『雨の日の4人』   

 

 

 

 

綾香は携帯を取り出すと、どこかにかけ始めた。

しばらくして、

「もしもし、あたし、ちょっと来て欲しいんだけど、今、どこにいるの?」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

その後、2言、3言話して、

「じゃあ、すぐにおねがいね」

そう言って携帯を切った。

「なあ、誰にかけたんだ?」

「その道のエキスパートを呼んだの」

エキスパートって、いったい誰だ?

 

連絡して1分もたたず、その相手はやって来た。

「おまたせいたしました」

やって来たのはセリオだった。

「なんだセリオの事だったのか、たしかにエキスパートだな」

セリオなら安心だ。

「それにしても、早かったな」

連絡してから1分たっていない。

「はい、ちょうどバス停に向かっていた所でしたので」

セリオが使っているバス停はちょうどゲーセンの前辺りにある。

それなら納得だ。

「セリオ、ちょっと肩が外れた見たいなんだ、入れてくれるか?」

「はい、では、ちょっと失礼いたします」

そう言うとセリオはどこから取り出したのか針を1本出した。

その針をぷすっと、俺の首筋に突き刺した。

「ちょ、ちょっと、セリオ大丈夫なの〜」

綾香が心配して聞いてくる。

「はい、はずれた肩を入れ直す時は、かなりの痛みを伴うのでちょっと針麻酔を・・・・・・」

確かに肩の感覚が鈍くなってきた。これなら多少の痛みには耐えられそうだ。

 

「セリオ、覚悟を決めたから、グイッとやってくれぇ!」

セリオはうなずくと、

「では、いきます」

グキッ!

「うっ!」

いやな音と共に肩がはまった。麻酔のおかげであまり痛みは感じ無かった。

「もう、大丈夫なのか?」

「はい、大丈夫なはずです。試しに動かしてみてもらえますか?」

肩を動かして確認してみる。

「おぉ、痛くない、直ったみたいだ。セリオ、本当にありがとな、助かったぜ」

「いえ、浩之さんのお役にたててうれしいです」

セリオの顔に微笑みが浮かんでいる。

 

「せんぱい、もう大丈夫なんですか?痛くありません?」

葵ちゃんが心配して聞いてきた。

「あぁ、大丈夫みたいだ、心配かけたみたいだな」

落ち着いて周りを見ると、遠巻きにチラチラと見られている。

まぁ、ちょっとした騒ぎだったからな。でも、ちょっと恥ずかしいぜ。

「とにかく、ここ出ようぜ」

早々にゲーセンを後にした。

 

 

俺達は、とりあえずヤックに向かった。

「みんなに迷惑かけたからな、今日は俺がおごるぜ、なんでも頼んでくれ」

「いいんですか?せんぱい?」

「あぁ、好きなもんを頼んでくれ」

葵ちゃんはうれしそうにメニューを見いっている。

綾香の方は、

「すいません、このヤックのスペシャルバリューに、アップルパイも付けて、

後、デザートにアイスクリームと・・・・え〜と、後なにかあるかな〜」

人のおごりだと思って頼みまくっている。

「綾香、お前すこしは遠慮ってものを考えないのか?」

「仕方ないわね〜、じゃぁ私はこれだけでいいわ」

それだけでも、十分ヤックのフルコースに近い量だ。

綾香は『じゃ、先行って席を確保しておくわね』と言って席の方に向かった。

セリオも続こうとする。

「あ、おいっ、セリオはもう頼んだのか?」

立ち止まり、怪訝そうな顔を浮かべるセリオ。

「いえ、私は・・・」

「遠慮なんてしなくていいぜ、すきなものを頼んでいいんだぞ」

「浩之さん、わたしはメイドロボットなので・・・物を食べる事は出来ません」

「あ、ごめん、そうだったな・・・わすれてたぜ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

セリオは何か複雑な表情を浮かべている。

その表情を読み取る事は出来なかったが、やがてセリオは、ふっ、と表情をやわらかくし、

「すみません・・・・・・」

とだけ呟いた。

 

 

俺達は席についた。

う〜ん、やっぱりセリオに何かお礼をしないと悪いな。

「なぁ、セリオ、やっぱ何かお礼したいんだけど、何かないか?たとえば何か欲しい

ものとか?」

「いえ、本当にお気になさらないで下さい」

でもなぁ、と食い下がる俺をさえぎって綾香が、

「セリオ、せっかく浩之がプレゼントしてくれるって言ってるんだから何か頼んでみたら?」

セリオは少し考えてから、

「わかりました」

「よし、なんでもいいぞ、欲しいものいってくれ・・・・・・・と言っても、あんまり高いものは

無理だけどな」

それでは、とセリオが言い、

「そのお人形を、いただけますか?」

セリオが指差しているのは、先程、ゲーセンのクレーンゲームで取った景品の人形だった。

「えっ、これか?こんなもんでいいのか?」

「はい、よろしければ、ぜひそのお人形を頂きたいです」

「あぁ、いいぜ」

俺は、セリオに景品の人形を手渡す。

人形を、ジーっと見つめるセリオ。

あまり表情に出ないのでわかりにくいが、喜んでくれているのかな?

「それ、気に入ったか?」

「はい、ありがとうございます」

「ほかにもまだ、あるけど、いるか?」

俺は、テーブルの上に、4〜5体の景品の人形を並べる。

「えっ!いいんですか?」

セリオの顔に驚きと歓喜の表情が浮かぶ。

「あぁ、セリオが喜んでくれるならな」

「では、あと1つだけ、いただけますか?マルチさんへのお土産にしたいので」

「いいぜ、マルチの事だ、きっと喜んでくれるぜ」

「はい、ありがとうございます」

今度は、顔いっぱいに微笑みを浮かべている。

どうやら、本当にうれしいみたいだな。

普段はクールなセリオだけに、なんかかわいいな。

 

 

ジ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

何か視線を感じる。

視線をたどると、葵ちゃんがうらやましそうに見ている。

俺が顔を向けると、はっ!として視線をそらす。

なんだ葵ちゃんも欲しかったのか?

「葵ちゃんも1つどうだ?」

俺は進めてみると、

「えっと、その・・・・・・・いただきます」

葵ちゃんはうれしそうに人形を見比べはじめた。

うんうん、素直でよろしい。

 

 

その後、俺達はしばらくヤックで話し込んでいた。

ふいにセリオが時計を見て、

「すみませんが、そろそろバスの時間なので、失礼させていただきます」

「あっ、じゃあ、私も帰るわ。セリオ、一緒に帰ろう?」

「はい」

セリオは、トレイなどを後片付けして、

「浩之さん、今日は本当にありがとうございました」

「なにいってんだよ、もともとは、俺の方が助けてもらったんだからお礼を言うのは、

こっちの方だぜ。今日は本当に助かったぜ、ありがとなセリオ」

セリオは少し考えるような仕草を浮かべ、

ペコリ

と大きくお辞儀をした。

「じゃあね浩之、次に逢うときまでには、もうすこし鍛えときなさいよ」

「おう、まかせとけ、バリバリのマッチョになってやるぜ!」

綾香は何かを想像して、

「マッチョはやめときなさい!」

と真剣に言った。

冗談の通じねえやつだ。

 

 

 

綾香とセリオは帰っていったが、俺と葵ちゃんはしばらく話していた。

そろそろ帰らないと、辺りが薄暗くなってしまう。

「葵ちゃん、そろそろ帰ろうか?」

「はい、そうですね」

俺達はヤックをでた。

外はまだ雨が降っている。

「雨、まだやまないなぁ」

「そうですね、いいかげんやんでくれると思ったんですが・・・・・」

「葵ちゃん、家まで送るよ」

俺は傘を開いて葵ちゃんを誘う。

「えっ、でも」

「葵ちゃん、傘持ってないだろ?」

「はい・・・・・そうですね、じゃあ、ご好意に甘えちゃいます」

葵ちゃんが傘に入ってくる。

俺達は帰路についた。

またもやあいあい傘だ、雨に感謝だな。

 

 

「なんかせわしない1日だったなあ」

俺が疲れた顔でそう言うと、

「えぇ、そうですね」

葵ちゃんはクスッ、と笑い、

「せんぱい、明日からは肩を鍛えましょうね」

「そうだなぁ、肩を鍛えるにはどうすんだ?」

「それはですねぇ・・・・・」

その後、練習法について2言、3言話していると、

ふいに雨がやんだ。

「あっ、せんぱい?雨、上がりましたよ」

葵ちゃんの言葉に、

「・・・・・・そうみたいだな」

それでも俺は傘を閉じなかった。

「あの・・・・・、せんぱい?」

葵ちゃんが伺うように俺を見る。

「もう少し、もう少しだけ、このままでいようぜ」

俺は照れながらそう言うと、

葵ちゃんは優しく微笑み

「はい」

と言ってくれた。

 

その瞬間、少しだけ2人の距離が縮まったように見えた。

 

 

 

『雨の日の4人』  END

 

 

 

 

 

 

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