を側に置き、養えるだけの禄もくれてやろうと。
「いずれ、時がくれば、然るべきところに推挙もしてやろう」
 馬超との一騎討ちの凄まじさ。その武勇を賞して、韓遂はその男を己の片腕と改めて公に認めてみせた。
 それゆえに、蟠る慮いを切り捨てよという。己の裡に未だ存る、後悔を断てと。
「寿成の妻子を害した己を、忘れよ。ここにあるのは、ただその武勇誉れ高い長子と互角にわたりあった猛将。それを誇れ」
 誇る事に未だ躊躇いはある。閻行、否、閻艶はそう思う。己は未だ、あの馬超にとどめをさしてはおらぬ。さす事ができなかった。
 だがそれを言下にはせぬ。ただ恭しく改められた名を享け、しかしこの主は、なにを以て「時が来れば」というのかという怪訝の色を見せる。
 その怪訝の色に、韓遂は答えた。
「我等は、逆賊にあらず。馬氏の軍に賊と呼ばれる謂われもない」
 だが戦は続くであろう。暫し、近隣を騒がせぬことともなろう。
 しかし我等が精強なること、誰もが知る。それゆえに討伐が難い事も知る。
 韓遂は笑みすら見せず、ただ淡々と言葉を続ける。
「恐れ多くも帝を擁する者は、今や烏合の衆。いずれ力存るものが帝を奪い、名告りを挙げる」
 馬騰が手をこまねいているからだ、とは韓遂は云わなかった。僅かに眼を細め、そこに苛立ちを滲ませたのみだ。
「我等に伸ばされる手は、ある。それを捕える。いずれその時には、寿成と再び馬首を並べる事もあろう」
 つてはある。我等が近隣を騒がせるを、隙とも好機とも見る男は、既にこの地をも視界にいれている。
 それが誰であるか、韓遂は明らかにせず、閻艶もまたそれを問うことはない。
「その手が伸びた時こそが―――」
 我等が力、真に天下に問う時。
 閻艶は顔を上げ、頼むぞ、という主の声に頷いた。
 同時に、この主は、己が馬超の息の根を止めぬ事を、知っていたのではないかという疑念が掠める。だがそれを、どうやら喜んでいるらしい気配も伺える。
 それでこそ、望んだ如くと。だがそれも含め、己への信頼であると閻艶はそれを容れ、己を認めるものに從ってこその将と、余分を考える事を已(や)めた。
 それをして、得るものがあるとも思えぬ。寧ろあってはならぬこと。それを己の分際と見極め、ただ受け容れた。
 
 しかし己に、その稚(わか)い将の母を討ったという自責の念をもって向かうことを已(や)める事はなすまいと思う。
 戦の帰趨がどうあれ、それは己がした過ち。それには代わりがない。ただ、繰り返すまいと、そう慮う。そして己が正しきと信じるものを曲げる事は成すまいと。
 戦に人を戳(ころ)す、それは必然。だがそれに道理なければ、暴虐。
 己が欲(のぞ)むのは、道理なき勝ちに非ず。
 己を視(み)た馬超の眼に、閻艶はそれを勁く思った。そしてその怨みをも受け容れ、尚剋たねばならぬと、それを感じた。

 
『若君の声が出ぬのは、傷の故にあらず』
 医師はひそかに、馬騰にそれを告げていた。頚を打たれ、それが暫し響けども、喉の内まで傷をつけぬのに、声が出ぬ道理はない。
 ただそれは、心の深くに溜めた思いが、喉を塞いでいるが故。しかしそれを知らせれば、逆にますます声は出ぬ。
『それゆえ、傷の故となされよ』
 さすれば、傷が癒えれば声は出ると信じる。常の闊達さを取り戻されれば、自ずと言葉は戻りましょう。
 その言葉通り、馬騰は弟達にはもとより、馬岱にすらそれを謂わなかった。ただ、己が息子が心身に負った衝撃の勁さに、その匿(かく)された精神(こころ)の脆さを垣間見たのみか。
 いや、脆いのではない。ただ、鋭い。
 それゆえに、時に危うい―――刃の如き鋭さは、己が進む先にあらざる者をも容易く傷付け、己をも傷付ける。
 その鞘ともなるべきか。父として、馬騰はそれを慮う。今しばし、己の中に、己の鞘を見出す時まで。
 削らずともよい。ただ収める術を見出すまで。己を傷付ける憂いなくなる、その時まででよい。その時には既に、息子は父たる身を超えよう。

 その名の如く、超えて孤(ひと)り立つであろう。


 
 
「岱、」
 重い傷は癒え、孤(ひと)り立つ馬超の声がある。風にも消えぬ勁い声に、馬岱は眩しげに眼を向けた。
 孤(ひと)り天を仰ぐ馬超は、それに届かんとする如くに手を伸べ、そして問う。
 「何故」という問いではない。ただ、俺は剋てるかと。
 低く乾いて、勁い声。それに馬岱は応える。
「若は、敗けぬ」
 剋たれよ、と続ける声に、手が降ろされ、ただ顔ばかりは虚空(そら)の碧さを欲(もと)めるように、天に向けられていた。

 「何故」と問う聲(こえ)は、裡にのみ。ただ冥(くら)く深い裡に留められ、けれど深いところではなく、虚空(そら)にそれを求める様に、馬超は凝(じ)っと、碧を仰ぐ。
 届けと、乞う様に。
 ただ、届けと。届かぬ手を伸ばす勁さを、欲(もと)めるように。

 孤(ひと)り。しかしそれを視(み)る姿も、孤(ひと)り。

 羌の族では、人は死せば、その魂が鳥と共に空に還るという。
 羌ならぬ母と妹もまたしかし、そこに存るか。

 地に存る己にはそれは判らぬ。行方を追う事もならぬ。等しく地にある者を追い、ただ己の裡なる聲に答えを探す。しかし不思議と、傷と共に殺意が薄れ、それは情のうすさかと馬超は思う。
 ただ、その殺意の源となった理不尽が赦せぬと。そればかりが心に残る。
 けれど、それを謂う馬超に、馬岱は告げた。それを赦せぬ心こそが、若の戦の理由ではないのかと。
 道理が通らぬ、手が届かぬ、問いを圧し殺さねばならぬ、その理不尽。それを超えられよと。
 そうかもしれぬと、馬超は顔を降ろし、虚空(そら)ならぬ地を見霽かした。

 己が守るべき地は広がり、与えられた兵を躊躇わず率いる、その先に敵はある。
 そしてその前に、孤(ひと)り立つ勁さ。求められるのはそれで、外はない。
「行くか」
 父上が待っている。そう馬超は続け、馬岱もそれに從った。
 あとにはただ、碧さのみが広がり、そこに聲はない。

Sun Nov 03 2:15:24 2002

Index
 
実は「建安の初年以前」としか特定できません、この時期。
しかも「韓遂の軍が馬騰の妻子を殺害して去った」のは事実ですが、それに閻行が絡んでいるとも、閻行の名がいつ閻艶に変わったのかも、ひとことも書いてありません。つか、毎度お馴染み妄(うそ)です(きぱ)。信用してはなりません。これはあくまで「物語」です。しかも「一騎打ちー!」と意気込んだ挙げ句に迷路に突入した物語です。
 閻艶については、韓遂から離脱して曹操の許に奔ったのち、もういちど名を「閻行」に戻したというマイ設定(痛)もありということで。なんというか。
 ちなみに「迅き暉の生まれし処」で祖郎に追回されて腰抜かした孫策と、今回の馬超は同い年(もしくは同い年「頃」)ということで。なんとなく書きながら比較もしておりました。これでいいのだろうかと、疑念を抱きながら。馬超という人物の描写がとにかく難しく。後の潼関前後の人間関係をも鑑みると、固まり切っていないというか。筆の未熟さもあいまって、なんともお恥かしい次第。
 「孤(ひと)り」であることを気付けなかったのが孫策。
 気付いて、それを父に諭されて呑み込んだのが馬超。
 なんとなく気付きながら、父には一切の言葉を貰えず突っ放されたのが曹丕と。
 書きながら、そんな事をつらつらと思っておりました。いえ、あくまで私見ですが。
 ともかくも、またしても無駄に長くなってしまいましたが、お付き合い頂いた皆様には、本当に有難うございました。
 そして未だ書いてませんが、また幾度か「うわー裏分岐OK?」と思った箇所があった事も、このさい後悔懺悔だ!笑って聞き流せ!煽られたら書く。そういうことで。