ハレルヤ

万物の支配者である

われらの神である主は王となられた

この世の国は

われらの神とそのキリストのものとなった

主は世々限りなく支配される王の王

主の主

ハレルヤ!




【ヨハネ黙示録】


クリスマス記念SS
聖夜に迷える子羊・・・達!

 ・・・ハァ・・・。

 本日何度目かの溜息。

 『溜息の数だけ幸せは逃げていく』って誰の言葉だったかしら?

 あたしはこの、度重なる溜息の原因に目を向けた。

「えぅ〜えぅ〜えぅぅ〜〜〜〜!!」

 なんと言うか・・・・小動物?

 栞が小動物よろしく、リビングを右往左往している。

「一寸は落ち着きなさい」

 あたしは優雅にお茶を飲みつつ栞に足払いをかけ。

「えぅ!?」

 栞は慣性の法則に従い宙を舞い・・・。

 ドガンッ!

「えぐぅ!」

 万有引力の(ニュートンのリンゴ)法則に従い、地に堕ちた。

 一瞬後、床との熱い口付けを交し終えた栞は、

「お姉ちゃん!何ばしよっとですか!」

 涙目で吼えた。

「少しは落ち着きなさい。たかがクリスマスじゃない」

 その瞬間、栞の両眼が『きゅぴーん!』と光った・・・ような気がした。

「お姉ちゃん本気・・・いえ、正気ですか!?クリスマスなんですよクリスマス!って言うクリスマスなんですよ!む・し・ろ・クリスマスなんですよ!!恋人達の恋人達による恋人達の聖なる夜!今夜は正に私たち恋する乙女の聖戦なんですよ!!それを『たかが』だなんて・・・おねえちゃんは異常者です!邪教徒です!!人ッ類の敵ですぅぅぅ!!!!」

「・・・・あんた、よく息が続くわね」

 此処まで来ると呆れを通り越して感心すらしてしまう。

 それに、あたしの記憶が正しければ・・・

「あんた今の台詞バレンタインにも言ってなかった?」

「恋する乙女は毎日が聖戦なんです!」

 ・・・・・・・そぉですか。

 ジャンヌ・ダルクの如く断言する妹を他所に、あたしは又、溜息をついた。



「それは良いとして、コレ、どっちが似合うと思います?」

 と、栞は何処からともなく取り出した二着の衣装をあたしに見せてきた。

「・・・・・・・・栞」

 如何して・・・如何してあたしはこんなにも不器用なんだろう?

 昨年のクリスマスも・・・あたしは正直に答えて栞を否定する事になったじゃない。

 人間は・・・同じ過ちを繰り返す愚かな生き物だと言う事なの?

「栞、貴女のスタイルじゃあ、『服に着られる』わよ」

 栞はあっけに取られたような顔をして。

 自分の胸元に視線を落として。

 次いで、耳まで真っ赤にして。

「そんな事言う人嫌いです!!」

 そう叫んで部屋に駆け込んでしまった。

 あたしは苦笑いを浮べて立ち上がり、栞と同じく自室に向かった。



 ドレッサーの引き出しを空け、一つの箱を取り出す。

 それはブローチ。

 あたしの誕生日に、『あの人』がくれたあたしの宝物。

 誕生石であるアクアマリンを天使が抱えたでざいんの可愛らしいやつ。



「ホラ香里。俺からのプレゼントだ」

「アクアマリンのブローチ。探すの大変だったんだぜ?」

「アクアマリンの意味は沈着、勇敢、そして聡明。香里にはぴったり、だろ?」

「給料三ヶ月分の指輪じゃないけど、受け取ってくれ」




 ふと、その天使と目が合い、あたしは笑みを零す。

「ま、偶には良いか。・・・・クリスマスだし♪」





 ポー

 ポー

「・・・・佐祐理?」

 はっ!?

 いけません。

 舞に見惚れて『お出掛け』しちゃいました。

「あはは〜♪とっても可愛いですよ〜」

「・・・疲れた」

 はぇ?

「駄目ですよ〜舞。今日はクリスマスなんですから。しっかりお洒落しないと」

 そう。今日はクリスマス。

 秋子さんに御呼ばれしちゃってるんです。

「・・・今日はただのホ−ムパーティーだから着飾る必要は無い」

「駄目ですよ〜。しっかりお洒落して、今日こそ祐一さんをゲット☆しちゃわないと」

 ぽかぽかぽか☆

「きゃ〜♪きゃ〜♪きゃ〜♪♪♪」

 あはは〜舞ったらテレてますね〜。

「わ、私は別に・・・」

 む。いけませんね。

 舞ったらテレの余り心にも無い事を・・・。

「ま〜い。そんなんじゃ他に人に祐一さんを盗られちゃうぞ〜?」

 あ・・・。

 今・・・、祐一さんを盗られるって言った瞬間・・・胸がチクンってした・・・。

「・・・駄目。祐一は私の」

「じゃあ、頑張ってお洒落しないと。ね?」

「・・・はちみつクマさん」(こくん)

 あ・・・。

 また、チクンってした・・・。

 どうして?

 佐祐理は舞に幸せになって欲しいから・・・。

 ダカラユウイチサンヲアキラメルノ?

 諦める・・・?

 佐祐理は・・・佐祐理は・・・祐一さんの事を・・・・

 ユウイチサンガイナクナル。

 マイトイッショニドコカニイッテシマウ。

 マタ、ヒトリボッチ。

 ヒトリハ・・・・・・イヤ!

「・・・・佐祐理」

「は、はぇ?」

 えっと・・・

 現状確認中・・・

 現状確認中・・・

 現状確認中・・・

 あはは〜。舞に抱き付かれてますね〜。

「って、ままままままま舞!?」

 はえ〜佐祐理はノーマルですよ〜(汗)

「・・・佐祐理、我慢しなくて良い。私も、祐一もずっと一緒」

「!!・・・ま・・・い・・・。佐祐理も、佐祐理も一緒で・・・良いの?」

「佐祐理も一緒じゃなきゃヤだ」

 舞が・・・

 子供みたいに泣いている。

 佐祐理の胸に顔を埋めて・・・。

「・・・よ〜し!じゃあ、今夜は二人で祐一さんをゲットしちゃおう♪」

「・・・祐一ゲットだぜ」

 舞と、顔を見合わせて。

 どちらともなく笑い合って。

 佐祐理は、お父様から貰った宝石箱に手を伸ばしました。

 取り出したのは・・・・バレッタ。

 佐祐理の誕生日に・・・『あの人』が贈ってくれた物です。

 五月の誕生石であるエメラルドを冠したもの。



「ハッピーバースデー佐祐理さん!」

「そう、エメラルド。佐祐理さんの誕生石だよね」

「エメラルドには幸運とか幸福って意味があるんだ」

「佐祐理さんには、さ。幸せになって貰いたいんだ。俺が幸せに出来れば一番良いんだけどな♪」




 今思い出してみると・・・まるでプロポーズですね♪

「佐祐理を・・・『私』を幸せにしてね。待ってるよ祐一『君』♪」





「美〜汐ぉ〜!早く早く〜!」

 真琴が呼んでいます。

 相変わらず無駄に元気ですね。

 私と真琴は今、水瀬さんの家に向かっています。

 と言っても、真琴は私を迎えに来てくれただけですが。

 今日はクリスマスだと言う事で秋子さんにお誘いを受けました。

 私達のほかに栞さんに美坂先輩、川澄先輩、倉田先輩もいらっしゃるそうです。

 ・・・誰ですか?オバさん臭い説明口調だなんて思った人は。

 そんな酷なことは無いでしょう。

 それは良いとして・・・

「真琴、そんなに走ると転んでしまいますよ・・・」

「あぅ!?」

 ころん

 ・・・遅かったようです。

「あぅ〜・・・美汐〜」

 私は涙目の真琴に駆け寄って起してあげます。

「大丈夫ですか?」

「あう〜冷たいよぉ〜ドロドロだよ〜」

 真琴は立ち上がって服をパタパタはたきます。

「今から私の家に戻って着替えますか?」

 真琴は私の提案に首を振りました。

「お家で着替えるから良い。それより早く行こ!祐一も待ってるはずだから」

 ・・・相沢祐一さん。

 かつての私と同じ痕を持った人。

 でも、彼はそれを乗り越えた。

 私は無意識に自分の首元に手をやりました。

 其処には瑠璃・・・ラピス・ラズリのネックレス。

 十二月の私の誕生石のネックレス。

 『あの人』から頂いた、大切な・・・大切な宝物。



「よぅ、天野。今日で又一段とオバさんに近づいたな」

「怒るなよ、冗談だ。コレやるから機嫌を直せよ」

「ラピスのネックレスは友情や他人との関係を再考の状態に持っていく効果があるらしい。ま、偶には先輩らしい気遣いもさせてくれ?」

「なぁ、天野。そろそろ前に進んでも良いんじゃないか?焦らなくても良いからさ。俺が支えててやるから、な?」




 あの人らしい不器用な気遣い。

 でも、それでもあの人の存在が一体どれほど私の心を癒してくれたでしょう?

「美汐!早く行こうよ!」

「ええ、そうですね。早く行きましょう」

 私は真琴について歩を進めます。

「相沢さん・・・せめて心の中では『祐一さん』と呼ばせて頂きます。今日はクリスマスですから・・・コレくらいの我侭は許して下さいね♪」





「わ、わ、わ・・・」

「うぐぅぅぅ!?」

 ドッシーン!

 リビングから娘達の悲鳴が聞こえてきます。

「あらあら、一体どうしたの?」

 キッチンからリビングを覗くと、名雪があゆちゃんを押し倒していました。

「名雪、あゆちゃん・・・。お母さん恋愛の形は人其々だと思います。でもね、そういう事はお部屋でした方が良いと思うの」

「わ、お母さん何て事言うんだよ〜」

「あ、秋子さん誤解だよっ」

 あらあら、二人とも顔を真っ赤にしちゃって・・・。

「ふふ・・・。そういう事にしておきましょうね」

「う〜、誤解なのに・・・」

「うぐぅ・・・」

 あら?一寸からかい過ぎちゃったかしら?

「冗談よ。それより早く準備を済ませちゃいましょうね」



 時計を見て時刻を確認する。

「さて、そろそろみんな来る頃ね」

 用意するお料理は軽く十人前以上。

 準備は大変だけど、皆が歓んでくれるなら苦にはなりません。

「去年までは名雪と二人きりだったから・・・」

 やっぱり私は賑やかなのが好きらしい。

 こんなにも楽しいクリスマスは『あの人』が居た時以来ね。

 ・・・・『あの人』。

 名雪の父親で、私の最愛の人・・・・・・だった。

 そう。『だった』

 それは過去形。

 今は・・・、今の私は・・・・。

 視線を落とし、自分の足元と身体を見る。

 ふわふわで暖かいニャンコのスリッパ。

 同じくニャンコの足跡模様のエプロン。

 これらは全て、年若い私の甥っ子がバースデイプレゼントにくれた物。



「秋子さん、あの・・・コレ、誕生日のプレゼントです」

「やっぱり秋子さんには台所関係かなって・・・すみません。芸がなくって」

「あの・・・秋子さん?無理とかしてません?」

「俺、もっと頑張ります!秋子さんが安心して頼れるような男になって見せます。だから・・・だから、もう少しだけ待っていてください」




 今思い出しても頬が熱く火照ってきます。

 私はもう一度スリッパとエプロンを見て。

「ありがとう祐一さん。それから・・・ゴメンなさい『勇一』さん。今日だけ・・・今夜だけは・・・」

 私は今日、今まで一度も外した事の無い左手の薬指に光る指輪を、外しました。





「少し、遅くなったな・・・」

 そう呟く少年の手の中には、9つのシルバーのリング。

「一つ一つが給料3ヵ月分じゃないけど・・・その辺はしょうがないか」

 幽かに浮かぶ苦笑い

 ふと、少年は天を仰ぐ。

「あ・・・」

 天上から舞い降りる、小さな純白の天使。

「雪・・・か。まぁ、珍しくは無いけどな」

 少年の上に奇跡の欠片が降り積もる。

「ホワイト・クリスマス・・・・」

 誰に言うでもなく呟き、少年は扉を開く。

 最愛の人達の待つ、水瀬の扉を・・・。

 そして・・・

 宴が始る・・・ッ!

「みんな!メリークリスマス♪」

 願わくば・・・この迷える仔羊(コイスルオトメ)達に祝福が在らん事を・・・





【FIN】


【痕書き】

皆様、メリークリスマス♪
と言う訳で、最狂の破壊神子と禍音様で御座います。
今回はクリスマスと言う事でこんなの書いちゃいましたが・・・如何でした?
楽しんで頂ければ幸いです。
実はコレを書いている時、風邪引いちゃって死に掛けてます(笑)
皆様も風邪など引かないようにして下さいね。
それでは、良いお年を!

<P.S>
居酒屋で飲んでます。探さないで下さい(爆)
最後に・・・このSSを読んで頂いた皆様に、ダリアを贈ります。
花言葉は【感謝】・・・。

     



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