『素敵な出会い』   

−はじめての呼び込みー    

 

 

 

 

こみパが始まってしばらくたった頃。

 

「いらはい、いらはいっ!見るだけならタダやっ!スキに読んでってえな〜!」

由宇の呼び込みの声が創作ブロックに響く。

また、別の人が目の前を通ると、

「ちょっとっ!そこのカッコええあんちゃん♪ よかったらウチの本、

読んでってえな〜、冷やかしだけなら、タダやで〜?」

    ・

    ・

    ・

    ・

「ど〜も、ありがとう、また来てや〜」

ふぅ〜、やっぱオリジナルは、読んでもらうまでがひと苦労やなぁ〜

手に取って読んでもらえれば、自信があるんやけどな。

一息ついて、

ど〜れ、彩ちゃんの方は、っと隣を見ると・・・・・

ポツンとうつむき気味に黙り込み、さみしそうに売り子をしている。

まるで、そこだけが周りから孤立しているように、ひっそりと静まり返っている。

あっちゃ〜〜、お客さんが近づきにくいオーラが出まくってるなぁ。

これじゃ、手に取ってもらうのも難しいなぁ。

 

ここは、おせっかいかもしれんけど、ウチが・・・

「彩ちゃん、呼び込みやってみいへん?」

「えっ??・・・・・・呼び込み・・・・ですか?」

「そや、多くのお客さんに、読んでもらうには、呼び込みが1番効果的や」

「そう・・・・・・なんですか・・・・?」

いまいち思い切れない彩ちゃん。

「彩ちゃんかて、いろんな人に本、読んでもらいたいって思うてるやろ?」

「・・・・・・・はい、それは・・・そうです」

よし、もう一息、

「ウチなぁ、本が売れたらメッチャうれしいねん。ウチの本を読んで、楽しいって、

思いを共有してる、そう感じるんが楽しいんや」

由宇は楽しそうに話している。

「けどな、売れ残ったりすると、本がかわいそうで悲しいねん。

ウチがもっとしっかり売ってれば、って・・・・・・・

だから、後で後悔せんように、思いっきり呼び込みをするんや。

これで売れなんだら、ウチの実力が無かったって事であきらめもつく」

「・・・・・・・・・・・・」

由宇の話しに、彩ちゃんは真剣な表情で、

「本が・・・・かわいそう?」

と、呟く。

彩ちゃんは少し考えた後、

「由宇さん、わたし・・・・やって、みます・・・・」

そう答えた。

「よっしゃ〜!それならウチが正しい呼び込みっちゅうもんを、教えたる」

彩ちゃんは、真剣な顔で、

「はい、・・・よろしく・・お願いします」

こうして、由宇の正しい呼び込み講座が開かれた。

 

 

 

 

 

「と言う訳や、わかった?」

コク

彩ちゃんは頷く。

「よ〜し、今日からは、ウチの事は師匠と呼びや〜」

「はい]

何の疑問も持たずに、返事を返す、彩ちゃん。

「い、いや、一応ボケたつもりだったんやけど・・・・何か調子くるうわ」

気を取りなおして、

「と、とりあえず、笑顔やで、彩ちゃん」

「はい、・・・やって・・・見ます」

そう決意を固め、ぎこちない笑顔を浮かべる。

 

 

 

スペースの前を人が通りかかった。

「あ、あの・・・・・・・・・・・・」

彩ちゃんの呼び込みには気付かずに、通り過ぎてしまった。

 

また、別の人が通りかかる。

こんどこそは、っと心に決めて、由宇に教わった呼び込みを試す。

「そ、そ、そこの・・・・カ、カッコ・・・イ・・イ・・・・・・お兄さん・・・

またも、気付かずに通りすぎようとする。

彩ちゃんは、心の中で呟く。

 『和樹さん、私に勇気を下さい・・・・』

えぃっ!

 

 

クイクイ

「えっ?」

彩ちゃんは、通り過ぎようとする人の袖を引いた。

その人は、突然の事に戸惑いの表情を浮かべて、

「あの〜、俺になにか?」

サッ、っと本を差し出す。

「え〜〜と、読めって事なのかな?」

こくこく

少し考えていたが、まあ、いっかと言う感じで本を手に取ってくれた。

ペラペラと頁をめくっていく。

初めは、仕方なくって感じだったが、次第にその表情は真剣なものになり、

ついには最後の頁まできた。

 

「あ、あの・・・・・・・どう・・ですか・・・?」

彩ちゃんが恐る恐る聞くと、

「うん、面白いよ! 初めはちょっと地味だなぁ〜って正直思ったけど、

読んでみると面白かったよ。 よかったら、この本売ってもらえる?」

「えっ!・・・・・・あ、ありがとうございます」

自然に溢れ出る満面の笑みで答える。

お金を受けとって、お釣りを渡していると、

「ねえ君? 次のこみパにも出るの?」

「は、はい・・・・そのつもり・・ですが・・・??」

「じゃあ、次もまた来ますね。新作期待してますよ。それじゃあ」

そう言うと別のスペースに歩いていった。

彩ちゃんは、ぼーぜんと立ち竦む。

 

「彩ちゃん、やったやないか〜。次も来てくれるって!よかったな〜」

由宇の言葉に、ハッとして、

「は、はい、ありがとうございます。これも由宇さんのおかげです」

「・・・・・・・って言うか、結局ウチが教えた呼び込みは、あんま関係無かった

ようやな気もするけど・・・・まあ、ええか? とにかくよかったな〜、これからも、

この調子でどんどん、売っていこうな!」

「はいっ」

何か、吹っ切れた様な、元気な返事が返ってきた。

 

 

 

 

 

 

お昼を少し過ぎた頃、

「よお、どうだい? 2人共仲良くやってるか?」

和樹が様子を見に来た。

「あっ、和樹さん」

彩ちゃんがいち早く気付く。

「なんや、和樹、何しに来たん」

「おいおい、遊びに来いって言ったのは由宇だろ?」

「軽いジョークや、なにムキになっとるんや、これだから東京もんは・・・」

いつものくだらないやりとりが始まる・・・

クスクス

俺達の軽い言い合いを聞いて、彩ちゃんは笑っている。

「あ、彩ちゃん?」

「あっ! ご、ごめんなさい・・・あんまり、楽しそうだったから・・・」

彩ちゃんの反応がいつもと違う気がする・・・?

「彩ちゃん、何か感じが変わったね?」

「えっ? そう・・・ですか?」

「うん、明るくなった感じがする、それに、前にもまして可愛くなったよ♪」

「え、えっ??」

彩ちゃんは真っ赤になってうろたえる。

うんうん、この反応は、やっぱりいつもの彩ちゃんだ。

バシィッ

「こら!和樹、何、彩ちゃんで遊んでんねん」

ハリセンで叩かれた。

「痛ぇ〜、由宇!、何も叩く事はないだろ・・・」

「何、言うとる、純真な彩ちゃんをもて遊んで、和樹、あんた乙女の純情を

なんやと思とるんや」

 

 

 

また始まった2人のじゃれ合いを見つめながら、彩ちゃんは微笑む。

 

ちょっと前までは、とても考えられなかった、この楽しい時間。

何かに感謝したい気持ちで一杯です

 

この2人との素敵な出会いを・・・・・

 

 

 

 

 

 

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