高町家縁側
床に座布団を敷き、その上に正座で佇む美沙斗さん。
のどかな庭の風景を眺めながら、湯呑に両手を添える。
ずずっ…
一口お茶を啜ると静かに呟いた。
「………お茶が…うまい」
しみじみと一言。
平和な一時であった。
とらハ3SS
『美沙斗さんとひなたぼっこ』
By た〜な
ずずっ…
私は更に一口お茶を啜ると茶請けに手を伸ばす。
「ん?」
茶請けには大福が1つ。
ふむ…どうするべきか……。
ちらっ
隣を伺う。
そこにはこのウチの子供(確かレンちゃん…だったな)が、とても幸せそうな顔で寝転んでいた。
「うー。ごろごろ〜♪」
子供特有の可愛らしく意味不明な独り言。
思わず笑みが浮かぶ。
(……可愛いものだな……)
微笑ましくその姿を見詰めていると……。
「ん?」
私の視線に気付いたのか、レンちゃんは照れたように微笑む。
「あー、あはは〜。 なんや……えーお天気ですねー?」
「そうですね……」
私の受け応えにレンちゃんは固まる。
「や、やーですよ……ウチに敬語なんてつこうたら。 普通にしたって下さい」
「あ…あぁ…」
長い事裏の世界にいたせいだろうか? 子供との接し方がよくわからないものだな……。
私が物思いに耽ると、レンちゃんの手が茶菓子の大福に伸びる。
「あっ!」
思わず声を出してしまった。
「はい?」
レンちゃんは不思議そうに私と大福を交互に見詰める。
「……どうかされたんですかー?」
「い、いや…別に……」
私は恥ずかしげに視線を逸らす。
レンちゃんはじっと考え込む。
そして何かに思い当たると……。
「………………あっ。 えと……その……ど、どうぞー」
遠慮がちに大福を差し出した。
「いや、しかし……」
「ええです、ええです。 お客さまを差し置いてウチだけが食べるなんて、ウチのプライドがよう許しませんし…」
「私の方こそ、子供を差し置いて食べる訳には……」
「ほんまに大丈夫ですー。 もうじきウチの下僕がお使いから帰ってきますから…」
「下僕?」
私が首を傾げるのと、玄関から怒声が響き渡るのが同時だった。
「だれが下僕だ。誰が!」
声のする方を見ると(晶ちゃん……だったな?)が、買物袋を片手に縁側にやって来る処だった。
「あー、晶くん〜♪ おかえりなさい……疲れたでしょ? ささっ、出すもん出したらさっさと消えて下さい」
レンちゃんは何気に酷い事を口にする。
晶ちゃんは私の元にやってくると、買物袋の中から包みを差し出した。
「美沙斗さん……これまめやの大福です。 お茶菓子にでもして下さい……」
そう言うと、指をポキポキ鳴らしながらレンちゃんを見据える。
「俺はあいつに、年長者に対する礼儀と言う物を教えてきますんで……」
「……あ、あぁ………」
私は大福を受け取る。
晶ちゃんは庭の中央に陣取るとレンちゃんに向かって手招きする。
「早く来い!」
レンちゃんは、めんどくさそうに……それでいて、何処となく楽しそうに起きあがる。
「はぁー。 しゃーないな………よいしょっと……」
勢いを付けて立ち上がると、縁側の端に立て掛けられていた棍を手に取った。
ブンブン
手慣らしに二度三度振り回す。
「ほぉー」
思わず感嘆の声が漏れる。
流暢な動き。
話には聞いてたが、かなりの使い手のようだな……。
二人は庭の中央で対峙する。
晶ちゃんはレンちゃんを、びしっ…っと指差した。
「おい、お前。 前から言おう言おうと思ってたけど。 俺の事……年上のお姉さんだと思ってねえだろ」
「としうえの、おねえさん?」
レンちゃんは一言づつ繰り返して、半眼で睨む。
「あははーっ、笑わせんなっ!!」
「くっ……今日と云う今日は、礼儀って云うものを教えてやるー」
「やれるもんならやってみー」
二人は構えをとる。
「………………ふむ……」
二人とも隙の少ない良い構えだ。
一体どう言う戦いになるのか、正直興味深いものがある………だが、止めなくても良いものだろうか?
この場に居る只1人の大人として、一応聞いて見る事にした。
「二人共………………その……なんだ。 止める気はないのか?」
「無いです!!」
「ありませんー!!」
即答だった。
「………そ、そうか………………では、ケガの無いようにな……」
『『はい』』
二人は元気良く返事を返すと、どちらからともなく間合を詰めた。
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「てぇーーーーーーーい!」
「とりゃーーーーーーぁ!」
二人の掛け声が青空の元響きわたる。
降り注ぐ日差しは相変わらず暖かい。
私は、ぽかぽかの日差しの中、ゆっくりと空を見上げる。
(ふむ………今日も良い天気だな……)
感慨深げに息を吐くと、湯呑に手を伸ばす。 そして……。
ずずっ…
一口お茶を啜ると静かに呟いた。
「………お茶が…うまい」
私は眼を閉じて、長い間忘れていた心休まる刻を噛み締める。
本当に……本当に平和な一時であった。
おしまい
あとがき
ここまで読んで下さったみなさん。
ありがとうございます。
今回は美沙斗さんの一人称で攻めてみましたがどうでしょうか?
かなり美沙斗さんと云うキャラの扱いに戸惑いましたが、今現在の私内での彼女は、こう言う感じです。
何か、少しでも心に感じるものがあれば、感想など下さいませ。
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2001年5月20日(日曜日)