幸せの時…番外編
『迷探偵まこぴ〜』
−(仮)隆山温泉湯煙旅情−
2
通りから中を伺うと、手前に設置された大きな横長のテーブルが見えた。
そのテーブルには真っ白な布が敷かれ、その上にはお馴染みの福引の箱が置かれている。
「秋子さん……あれが福引なの?」
「えぇ、そうよ……あの箱に取っ手が付いてるでしょう?」
「うん」
「あれを回すと、中から色がついた玉が出てきてね、その玉の色によって貰える景品が決まるのよ」
「ふ〜ん」
真琴は立ち止まって、物珍しげに建物内を見回す。
「ねぇねぇ…あれは? あのボードは何?」
真琴は福引の箱の横に立て掛けられていたボードを指差す。
「あぁ、あれはね、貰える景品のランクが書かれてるの。 ほら1番下に白い玉の絵が書かれてるでしょう?」
「うん」
「福引の箱から白い玉が出てきたら、あの白い玉の絵の横に書かれているティッシュが貰えるの」
「え〜〜〜っ、ティッシュ? ………真琴そんなの要らないよぅ」
「………まあゲームみたいなものだから、ハズレも用意されてるのよ」
「あぅ……し、白い玉は絶対に出さないようにしなきゃ……」
真琴はそう心に誓い、福引の会場に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ〜♪」
出迎えたのはまだ若い……と言っても真琴よりは多少年配の20才位のお姉さんだった。
恐らく福引期間中に雇った学生アルバイトだろう。
すかさず二人の前に進み出ると、ニッコリ微笑む。
「福引券はお持ちですか?」
「えと、これで良いの?」
真琴は福引券を差し出す。
「はい、お預かり致します。 1枚…2枚…3枚………14、15枚っと……」
とんとん…と机の上で福引券の端を叩いて揃える。
「では10枚1組となりますので、残りの5枚はお返し致しますね」
余った福引券が返される。
お姉さんはコホン…とひとつ咳き込むと、説明を始めた。
「こちらが景品になります」
背後に積み重ねられている景品の山々を手で促す。
「今年は例年以上に、素晴らしい景品の数々をご用意させて戴きました。 きっとお客様にご満足いく……」
マニュアル通りなのか、滑らかな口調で説明を続けた。
「そして、今年の特賞は…」
「ねぇ」
「…は、はい?」
丁度山場に差し掛かったお姉さんの説明を遮って、真琴が話し掛けた。
「……肉まんは無いの?」
「へっ?」
思ってもいなかった質問だったのか、お姉さんはあっけにとられている。
「だから、肉まんっ!」
「も、申し訳ございません。 景品の中に肉まんは、ちょっと……」
「あぅ……じゃあ、マンガは?」
「そ、それもちょっと……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
妙な沈黙。
そして真琴がぼそっと呟く。
「……………品揃えの悪い店〜」
お姉さんのこめかみに、血管がピクッと浮かびあがった。
(こ、このクソガキがぁ………)
心の声が聞こえて来るようだ。
よくみると、テーブルの下では拳がぷるぷると震えていた。
場の雰囲気を察したのか、秋子さんが助け舟を出した。
「え〜と……それで今年の特賞は何なんですか?」
その質問に我を取り戻したお姉さんは、ニッコリ営業スマイルを作り直し…背後を促した。
「はい、こちらになります」
そこには大きなパネルがあった。
そのパネルには、温泉に入っている綺麗な女の人の写真と、豪華な食事風景が張り付けられていた。
「日本有数の温泉地、隆山温泉の桔梗屋さんへ、ご家族様3泊4日ご招待です〜♪」
「あら、家族なら何人でも良いんですか?」
「はい、結構ですよ。 あっ、でもお部屋の方は2部屋しかご用意出来ませんので、その範囲で……と云う事になりますが……」
「そうですか……真琴。 これを狙って、みんなで温泉に行きたいわね」
「温泉?」
「そう、みんなでお風呂に入って、美味しいものを食べて、お泊まりするのよ」
「お泊まり? ……わぁ〜楽しそう♪ うん、真琴これを狙う〜」
そして………
カラン……コンコンコン………
「………………」
「……あら……」
箱から出て来たのは…………白い玉だった。
「白い玉は…………はい、6等で景品はこちらになります」
さっ、と差し出されたティッシュ。
「……………………」
真琴はティッシュをじっと見詰めて固まった。
「あの………景品を……」
中々受け取らない真琴に、再度お姉さんが景品を差し出すと……。
「………今のは練習………」
そう呟き、再び福引の箱を回し始めた。
「お、お客さん。 ダメですよ!?」
お姉さんは慌てて箱を押さえた。
「あぅ〜、もう1回だけだからぁ〜」
「ダメです。 そういう決まりなんですから。 福引券が無いと、これは回せないんです」
「福引券なら……はい……」
真琴が差し出したのは、残った5枚の福引券。
「…………残念ですけど、後5枚足りないですね」
「じゃあ、半分で云いから回させて」
「ダメです〜っ」
「あぅ…………………ケチ…」
(こ、このクソガキがぁ………)
又もや、お姉さんの心の声が聞こえて来るようだ。
「真琴……残念だけど、今日のところは諦めましょう? また福引券を貰ったら真琴に上げるから……」
「あぅ……」
秋子さんにそう言われると反論出来ないのか、真琴はしょぼんと項垂れた。
その時だ。
福引会場に大きな声が響き渡った。
「あっ、やっぱり居たっ!!」
つづく
第2話です♪
どうでしょうか?
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2001年10月23日(火曜日)