『素敵な出会い』
ある日の即売会、
「なあ由宇、今回は何のジャンルなんだ?」
俺は何気に聞いてみた、
「ふふふ、今回はいつもの由宇ちゃんやないで〜」
やけに気合が入っている。
「今回は、うち、完全オリジナルやねん」
「オリジナル?でも由宇ってこないだ、『モモちゃんってメッチャ可愛いなぁ』って
言ってなかったっけ?」
そう、あの時は大志と2人で一緒になって、強引に薦められたんだったな。
たしかに、薦めるだけあって面白かったけど。
「てっきり、今回はモモちゃんでいくと思ってたけど・・・・・・・」
「そりゃ〜モモちゃんは好きやけどな、ウチかてたまにはオリジナルで自分の力を
試してみたい、そう思う時もあるんや」
「へぇ? そう言うもんなのか?」
「あたりまえや! いいか、パロディやったら、お客さんも、ある程度キャラってもんが
わかってるから多少腕が未熟でもごまかしが利く、せやけどオリジナルはそうはいかん!
作家の実力がはっきり出る、ウチの力が試されるんや!」
言われてみると確かにそうだな。俺も何時かチャレンジしてみるか。
「で、オリジナルという事は、創作系のブロックだな」
俺は、館内マップを見ながら聞く。
「そや、うちソッチの方は知り合いがおらんでさみしいんや、あんた、後で遊びに来てんか」
「ああ、それはいいんだけど、場所はどこだ?」
「え〜と、確か、コの31bや」
どれどれっとカタログをチェックすると、
「あれ、彩ちゃんの隣じゃないか?」
「あやちゃん?なんや、和樹、知り合いかいな、どんな娘なん」
「う〜ん、そうだな、実力はかなりあると思う、・・・・それに、とってもいい娘だ・・・・・」
「なんや、歯切れわるいな?なんか訳ありかいな・・・・・・・よっしゃ!それならウチに
まかしといて、どんな娘か知らんけど、あんたの知り合いなら悪いようにはせん、任しとき」
パタパタパタパタ
そう言うと自分のブロックの方に走っていった。
何か心配だな。後で様子でも見にいこう。
え〜と、コの31、コの31っと、あった。
自分のスペースに来て隣を見回す。
右隣のスペースに、ポツン、と女の子が1人座っている。
ずいぶん静かで大人しそうな娘やな〜
この娘がたぶん、和樹の言うとった、彩ちゃんって娘やろ。
とりあえず、挨拶でもしとこか。
「あんた、もしかして、彩って娘?」
「えっ・・・・・・・」
突然、自分の名前を呼ばれて、動揺している。
「・・・・・・どうして・・・私の名前を?」
「やっぱり、そうやったんか、ウチは猪名川 由宇、和樹の友達や」
和樹の名前が出た事で、安心の表情を浮かべる。
「和樹さんの・・・・・」
「そう、今日は1日お隣さんや、仲良くしてな〜」
「は、はい・・・・こちらこそ・・・よろしくお願いします・・・・・・」
丁寧にお辞儀を返す。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その後の会話が続かない。
なんや、この空気は耐えられんな。よっしゃ!
「そうや、彩ちゃん」
とりあえず、打ち解ける為に話し掛ける事にした。
「はい・・・?」
「和樹に聞いたんやけど、彩ちゃん、同人誌の方はかなりの実力って話やけど」
彩ちゃんは、驚いたように顔を上げる。
その後、悲しそうな表情を浮かべ、
「違うの・・・・・・」
えっ?
「私・・・・・実力・・なんて・・・・・無いの・・・・」
け、謙遜してんのかな?
「またまた、そんなこと言うて、もういけずやわ〜、よかったら彩ちゃんの本読まして
くれへんか?」
「私の・・・本・・ですか?・・・・読んで・・くれるの?」
彩ちゃんは、驚きと期待のこもった目で聞き返してくる。
「ウチ、こうみえても同人誌を見る眼には自信あるんよ」
そこで言葉を切って、
「ただし、お世辞とかは絶対いわん。つまらんかったら正直につまらんって言う。
それでもよかったら読ませてくれへん?」
彩ちゃんは、神妙な顔をして、
「・・・・・お、お願い・・・・します」
と言って本を差し出した。
・
・
・
・
しばらくして、本を閉じる。
無言の由宇。何かをジッと考えているようだ。
「あ、あの・・・どう・・・でしたか?」
由宇は、彩ちゃんの顔をジーっと見つめ。
「そうやな、約束やったから、正直に感想を話す」
ゴクッ
彩ちゃんはかしこまって、背筋を正す。
「まず、この表紙、はっきり言って地味すぎる。この表紙じゃストーリの面白さを
お客さんに伝えられんし、これじゃ、手に取って読んでももらえん。それから、この
人物の描写、このほのぼのとしたストーリにこの劇画タッチの絵じゃ、読み手が
戸惑う。ストーリにあった、やわらかいタッチで書かなあかん、それから・・・・・・・・」
その後も、いくつか問題点を挙げていく。
問題点を挙げられる度に、彩ちゃんの表情は暗くなっていく。
『もう、いいです』 『もう、いいですから』
心の中で何度もそう呟く。
和樹さんが、面白いって言ってくれたから、やってこれたけど・・・・でも・・・もう・・・・・・
「・・・・・でもな、このストーリや、すごいんは!斬新な切り口で先を読ませないストーリ展開、
それでいて最後まで飽きずに読者を引っ張っていく。構成、演出どれもウチが今まで
読んできた中でも、かなりのもんや」
えっ?
「まだまだ荒削りやけどな、あんた、いいもん持ってる。自信持ちや」
えっ??
「あ、あの・・・・」
彩ちゃんは、よく分かってない表情を浮かべている。
しゃあないな〜
「面白かったよ。 あんたの本、面白いよ」
今度は、ハッキリと言ってあげる。
「・・・・・おもしろい?・・・・私の・・本が?」
「そや、確かに、いくつかまずい所はある。せやけど、それを補ってあまりある程、
話が面白いんや」
その瞬間、彩ちゃんの眼から涙がこぼれ落ちる。
「えっ!ちょ、ちょっと彩ちゃん?どうしたんや、ちょっと言い方がきつかったんか?
そりゃ〜きつい事も言ったかもしれんけど・・・・・・・」
ふるふるふるふる
「違うの・・・・」
微かに呟くように言う。
「うれしかったの・・・・私の本、読んで面白いっていってくれたの、和樹さんの他には、
始めてだったから・・・だから・・・うれしいの」
「なんや、こそばゆいな〜」
あまりの喜び様に、由宇も照れくさくなって、頭をかいている。
ピンポンパンポーン
「ただいまより、こみっくパティーが開催されます・・・・・・・」
「あっ、ほら、彩ちゃん、こみパはもう始まったんや、もう泣き止んで、しっかりお客さんに
読んでもらおやないか」
「・・・はい」
その表情は、妙に晴れ晴れして見えた。