『雨の日の3人』   

 

 

 

「葵ちゃんもっと寄らないと濡れちゃうぜ」

「は、はい」

葵ちゃんがわずかに寄ってくるが、それでも肩に水滴がかかっている。

俺はおもいきって葵ちゃんの肩を引き寄せた。

「せ、せんぱい!」

「これで、濡れないだろ?」

「は、はい」

葵ちゃんは真っ赤になってしまった。

くぅ〜〜〜、かわいいぜ葵ちゃん!

 

 

葵ちゃんと2人、らぶらぶなまま、駅前辺りまで来た時、不意に声を掛けられた。

「あれっ?葵、それに浩之じゃない?」

振り向くと綾香がいた。今、学校の帰りのようだ。

俺と葵ちゃんを交互に見つめ、意味ありげな目で、

「ふ〜ん、お2人ともお熱いわねぇ」

綾香が冷やかしてくると、葵ちゃんがパッと離れかける。

「おいおい葵ちゃん、離れると濡れちゃうぞ」

すかさず葵ちゃんを傘に引き戻す。

綾香がクスッっと微笑む。

「いまさら照れる事なんかないじゃない、2人の事は、みんな知ってるわよ」

「あ、綾香さん、からかわないで下さいよ」

葵ちゃんが照れながら言う。

 

「まあまあ、で、2人はどこに行くつもり?」

聞かれた葵ちゃんは俺の方を見つめる。

「まあ、とくに決めてないけど、カラオケかゲーセンか、面白いやつがやってれば映画

でも見に行こうかなって思ってたけどな」

「ゲーセンにしなさい!」

綾香が決め付ける。

「何でお前が決めるんだよ!」

「それはね、あたしが行きたいからに決まってるじゃない」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

俺も葵ちゃんもあっけにとられている。

 

その後、綾香に強引に押し切られ、結局綾香も含めた3人で、ゲーセンへ向かう事になった。

(あぁ、2人っきりのデートが早くも終わってしまった・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

ゲーセンにやって来た俺達は、最初はクレーンゲームにはまっていたがやはり

格闘家の血が騒ぐ、と言う訳でお約束のパンチマシーンで勝負する事になった。

もちろん言い出したのは、綾香だ。

 

「はぁっ!」

バシッ!

綾香のパンチがヒットする。

画面には、『170kg You are No 1』の文字が表示された。

「ほ〜、やっぱりすげえな」

俺は感嘆の声を上げる。

綾香の前のハイスコアは、110Kgあたりだからもうダントツだった。

さすがは、エクストリームチャンピオン。

「ふふ、当然の結果ね!次は葵の番よ」

「葵ちゃん、綾香の記録なんて抜いてやれ!」

「ど、努力します・・・・・」

 

葵ちゃんが身構えて、

「はっ!!」

バシッ!

画面には、『165kg You are No 2』の文字が。

「う〜ん、残念、綾香の馬鹿力にはかなわなかったか・・・・・・」

「誰が馬鹿力ですって?」

俺は静かに画面を指差し、

「あれが、証拠だ」

画面には、ハイスコアが表示されている。

綾香と葵ちゃんのスコアは他を大幅に引き離している。

「あれは、馬鹿力なんかじゃ無いわ、技よ!それに私が馬鹿力なら葵も馬鹿力になるわよ」

うっ!それを言われると・・・・・

「葵の事、馬鹿力呼ばわりするとは、今に嫌われるわね」

綾香がとんでもない事を言ってくる。

「甘いぜ綾香!俺と葵ちゃんの愛はその程度じゃこわれないぜ!」

「せんぱい!そんな大きな声で・・・・・・はずかしいですぅ・・・・・」

葵ちゃんは思いっきり照れている。

そんな2人を見つめ綾香はにやにやしている。

 

ふと気づくと、周りにはいつのまにか何人かのギャラリーが出来ていた。

ひそひそと、

『おい、あの娘らすげえぞ』

『ああ、さっきからダントツの記録だぜ!』

『この分だと、連れのあの男もかなりのもんだろうな』

無責任な会話が聞こえた。

無理に決まってんだろ。

 

綾香が、さっきの報復とばかりに、

「浩之〜、期待には答えなくちゃねぇ〜」

プレッシャーをかけてくる。

「うっ、うるさい!」

「せんぱい、がんばって下さいね」

葵ちゃんまで・・・・・・

「大丈夫です、こうゆうのはコツがあるんですよ、このての機械はパンチの重さだけを

計っているんで、腕の力だけで打ってもたいした記録は残せないんですよ。いつもの

練習通り、腰の回転を使って全身の力を乗せれば、きっといい記録が出せますよ」

腰の回転ねぇ、確か肩で打つようイメージするんだったかな。

「まっ、やってみるぜ!でも、期待はしないでくれよ」

「浩之、がんばってね」

「せんぱい、ファイトです!」

 

2人の応援を背に、ゆっくりと構える、そして、

「はぁっ!」

バシッ!

画面には、『165kg You are No 2』の文字が。

「やった〜、せんぱい、やりましたね」

「へえ〜、浩之もやるもんねぇ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

2人は感心している。

「見ました綾香さん、見事に全身の力が乗ってましたよね」

「うんうん、結構さまになってる」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「んっ? どうかしたんですか?・・・・・せんぱい?」

黙り込んだ俺をみて、葵ちゃんが声を掛けてきた。

「いっ・・・・」

「い??」

「痛っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

「せんぱい!!」

「痛ぇ〜〜、肩が、肩がなんか、変だ!」

「せ、せんぱい!だ、大丈夫ですか?あっ!きゅ、救急車呼ばなくちゃ!」

葵ちゃんは混乱している。

「ちょっと葵、落ち着いて!」

パニックった葵ちゃんを落ち着かせて綾香が聞いてくる。

「浩之、大丈夫そう?それとも、本当に救急車呼ぶ?」

「出来れば救急車はかんべんしたいな」

救急車なんかに乗せられた日には、明日あたり志保ちゃん情報で何を言いふらされるか

分かったもんじゃないからな。

「なっ、何言ってるんですかせんぱい!もし、せんぱいに・・・せんぱいに・・・何かあったら

私・・・・・・私・・・・・・・」

葵ちゃんは今にも泣き出しそうだ。

「葵ちゃん・・・・・大丈夫だよ、こうやって動かさなけりゃ、痛みはあまりねえからな」

「ほ、ほんとう・・・・・ですか?」

「あぁ、ほんとうだ。だけどこれって、こう言うのを肩がはずれたって言うんじゃないか?」

「あっ、そういえばそうねぇ、うん、確かに肩が外れてるように見えるわ」

「じゃあ、話は簡単だな。綾香、肩を入れてくれよ」

格闘技をやってればそのぐらいは出来るだろうと、頼んで見ると、

「う〜ん、私も出来る事は出来るけど・・・・・・・痛いわよ?」

「うっ!そんなに痛いのか?」

「上手な人がやれば、あまり痛く無いって聞くけど、私、やり方は知ってるけど、実際に

やって見た事はないから」

出来ればご遠慮したい。

「あっ、そうだ、葵ちゃんはどうだ?できるか?」

「私もやりかたは知ってはいますけど、実際にやった事は無いんですよ・・・・・・すみません」

「う〜ん、やっぱり救急車の世話になるしか無いのか?」

出来れば、それだけは避けたかったが・・・・・・仕方ないかも。

俺があきらめかけた時、綾香が言った。

 

 

「仕方ないわ、あの娘に頼むしかないわね」

 

 

 

『雨の日の4人』 につづく

 

 

 

 

 

 

 

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