フィアッセのコンサートも終わりはや3ヶ月。

俺と美由希は、今、一つの決断に迫られていた。

 

「………本当…なのか?」

「うん」

美由希は重苦しく頷く。

「昨日……フィリス先生に見てもらったの」

上目遣いで俺の顔色を伺う。

「……3ヶ月だって…」

 

「………………そ、そうか……」

突然の事に、俺はそう呟くのがやっとだった。

 

 

 

                      とらハ3SS 

『恥ずかしい記録』  

                                 By た〜な

 

 

 

 

「……………」

美由希は不安げな眼差しで俺の答えを待っている。

………が、俺は何と声を掛けてやればいいのだろうか?

正直嬉しかった。 素直に喜んでやりたい。

だが、美由希はまだ学生の身だ。

将来の事もある。

果たして素直に喜んでもいいものだろうか?

様々な事が頭の中を駆け巡り、俺は掛ける言葉が浮かばなかった。

 

「………」

黙り込んだ俺に、美由希の表情が曇る。

美由希はギュッと唇を噛み締めると思いきって口を開いた。

「あのね、恭ちゃん………………私ね……私…あの……」

躊躇いつつもはっきりと続ける。

「私……産むよ……」

真剣で強い眼差し。

「恭ちゃんが反対しても、私…産むからね……」

 

「…………………」

 

掛ける言葉はまだ見つからない。

だけど俺の想いは決まった。

いや本当は考えるまでも無い……最初から決まっていたのだから。

俺はゆっくりと美由希の頭に手を伸ばす……。

 

ぽん

 

「あぅ」

怒られると思ったのか美由希は身を竦せた。

「よくやった」

(なでなで)

そのまま頭を撫でる。

「えっ……きょ…恭ちゃん。」

美由希は何が起きたのか分からず瞬きを繰り返す。

「どうした? そんな顔をして……」

「あの……産んでもいいの?」

恐る恐るといった感じで聞き返す。

「当たり前だ……俺達の子だろ?」

俺は美由希を見詰め、出来る限り優しく囁いた。

「恭ちゃん……」

みるみる美由希の目に涙が浮かぶ。

「うっ……ひっく……うぅ………きょ…恭ちゃ〜ん……」

「馬鹿。 泣く奴があるか…」

俺は震える肩を抱き寄せてその背を優しく撫でる。

美由希は俺の胸に顔を埋めると子供のように泣きじゃくった。

「だって…だって……私、嬉しかったんだよ。 とっても嬉しかったんだよ………ひっく……ぐすっ……」

「全く……しょうがない奴だなぁ。 それでも御神の剣士か?」

「御神の剣士でも………ぐすん………嬉しい時は泣くんだよ……」

美由希は緊張が途切れたのか大声で泣き崩れた。

「うわぁぁあぁぁ〜〜〜〜〜っ」

 

俺は美由希が泣き止むまで、ずっとその背を撫で続けた……。

 

 

 

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しばらくすると泣き声が止む。

どうやら、落ちついたようだな。

 

「もう……大丈夫か?」

「うん」

美由希は目元を拭うと顔を上げた。

「ありがとね。 恭ちゃん」

「……………な、何がだ?」

俺は急に気恥ずかしくなり顔を背ける。

そんな俺を見て、美由希はくすっと微笑み、何でもないと云う風に首を振る。

そして……。

「!?」

腕に柔らかい感触が……。

「えへへ〜♪」

美由希が甘えるように体をすり寄せてきた。

「恭ちゃん……これからも、ずっと一緒だよ♪」

「……あぁ…そうだな……」

俺はそう言うと、ゆっくりと美由希の肩を引き寄た。

「あっ…」

美由希の頬が朱に染まる。

「ずっと、一緒だ……」

「…………うん……」

美由希は静かに頷くと、瞼を閉じた。

 

      ・

      ・

      ・

      ・

      ・

 

…………ゆっくりと二人の体が離れていく。

目の前には少し照れくさそうにしている美由希の顔。

恐らく、俺も同じような表情をしているのだろう……。

俺は照れくささも手伝ってか、少しだけ現実に戻って話し掛けた。

「これから……大変だな……」

「うん、覚悟してるよ」

美由希は力強く頷く。

「だが、産むとなると、正直…俺達の手には余るな」

「…………」

俺はしばし考える。

「…………俺達の事……かーさん達に話すか」

「……うん」

 

 

翌日、俺と美由希は、リビングにみんなを集めた。

二人の関係を伝える為に……。 

 

 

 

 

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高町家リビング

「恭也〜……何? 話って……」

かーさんがリビングに顔を出す。

「あ、あぁ……その、みんな揃ってから話すよ」

「……そう?」

かーさんは首を傾げる。

「かーさん、なのはは?」

「えっ……え〜と…………ちょ、ちょっと遅れるけど、直にくるわよ……」

「?」

かーさんは何故か慌てて答えた。

 

しばらくすると廊下から足音が響いてくる。

やって来たのは晶だった。

晶はリビングに入るなり、俺を見つけ駆けよってきた。

「師匠〜。何ですか…話って?」

「あぁ、ちょっとみんなに大事な話しがあるんでな……詳しくは、みんな揃ってから話す……」

俺はかーさんに言ったのと同じ事を繰り返す。

「……えと……はい……」

晶は怪訝そうに首を傾げつつも頷いた。

 

ぱたぱたぱたぱたぱたぱた……

 

続いてやってくる足音。

「お師匠ーっ!」

レンは入ってくるなり涙目で俺に詰め寄った。

「お師匠〜。 庭の盆栽を割った犯人なら、あのおさるの仕業ですー。 ウチは関係ありませんー」

「?」

(何の事だ?)

行き成り意味不明な事を訴えかけられた。

「あっ…てめぇー、あれは元はと言えば、お前が原因だろ!」

「うわっ、晶!? いつからそこに……」

「初めからだっ!!」

晶は憮然と答える。

「うっ……えと……その……………おほほー」

レンは開き直ったのか高笑い。

「晶くん? みょ〜な言掛かりはやめてくださいー。 ウチは全然、全く、塵一粒すら関係あらへん」

「どの口がそういう白々しい事を吐くんだ。 どの口が…」

晶はレンの頬を引っ張る。

「あきぃらぁ〜。にゃにぃふゅるねぇん」

毎度毎度のいつもの喧嘩が始まった。

 

(……お、俺の盆栽……無事なんだろうか……)

 

「レン……盆栽が割れたって話……本当なのか?」

「えっ? あ、あの……お師匠? 今日はその事で呼ばれたんじゃ…」

「いや、違う………が、その事については後でじっくりと聞かせてもらおうか」

「しもたっ!」

「この馬鹿」

晶がレンの頭を小突く。

「痛っ! な、何するーっ」

レンが反撃の一撃を繰り出そうと手を振り上げた……。

 

「あぁーーーー。 二人とも、また喧嘩してるぅーっ!」

 

「あっ、なのちゃん」

丁度なのはがリビングに入ってきた。

なのはは二人の喧嘩を見つけると険しい顔でお説教をはじめた。

「ふたりとも〜。今日は大事な日なんだから喧嘩なんかしちゃダメだよ〜」

「大事な日?」

晶とレンは首を傾げる。

「なのちゃん…今日って何か特別な日だった?」

「えっ!? あっ…はわわ……な、何でも無いです……。その…ちょっとした言葉のあやだよぉ(あせあせ)」

「???」

みんなの顔に疑問符が浮かぶ。

「えと…えと……(あせあせ)」

我が妹は、これ以上ない程うろたえている。

「ま、まあ、なのはも来た事だし、恭也……そろそろ話し、はじめない?」

かーさんの助け舟になのはは胸を撫で下ろした。

「あ…あぁ、そうだな……」

俺は多少……と云うか、かなり気にはなったが取敢えず頷いた。

 

 

 

 

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リビングのソファーにみんなを座らせると、俺と美由希はみんなの前にたつ。

「みんな……驚かないで聞いてくれ…」

俺は一言前置きすると、美由希を見て意思を確認する。

美由希はコクンと頷く。

「実はな……………」

皆が息を飲んで俺の次の言葉に注目する。

「…………実は……俺と美由希は付き合ってるんだ。 その……つまり恋人と言う事になる……」

 

シ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン

 

リビングが静まりかえる。

まあ無理も無い、形の上では兄と妹の禁断の恋……って奴だからな。

俺は静かにみんなの反応を伺った。

「あー、えっと………」

なんとも歯切れの悪い口調の晶。

「………お、おめでとう…ございます」

「あ、あぁ……」

何か引っかかる態度だ。

だがレンの態度はもっと不可解だった。

 

レンは晶の袖を掴むと、ちょっと離れた処に引っ張って行き、何事か囁き合う。

 

 「(なあ、あの二人………もしかして、付きおうてる事、隠してたん?)」

 「(多分そうだと思う……あの口ぶりだとな……)」

 「(あんなん誰が見てもバレバレやん)」

 「(でも”あの”師匠と美由希ちゃんだぜ…その手の事にはとことん鈍いからな……)」

 「(うっ、確かに…)」

 「(お前も、話……合わせておけよ…)」

 「(お、おう……)」

 

レンはコクンと頷くとこちらに近づいて来た。

「あーその…お師匠〜、美由希ちゃん。 えと…この度はそのぉー……おめでとうございますー。 ………あはは〜」

最後の方は、殆ど笑って誤魔化すと言うような感じだったが一応祝福してくれたようだ。

多少引っ掛かりを覚えないでも無いが、概ね順調だ。

さて問題は……。

俺は、さっきから一言も口を開かないかーさんの様子を伺う。

かーさんは相変わらず無言で、そしていつになく真剣な表情だった。

その沈黙が俺の心に重くのしかかる。

「恭也」

おもむろにかーさんが口を開いた。

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

みんなの視線がかーさんに集まる。

「本気?」

「えっ?」

俺は一瞬かーさんが何を言ってるのか分からなかった。

かーさんは話を続ける。

「本当に……美由希の事……1人の女性として好きなの?」

「どういう意味だ」

思わず俺は声を荒立てる。

「可愛い妹。可愛い弟子……その延長じゃないと言えるのかって事よ……」

「かーさん。私達…」

「美由希は黙ってなさいっ!」

思わず口を挟んだ美由希を強い口調で制す。

こんなかーさんを見たのは初めてだった。

「どう、恭也。 この場ではっきりと言える? 美由希をどう思っているのか」

かーさんは俺の瞳をじっと見詰める。

その真剣な眼差しに答えるよう、俺も真剣に答えた。

 

「俺は…………美由希を愛してる。 妹としてではなく1人の女性としてだ。

確かに妹として、愛弟子として可愛がっていた時期もあった。 それは認める」

俺は、隣で心配そうに見守っている美由希を見詰め微笑む。

「でも今は違うとはっきり言える。 俺が生涯……命を掛けて守りたい女性……それが美由希だ……」

「……恭ちゃん……」

美由希は口元に手を当て目を潤ませる。

 

「……………そう…」

かーさんは静かに頷くと、ニッコリ微笑んだ。

俺は、ほっと胸を撫で下ろす。

いつものかーさんの顔だったからだ。

かーさんは更にニンマリと怪しい笑みを浮かべると、なのはに話かけた。

「どう? なのは。 ちゃんと撮れてる?」

「うん、ばっちりだよ♪」

「???」

「???」

何事かとなのはを見ると、その手にはビデオカメラが握られていた。

「どういう事だ?」

俺と美由希は顔を見合わせる。

「馬鹿ね〜。あんた達が好きあってることなんて、とっくにバレバレよ♪」

「うっ……」

「あやや…」

「恭也……あんたの愛の告白シーンは、ばっちりと記録させてもらったからね」

かーさんはとんでもない事をさらっと告げると美由希に向き直る。

「美由希……これはかーさんからのプレゼント。 恭也が浮気したら使いなさい」

美由希は目に涙を浮かべながら微笑んだ。

「うん。 大事に使うよ……かーさん」

 

「使うな!」

 

照れ隠しの俺の抗議は、その場の全員によって即座に却下された。

 

 

   おしまい

 

 

 


 あとがき

ここまで読んで下さったみなさん。

ありがとうございます。

このSSを持ちまして、HP開設2周年を向かえる事が出来ました。

ここまで続けてこられたのは、ひとえに御来店して下さった皆様のおかげです。

改めてお礼申し上げます。

さて、2周年……と云う訳で、色々と試験的に、今まで苦手としていたちょっぴり真面目なシーンに

チャレンジしてみましたがどうだったでしょうか?

自分ではちょっと違和感等も覚えますが、慣れてくれば多少はましになる事でしょう(汗)

 

今はまだ、自信を持ってお薦めは出来ませんが、日々努力は続けています。

いつか大化けして、みなさんを感動(笑い?)の渦に巻き込むような物語を

書き上げられるよう、暖かく見守って下さいませ。

 

であ、みなさん。

感想などありましたら下さいね。

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2001年5月1日