『私のともだち』  

 

 

 

 

精神を集中させる。

私の中に力が溢れてくるのが判る。

ゆっくりと両腕を前に構え、溢れ出る力を目の前に転がっているボールに向けて解放していく。

ボールは、目に見えない力によって徐々に動きはじめ、そして少しずつ浮き始めた。

その時……

 

 

「すごいっ! すごいです!!」

えっ!

突然の大声に驚き集中が途切れ、ボールが落ちる。

声のする方に視線を向けると、そこには体操着姿の女の子が驚いた表情でこちらを見ていた。

あっ………超能力を使う所を見られてしまった。

 

「あっ、あの……今のはですね………」

「今のって、気功ですよね♪」

「えっ、あの………」

「凄いです〜、こんなに気を操れるなんて……」

「だから………」

「私……話には聞いてたけど、実際に目にするのは始めてなんですよ。本当にあったんだぁ気って」

「………………」

「ねぇ、どうやって気を集めるんですか? 何か特殊な練習法でもあるんですか?」

一方的に質問を浴びせ掛けられる。

 

興奮している女の子は、私の話を聞こうとはしてくれません。

「あのぉ〜………私に関わらない方がいいですよ。……そのぉ……危険ですから」

「へ? ………気功ってそんなに危険なもんなんですか?」

女の子はわたしの力を気功だと勘違いしているようだ。

 

「この力は気功じゃないんです、 そのぉ…………超能力なんです。自分でも制御出来ない………

とても危険な力なんですよ」

「超能力? 気功……じゃなかったんですか……………あっ! す、すいません、私、勝手に

勘違いして、手も触れずにボールを動かしたからてっきり私……気の力で動かしたんだと……」

ようやく勘違いに気付いてくれた。

「……気にしないで下さい」

「はぁ〜………」

女の娘は深い溜息を付くと、

「そうですか……気功じゃなかったんだぁ……」

とても残念そうに呟く。

「???」

普通ならこの力が超能力だと知って驚くと思ったんですが、この子の場合、気功じゃ無かった事で、

残念がっているようだ。

 

 

「処で、さっきは何をやってたんですか?」

女の子は疑問に思った事を聞いてきた。

「先程はですね……すこしでもこの力を制御できるようにと思って、練習してたんです」

ここなら人も来ないだろうから安全だと思ってたんだけど………ん? そういえば、

「あなたはなぜここに?」

ここは学校裏の神社、あまり人が来るような場所ではないと思ったんですが……

 

私の質問に、女の子はにっこりと笑い、答えてくれた。

「えへへ……ここはですねぇ。 エクストリーム同好会の練習場所なんですよ」

エクストリーム?

私の表情に、疑問符が浮かんでいたのでしょう……女の子は私の表情を読みとって、

更に詳しく教えてくれた。

「あぁ、え〜とですね………わかりやすく言うと、格闘技のクラブなんですよ。 ………と言っても、

まだ部員が2人しかいませんけどね」

そう言って、恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべる。

 

「そうなんですか………」

せっかく見つけた練習場所だったんですが……また、他をさがさなくちゃいけませんね……

私が、そんな事を考えていると、

「あの……練習……少し見ててもいいですか?」

えっ?

「あっ 先輩が……もう1人の部員が来るまででいいんですけど」

「ダメです!! この力は本当に危険なんですよ……私、自分でもうまく制御できないんです……もし、

あなたにケガでもさせたら…………」

「大丈夫ですよ……私、鍛えてますから。 それに……少し離れて見てますから……いいですよね?」

 

「怖く…ないんですか? 不気味だって思わないんですか?こんな力を持っているのに……この力が

暴走して…あなたを傷つけるかもしれないのに」

女の子は、とても悲しそうな目で私を見詰め……

「でも、そうならない様に練習してるんじゃないですか」

励ましの言葉を掛けてくれる。

でも、そんな事はわかってる……わかってるけど……

「どんなに頑張っても……頑張っても………ダメかもしれないじゃないですか!」

もう誰にもこの力で迷惑をかけたくないの。

 

 

「不安なんですね、頑張っても、結局、無駄なんじゃないかって」

え?

「その気持ち、私にもわかります。………以前の私がそうでしたから……」

どうゆう意味?

私は疑問の表情を浮かべる。

「私には、目指してる人がいるんです」

唐突に、女の子は語りだした。

 

「私……その人に追いつきたい……そして勝ちたい。 その為に、毎日毎日練習を重ねてきました。

でも1人じゃ……限界があるんですね。ずっと不安でした。こんな事やってていいんだろうか?

もしかして私がやってる事は、無駄なんじゃないかって……」

本当に不安だったんですよぉ、と女の子が照れくさそうに呟く。

 

「ある日、試合をする事になったんです。 でも、いざ試合が始まった時、不安で不安で、

堪らなくなっちゃったんです。私なんかが…勝てる訳が無いって、そんな事ばかりが頭の中に

浮かんで来ました。 ………でも……その時、先輩が言ってくれたんです。

『葵ちゃんは強い!』…って、『俺が断言する間違い無く葵ちゃんは強い!』…って、

私……その言葉を聞いて、胸の中に堪ってた不安が消し飛びました。」

ここで一呼吸置いて、私の目を見詰め、

「私の場合は、結局その先輩の言葉のおかげで、いままでやってきた事に対する不安は、

なくなりました。ようは、無駄だと思ってやってる内は結局無駄なままなんです。出来ると

思った時に初めて道は開けるんだと思うんです」

女の子は話し終わると、少し照れくさそうに、頬を掻く。

 

私……確かに思っていた………どうせ無駄だろう…と、いつも後ろ向きに考えてた。

不意に、あの人の言葉が頭をよぎる…

『やるだけやって、それでもダメだったらその時はまた、考えればいい』

 

そうだね……あきらめてちゃ…前に進めないもんね……

「私……、やってみようかな」

少し微笑みながら、上目遣いで女の子の顔を覗き見ると、

「はい、頑張って下さい♪ 私も応援しますから」

女の子は、はじけるような笑顔で激励してくれた。

ふふっ……、何だか頑張ろうって気にさせる子だなぁ……。

 

 

「あっ、そう言えば、まだお名前も知りませんでしたね」

「ははっ……そうでしたね、私は1年C組、松原葵です」

「私は、1年B組の姫川琴音です」

松原…葵さん…………同い年だったんですね。

………この娘と……葵さんと友達になれたら……きっと楽しいだろうなぁ……

すこしの間をおいて……私の中のありったけの勇気と思いを込めて、言葉にした。

「あのぉ…………もし、よかったら……私と……お友達になってもらえますか?」

「はいっ! こちらこそよろしくお願いします」

松原さんは、飛びっきりの笑顔で即答してくれました。

 

 

タッタッタッタッ・・・

 

 

誰かが走ってくる足音が聞こえて来た。

「あっ、多分先輩ですよ、琴音さん…紹介しますね、とってもいい人なんですよ」

しばらくすると、階段を上がって浩之がやって来た。

 『先輩』 『藤田さん!?』

2人は同時に声を上げ、顔を見合わせる。

「琴音さん、先輩の事……知ってるんですか?」

「葵さんの言ってた先輩って……藤田さんの事だったんですか」

私達は、互いに驚きの声を上げる。

そんな私達を見て藤田さんは、

「葵ちゃん、琴音ちゃん? なんで2人が一緒に?」

私は、葵さんと顔を見合わせ、堪え切れずに笑みを溢した。

そして、二人で一緒に、こう言いました……

 

『だって、私達……友達なんですよ♪』

 

 

とまどう藤田さんをよそに、私達は何時までもクスクスと笑いあっていました。

 

 

                                     おしまい♪

 

 

 

 

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