…………。
「どうしてそんな事言うんだよ!」
「いえ、ですからその事については何度も言っているように、仕方の無いことなんです」
「だったらなんで頑張ろうとしないんだ!いつもの葵ちゃんらしくないじゃないか!」
「……やっぱりできません…。」
「くそっ!」
そう吐き捨てて藤田浩之は足早に去って行った…。
……。
ここは松原 葵ちゃんの家。
部屋の中では葵ちゃんがひざを抱えてベットにうずくまっている。
先ほど喧嘩をしてからすでに5時間が過ぎている。
あれから葵ちゃんは色々と考えた。
「だったらなんで頑張ろうとしないんだ!…」
浩之の言ったセリフが頭の中で繰り返される。
ちょっとした事が原因でしてしまった喧嘩。
「はあ…。やっぱり私が悪かったんだろうなあ。」
そうポツリと呟いて、枕元にあるぬいぐるみを手に取る。
それは浩之が今年の春に修学旅行で行った、北海道のお土産の狐のぬいぐるみだった。
名前は…
「ねえ…コン太。」
浩之が付けてくれた名前。
「藤田せんぱい怒ってるだろうな…。実際怒って帰っちゃったし…」
いつも近くで支えてくれていた浩之が急に遠くへ行ってしまったような気がして
不安になり瞳にはうっすら涙が浮かんでいる。
「はあ。どうにかして仲直りしたいな。」
葵は何とはなしにコン太に話しかけていた。
『ふ〜〜ん。そんなに困ってるんだぁ。』
「うん。今回はホントに怒ってたもの、せんぱい。」
『だったら私が助けてあげよっか?』
「うん。助けてもらえるなら助けて欲しいな…ん?!」
『まかせてよ♪』
「え?私誰と話してるの?ええっ?!」
突然コン太が光り輝き出すとむくむくと大きくなっていき、だんだんと人に形になっていく。
葵が慌ててベットから転げ落ちると、コン太は完全に人…女のコになっていた。
「さって!私にまかせてちょうだいね!」
「あのう…」
「ん?どしたの?葵。」
「あなたは…コン太、じゃないですよね…」
「ああ、普段はそう呼ばれてたけどホントはもっと可愛らしい名前があるの。」
「なんていうの?」
「へっへ〜ん、真琴。 沢渡 真琴って言うんだ。可愛いでしょ!」
「はあ…」
突然コン太が「沢渡 真琴」という少女に変身してしまった。
呆然と立ち尽くす葵。
よ〜せ〜マコP!〜ToHeart&Kanon MixSS〜
「朝〜、朝だよ〜。朝ご飯食べて学校行くよ〜。早く起きてよ〜♪」
「名雪…。起こしてくれるのは良いが…もう少し早く起こしてくれ…」
「え?今何時?」
「8時30分」
「…。」
……。
「あのう…真琴。学校行くけどやっぱり一緒に行くの?」
「当たり前よっ!行かなきゃ私の目的が果たせないじゃないのようっ。」
「そうだよね…」
昨日は突然コン太が真琴と名乗る人物に化けた。
で、話を聞くとなんでも『コン太』に宿っていた
「心やさしく、成績優秀、その上とても可愛く、どんなことでもお任せ。」(本人談)
な狐の妖精らしい。(^^;
そこで葵が困っていたのを助けるために出てきたと言うのだった。
まあ、葵はあんまり乗り気じゃなかったのだが、真琴の方はやる気満々なのであった。
「私にまかせておいてっ!」
とのことだった。
「でも、どうやって学校に入るの?」
「ああ、そんなのかんたんよ。姿を消して入っちゃえばいいのよ」
「え、じゃあどうやってせんぱいと仲直りさせてくれるの?」
「えっ?その…あうっ〜〜〜〜。」
「はあ。」
で、結局浩之の前では姿を表して、先生などにきかれてヤバくなったときだけ消える。
という葵の提案で解決した(^^ゞ。
カッカッ!
黒板にチョークで書く音が響く。
今は丁度1時間目の授業中。
場所は藤田浩之のいる2-A……ではなかった。
「あれ?また違った。あう〜〜〜〜っ。もう、教室が多すぎるのよぅ。」
まあ、確かに多いが、いちいち入らなくてもドアのところに「1-C」って書いてるんだし…。
しかも一階を探しても浩之のいる教室が見つかる分けはない。
葵は授業があるので放課後に「仲直り大作戦♪」(真琴が命名)を決行するらしい。
それまでに真琴は浩之の様子を調べておくのだそうだ。
「しかしみんなよく退屈じゃないよね、真琴だったら耐えられないのに。」
まあ、君にはムリだろう。(笑)
授業中いきなり立ちあがって『肉まん買ってきまーす』とか言って教室を出て行きそうだ。
と、生徒を見ていると一人の少女がこちらをじーーーっと見ている。
「なんだろう?まさか真琴の姿が見えてるのかな。でもちゃんと姿は消してるし…」
「じーーーーーーーっ」
「うっ、絶対真琴のこと見てるよおぅ。」
キーンコーン、カーンコーン〜♪
と見詰め合っているうちに授業は終わってしまった。
すると突然その少女が真琴に向かって歩いてくるではないか。
真琴は怖くなって逃げ出した!
「あうーーーーーーっ!こあいのようっ!」
ガラガラ…
たったったっ…
真琴は階段の近くまで走ってきていた。
「ふぅここまで来れば…って、うわーーー!すぐ近くまで来てるぅーーー!」
そう、かなりの早さで走ったにもかかわらずさっきの少女はすぐ目の前まで来ていた。
そして逃げ出す真琴に一言。
「そこの階段、…あぶないですよ……。」
「え?」
そう言ったが時すでに遅し。
真琴は勢いよく階段を転げ落ちる。
「うわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
ごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろーーーーーーーーー!!!
どしんっ!!
「あうううっイタイ!イタイよう〜〜(T−T)」
まあ普通学校の階段から豪快に転げ落ちたらただでは済まないのだが、
真琴は根っからのギャグキャラクターだったので足のむこうずねを痛くしただけで済んだようだ。
「誰がギャグキャラクターなのよぅ!!」
いや、俺の声は聞こえない設定なので突っ込まれても…。
そして、足を押さえて涙目になっている真琴を見下ろしているさっきの少女は
「ニヤリ」
と笑ってその場を去って行った…。
昼休み。
やっとのことで浩之の教室を見つけた真琴だったが入れ違いに屋上へ行ってしまった
浩之のあとをつけて屋上に来ていた。
「いやあ、今日はあかりの弁当か。さんきゅ。」
「ううん。私も浩之ちゃんが食べてくれると嬉しいから…。」
「なに恥ずかしーこといってんだよ。」
……。
「はぁ、真琴もお腹すいたなぁ。」
とんとん。
「肉まんお弁当に入ってないかなぁ」
とんとんとん。
「ん?」
「………。」
「うわあっ!」
なにやら肩を叩かれていたので振り返ってみるとそこには
長い綺麗な髪の上級生らしき人が立っていた。
「なんで真琴に触れるし見えるのようっ!」
さっきから訳がわからない。
なぜ姿を消しているのに見つかったり触られたりするのか…。
「……。」
「えっ?なになに。あなたは何をしているのですかって?」
「こくこく。」
「そんな事よりなんで私が見えるのようっ〜」
「………。」
「えっ?強い霊力の塊を感じるだけで姿は見えない?」
「こく。」
「何でそんなの感じ取れるのよ〜〜〜」
そう言う真琴にかまわずなにやら本を取りだしまた小さい声で呟く。
「え?あなたを成仏させて上げますって?わーーーーっ!真琴は幽霊じゃな〜〜〜い」
そう言って逃げ去る真琴。
浩之達がいる方へと…。
「もうっ!なんなのようっこの学校は!これもすべてあんたのせいようっ!」
そう言って浩之の頭を叩こうとした時…
ピーンッ!
隣に座っていたあかりのリボンがふわっと揺れたかと思うと、
とつぜんあかりの目つきが変わった。
がしっ!!
浩之を叩こうとした真琴の腕は寸前の所であかりによって掴まれていた。
そしてそのまま片腕で掴んだまま真琴を放り投げた( ̄□ ̄!!)
「あううううううう〜〜〜〜っ!」
どしん!
「いたたたた…。もういやーー!」
そう叫ぶと真琴は姿をあらわした。
「どうしたんだあかり?急に…って、うおうっ!いきなり人が!!」
突然人が現れ驚く浩之。
「真琴〜〜〜!」
そこへ心配になって探しに来た葵ちゃんが屋上へと姿をあらわした。
「あ、藤田せんぱいに神岸先輩。」
「え〜〜と確か葵ちゃん…だったよね。」
「おお、葵ちゃんじゃないか、どうしたんだ?ってもしかしてこいつ知り合い?」
「はい、わたしの友達で沢渡 真琴って言います。」
「ふ〜ん、そうなんだ。」
「あ、そう言えばせんぱい。昨日はすいませんでした!」
そう言って頭を下げる葵ちゃん。
「あれから考えてみたんですが私の方が悪いですよね…」
「ん?ああ、昨日のあれか!いやあ、葵ちゃんは全然悪くないぜ!」
「えっ?そうなんですか…」
「浩之ちゃん昨日のあれって?」
あかりが聞いてきた。
「昨日葵ちゃんに
『どうしていつもの赤いブルマじゃないんだ!』
って言ったら、赤いブルマは全部洗濯してるらしくて青いブルマしかなかったらしいんだ。
俺はどうしても「ブルマは赤」という信念があったからつい、かーっ!となっちまって
葵ちゃんに、
『だったら乾燥機で乾かして来いよ!』
って言っちまったんだ。いやあホントにひどい事しちまって…ん?どうした?あかり…」
「浩之ちゃんの…」
「ん?」
「浩之ちゃんのへんたーい!」
ずばしゃ!!
どぐおうあっ!!!
どげぶしゃずべら〜〜!!!!
……浩之は大空高く、舞った。
……その光景はある種『綺麗』だった…。
「もう!いったいなんだったのようっ!私やられ損じゃないのよおっ!」
広く澄み渡った青い大空に、
真琴の声と
浩之が舞う音だけが、
響いていた…。
ちゃんちゃん♪
<あとがき>
さてさて、このたびは「10000ひっと」おめでとうございます。
た〜なさんにはいつもお世話になっているので、今回お祝いとして
「ToHeart&Kanon MixSS」というものを贈らせて頂きました。
なにぶん「Kanon」のSSはまだほとんど書いてないので
「真琴」の表現が未熟、もしくは「真琴じゃねー!」かもしれませんが、
その辺はご勘弁を。
これからも頑張ってください。
それではーっ。
99.7.28 ぽむぽむまるち