夕暮れの商店街……。
並んで歩く、大小二つの影。
恐らく、夕飯の買物帰りであろう。
買物袋を片手に下げている姿からは、そう伺えた。
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商店街の中程に差し掛かった頃………ふと小さな影の歩みが止まる。
どうやら前方に何かを見つけたようだ。
何か悩むような気配が漂い、伺うように隣を見上げると…。
「ねぇ…秋子さん、肉まん買ってもい〜い?」
上目遣いで甘えた声をあげる。
大きな影……秋子さんはにっこり微笑みながら答えた。
「えぇ…いいわよ。 でも夕飯が近いから1個だけね」
「あぅ……2個買っちゃだめ?」
(クスッ)
その仕草に、秋子さんは微笑をこぼす。
「そうねぇ………じゃあこうしましょう。 お母さんも1個買うからその半分を真琴に上げる。これで良い?」
「うん♪」
大きく頷き満面の笑み。
「うわぁ〜い。 にっくま〜ん♪ にっくま〜ん♪」
妖しげな歌を歌い上機嫌な真琴。
いつまでも笑顔が絶えない秋子さん。
はたから見てもとても仲良しな親子は、商店街の一角……肉まんを扱っているお店に向け歩き始めた。
幸せの時…番外編
『迷探偵まこぴ〜』
−(仮)隆山温泉湯煙旅情−
1
「おじさ〜ん、肉まん2個頂戴♪」
「あいよ〜、180円ね」
秋子さんが財布を取出し支払いを済ませると、おじさんは1枚の紙切れを差し出した。
「あぅ……何? これ…」
「あら福引券。 もうそんな季節なのね」
そう言うと秋子さんは福引券を懐かしそうに眺めた。
「ふくびきけん???」
真琴は不思議そうに小首を傾げる。
「ねぇ秋子さん、それって何なの?」
「真琴は福引を知らないの?」
「う…うん……」
ばつが悪そうに頷く。
「そうね……簡単に言うと、この券を持っていると景品がもらえるゲームに参加出来るのよ」
「えっ! 景品が貰えるの?」
途端に真琴の目の色が変わった。
「…………………………」
その様子に、余り期待させ過ぎるのも……と思ったのか、秋子さんはやんわりとフォローをいれる。
「まあ……運が良ければだけどね」
「…………………………」
だが真琴は聞こえていないのか、食い入るように福引券を見詰め続けた。
しばらく待っていると、ようやく真琴が口を開く。
「……景品……」
ぼそっと一言呟くなり秋子さんを見上げる。
「……真琴……やってみたい。 その券があれば、真琴も福引が出来るんでしょ?」
「ちょっと待ってね」
秋子さんは福引券に目を落とすと、書かれている文字を読みはじめた。
「え〜と…………………あら……」
表情が曇る。 そして残念そうに真琴を見詰め言った。
「どうやらこの券だけでは無理みたいね……」
「えぇ〜〜〜〜〜〜っ!! 何で? だってこれって福引券なんでしょ? だったら…………はっ!?」
急に何かを思いついたのか、真琴の表情が険しくなる。
そして、おもむろにお店のおじさんを睨み付けると…。
「そう……そう言う事なのね………」
口調が芝居掛かったものに変わった。
「あぅ………肉まんを売ってる人に、悪い人は居ない………そう信じてたのに……」
「ん? どうかしたのかい?」
突然睨みつけられたおじさんは困惑顔で答えた。
「ふんっ、とぼけても無駄よ! この名探偵真琴の眼は節穴じゃないんだからっ!!」
「は……はい??? おじさん、何を言ってるのか良く判らないんだが……」
「この後に及んで、とぼけるつもり!? ……見苦しいわね……」
「いや、だから……」
既に自分の世界に入り込んでいる真琴は、おじさんの話を聞こうとはせず自信たっぷり言い切った。
「この”偽”の福引券が
何よりの証拠なんだからぁ〜っ!」(ずびしっ)
怪しげなポーズを決めると福引券を突き出した。
「…………………」
おじさんは余りの事に声を失っていた。
「どう? うぐぅ〜の声も出ないでしょ〜♪」
両手を腰に添えて得意げに勝ち誇る。
そこへ、秋子さんがとても言いにくそうな顔で話し掛けた。
「真琴……違うのよ…」
「ふぇ?」
真琴はきょとんと見詰め返す。
「この福引券はね、別に偽者って訳じゃないのよ」
「えっ? だ…だってこの券じゃ無理だって……」
「違うの……この券はね……10枚一組で1回福引が引けるものなのよ」
「えっ………………………………と言う事は……」
真琴の額に嫌な汗が流れる。
「あぅ〜〜〜〜っ」
真琴はそう叫ぶなり目をぎゅっと瞑り俯いた。
「すみません。 うちの真琴がとんだ言いがかりを……」
「は……はは……べ、別に気にしてませんよ。 そちらの嬢ちゃんはウチの常連さんだからね」
「ですが……本当にすみません……」
秋子さんは、もう1度おじさんに頭を下げると真琴にも謝罪を勧めた。
「ほら真琴……ごめんなさいは?」
「あぅ…………ごめんなさい……」
「はは……だから良いって……」
真琴は反省してるのかしゅんと項垂れていた。
その様子に流石に可哀想だと思ったのか、おじさんが真琴に話し掛けてきた。
「え〜と……真琴ちゃん……だったね。 いつもウチの肉まん買ってくれて、ありがとうよ……」
「あぅ……だって……おじさんの肉まん…………美味しいから……」
「かぁーっ! 嬉しい事を言ってくれるねぇ〜、よし、これはおじさんからのサービスだ。 取っときな!」
おじさんはそう言うと、福引券の束から数枚掴み真琴に差し出した。
「えっ!?」
真琴はおじさんと福引券を交互に見詰める……。
そして、どうすれば良いのか困って秋子さんを見上げた。
「……あ、秋子さ〜ん……」
「ちゃんとお礼を言うのよ」
秋子さんはにっこり微笑む。
「……………う、うん……えと……その……あ、ありがとう………」
ペコリとお辞儀をしてお礼を述べると、真琴は福引券を受け取った。
「……福引……当ると良いな」
「うん♪」
真琴は、改めて手に入れた福引券をじっと見詰める。
「………………」
そして静かに呟いた。
「これ……きっと当る…………何だかそんな気がするの………」
「あら……それは名探偵としての勘?」
秋子さんの冗談めかした一言。
「!?」(キュピーーーーン)
その瞬間、再び真琴の目の色が変わった。
突如キョロキョロと辺りを見渡し、絶好のポジションを見付けると一目散に駆け出した。
そしてクルリと振りかえるなり得意そうにこう叫んだ。
「この福引…必ず当てて見せるんだから〜っ!
ぴろの名に掛けて!!」(ずびしっ!!)
妖しげなポーズを決めた。
なんでも、最近読んだマンガに出てくる台詞だとかで、この処好んで使っているようだ……。
「…………………」
「…………………」
夕暮れの商店街……。
通行人達の注目を一身に集めながら、真琴の怪しげな決め台詞が何処までも木霊していった。
(ぴろの名に掛けてっ……)
(ぴろの名に掛けてっ……)
(ぴろの名に掛けてっ……)
(ぴろの名に掛けてっ……)
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商店街のとある店の前。
「うぐぅ? この声は……」
少女は声の聞こえて来た方角を見詰める。
………その手には数枚の福引券が握られていた。
つづく
『あとがき』
読んで下さって、ありがとうございます♪
新しい物語のスタートです。
今まで、連載ものを完結させた事が無い、前科持ちの私ですが(笑)
今度こそは、完結目指して頑張ろうと思います(汗)
であ皆さん、何か少しでも心に感じるものがあれば、感想下さいね。
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2001年10月22日(月曜日)