『2人の出会い』
それは、今朝の事でした。
新しい友達を紹介する、と先生に連れられて入ってきたのは、メイドロボだった。
彼女の名前は、セリオ、うちの新型メイドロボだ。
先生に促されてセリオが挨拶を始める。
「みなさん、初めまして、私は、HMX−13型、通称セリオと申します。今日から運用テスト
としてしばらくみなさんと一緒に勉強させていただきますので、よろしくお願いします」
ペコリ、とお辞儀する。
流暢な挨拶に、クラスのみんなはざわめく。
いままでのメイドロボと言えば、いかにもロボット、と云う対応しか出来なかったものだ。
セリオは新型だけあって、かなり人間に近い対応が取れるようだ。
本当にメイドロボなの?
と、疑問を持って私に聞いてくる人さえいた程だ。
私も、事前に聞いてはいたけど、実際に逢うのは今日が初めてだった。
外見はほとんど人間そのものだし、たぶん耳のセンサーを外したら、
区別出来ないんじゃないだろうか?
そんな事を考えながら、昨晩の事を思い出した。
昨晩は、いきなりおじいさまに呼び出されて、こう頼まれた。
「綾香、明日からお前の通っている学校に、ウチの新型メイドロボが運用テストで
通う事になった。よかったらお前、面倒見てやってくれんか?」
「メイドロボ?なんで学校なんかでテストするの?」
「テストに適しているからじゃよ。ほれ、人間も学校で、勉強以外にも人付き合いなど
色々学ぶじゃろ」
その時は、面白そうと思って気軽に引き受けたけど・・・大丈夫かな?
まぁ、硬く考えないで、私なりにやればいいか。
休み時間になるのを待って、セリオに話し掛けてみる。
「ねえ、私の事は知ってる?」
「はい、綾香様」
丁寧に敬称つきで答える。
「綾香でいいよ。おじいさまから頼まれたんだけど、何か困ったことがあったら
なんでも相談して、力になるわよ。もちろんクラスメイトとしてね」
「はい、ありがとうございます」
セリオはしばらく考える仕草をみせて、
「では、早速ですが教えてもらえますか?」
「OK、なに?」
「友達を作るには、どうすればよろしいですか?」
はぁ!?
そんな事考えてたの?
「う〜ん、そうねぇ〜、セリオが友達になりたいって人がいたら、素直に聞いてみたら?
『友達になってもらえますか?』って」
私のアドバイスに、
「わかりました」
そう言うと、私の顔をジ〜〜〜っと見つめ、
「私と・・・友達になってもらえますか?」
そう聞いてきた。
「えっ! わ、わたし?」
「はい、だめ・・・・でしょうか?」
すこし悲しそうな顔をされる。
私は、慌てて、
「だめな訳ないじゃない、もちろんOKよ」
「ありがとうございます。綾香様」
「セリオ、友達に対して綾香様は、変よ。ちゃんと綾香って呼んで」
セリオは、少し困った顔をして、
「では、綾香・・・さん、でよろしいですか?」
「う〜〜ん、まぁ、いいわ、これからよろしくね♪」
「はい」
その瞬間、
いままで、セリオの事が気になってて、聞き耳を立てていた人達が、
「綾香だけずるい〜、私も友達になってくれる?セリオさん」
「あぁ、抜け駆け〜、私も、私も友達になってね?」
話す切っ掛けが出来た級友達は、我先にとセリオに詰め寄る。
戸惑いながらも、丁寧に対応していくセリオ。
そんなセリオを見つめて、
『なんか、楽しくなりそうね』 私はそんな予感を感じていた。
それからの毎日は、ほとんどセリオと一緒に過ごした。
学校でも家でも、まるで新しい姉妹が出来たように・・・・・
セリオは、私の格闘技の練習にも付き合ってくれた。
驚いた事に、セリオは格闘技に関しても優秀だった。
何の格闘技データをダウンロードしたのかは知らないが、いままでに見た事も無い技で
私の組み手の相手を務めてくれた。
おそらく、本気で戦ったら私より強いんじゃないかと思うときがある。
そんな充実した毎日を過ごしていく内に、私はセリオの事を、親友のように思うように
なっていた。
ある日の夕刻。
「旦那様、芹香お嬢さま、只今お戻りになりました」
「ごくろうだったな、長瀬。お前が付いていてくれるから芹香に関しては安心じゃ」
ねぎらいの言葉を掛ける。
「その事ですが、綾香さまの方はよろしいのですか?」
「うむ、あれの方にはな、セリオを付けた」
長瀬は難しい顔をして、
「あのようなメイドロボットでは、いざと言う時、役に立たないのでは無いですか?」
「その心配は無い。あれの体は特別製でな。市販の体とは別物じゃ。それにな、特別な
格闘技を使っておる」
「特別・・・ですと?」
「あれにはな、若かりし頃のわしの格闘術をデータとして渡しておいた」
おぉ〜〜〜〜
長瀬は驚愕している。
「あ、あの 『来栖川の青き稲妻』 と呼ばれた旦那様の、あの幻の格闘術を・・・それならば
安心して綾香お嬢様を、お任せ出来ますぞ」
うんうんと納得している。
「しかし、あの綾香お嬢様がよく承諾されましたな〜、私のお迎えでさえもあんなに
嫌がっていたものを」
「そのことだがな、あれには護衛だとは言ってはおらんのだ」
「なんですと!」
「運用テストだから面倒を見てやってくれ、とだけ言ってある」
ううむ・・・
「ではこの事は・・・」
「うむ、くれぐれも他言無用じゃ」
2人は気付かなかった、今の話を聞いていたものがいた事を。
セリオが護衛!?
綾香は、今の話を偶然聞いてしまった。
運用テストでは無く、自分の護衛としておじいさまが付けた・・・・・・・・・・
じゃあ、セリオはおじいさまの命令だから私と一緒にいるの?
私達、友達だったんじゃないの?
綾香の中に葛藤が生まれた。
次の日から、私はセリオの事を避けるようになった。
普段も、セリオの方からはあまり話し掛ける事は無かったので、私が話し掛けないと
自然と会話は無くなった。
時々、何かいいたげな様子を見せる事もあったが、
それでも、セリオは綾香と一緒に行動した。
学校への行きも帰りも・・・・・・・
ある日、
「もう、ついてこないで!」
思わず怒鳴ってしまった。
セリオはピタッ、と立ち止まり、
「私の事が、・・・・・嫌いになりました?」
セリオは、とても悲しそうな顔をしている。
「そんなの・・・・・・」
「私は綾香さんが好きです。こう言ってもよければ、親友だと思ってます。
初めて逢った時から・・・・・」
セリオの言葉を途中で遮って、
「初めて逢った時って、どうせ、おじいさまに命令されて私の所に来たんでしょ!」
ふるふる、と首を振る。
「もっと前の事です」
えっ?
「私が綾香さんに初めて逢ったのは・・・・・」
セリオが語りだした。
今から半年程前の事です。
その頃には、私にはまだ、体というものがありませんでした。
けれど、私という存在、自分という自我は目覚めてました。
その時は、早く体が欲しい。そして、外を自由に走り回りたい、そういう思いで一杯でした。
そんな時です。HM開発課のTVで綾香さんを見かけたのは。
スタッフの中に格闘技のファンの方がいたんですね。
来栖川のお嬢さまが出ていると言って、他のスタッフ達を集めて観戦していました。
その時です、初めて綾香さんに逢ったのは。
TVを通しての一方通行でしたが、TVの中で自由奔放に動き回る綾香さんの姿に、
私は憧れました。
私もいつか、あんな風に自由に・・・そして、TVの中のあの娘といつか一緒に・・・・・
そう心に願いました。
その後、しばらくしてわたしの体が出来あがりました。
その頃です、会長に呼ばれたのは、
会長は私に『綾香の護衛をやってくれないか?』 と言ってくれました。
決して命令した訳ではありません。
私はうれしかった、これで綾香さんと一緒にいる事が出来る。
そして・・・もしかしたら友達になれるかもと・・・・・・・
あの日、学校で綾香さんが話し掛けてくれた時、本当にうれしかった。
私みたいなメイドロボットと友達になってくれた・・・・・・・・本当に幸せでした。
静寂
沈黙が続いた後、
「もし、綾香さんが、私といる事が、友達でいる事が嫌だと言うのであれば・・・・
私は・・私は・・・・・・・・」
その時のセリオの顔は、とても辛そうだった。
あんなに好きだったセリオに、こんな悲しい顔をさせてしまった。
「ごめん」
私はセリオに謝った。
「私、セリオの事、友達だって言っときながら、信じ切れなかった、
ごめん・・・・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・・・・・・・」
自分が情けなくて、涙がポロポロ零れ落ちる。
そんな綾香をいたわるように、
「気にしてはいません。だって、綾香さんは初めて出来た、私のお友達ですから」
「セリオ?」
「綾香さんは私の事を、人間の方と同じ様に扱ってくれました。本当にうれしかった」
見上げると、とっても優しく微笑むセリオの顔があった。
「うわぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
私は、セリオの胸に飛び込んで子供の様に泣きじゃくる。
「セリオ、セリオ、ごめん、ごめんね〜・・・・」
それからしばらくの間、私は泣き続けていた、
思いっきり泣いたら落ちついてきた。
「ふふっ、何かカッコわるいとこ見せたわねぇ」
「・・・・・・・・・・・・」
「私、こんなにも自分が子供だったなんて思わなかったな?」
「・・・・・・・・・・・・」
「ねえ、何か言ってよ、恥ずかしいじゃない」
「綾香さんが、そんな姿を見せてくれるのは、私の事を信頼してくれているからですよね?」
そこで、少し照れた様な仕草を浮かべ、
「そんな、綾香さんが私は大好きです」
私に話し掛ける時のセリオの微笑み、優しい眼差し、その全てが私は大好き。
クスッ
でもこれって、まるで愛の告白じゃない。
「セリオ、何か変わったね」
「そう・・・・なんですか?自分では分かりません」
「そうよ、はじめはもっと、無表情で感情を表に出してなかったよ」
セリオは首を傾げている。
見方によっては照れている様にも見えた。
「ねえ?」
「はい、なんでしょう」
「いつまでも、友達だよ、セリオ」
「はい」
セリオの顔には、私の大好きな微笑みが浮かんだ。
これが2人の出会いでした。