憧れのアンコール(後編)
 
 

4月8日。

春休みが終り、今日からオレ達も2年生だ。2週間の休みをはさんで新たな節目

が訪れた今、オレも ちゃんとした高校2年生になるべく、少しづつ自分を変えて

いかなくてはいけないな。

「あっ、浩之ちゃんおはよう!」

声がした方を振り向くと、あかりが走ってくるのが見えた。相変わらず遅い走

り方だぜ、まったく。

「よう、久しぶりだな。休み中はどうだった?」

「うん、カダス解放戦線に一週間入隊してきたよぉ!」

……だめだこりゃ。

「お、おう、それで戦況の方は?」

「大変だったよぉ。私達に与えられた武器はトンプソン機関銃だけなのに、

あっちはキャリコM100とかレーザーブレードとか、あっ!タイガー戦車も

あったなぁ」

「ほうほう、って時代も国もメチャクチャじゃねーか!」

「ちなみに後期生産型だったよ!」

「聞いてねえってそんな事!」
 
 

桜の花が満開だ。休み中は全然外に出なかったから、季節が目に見える形

で移り変わってしまっていることに、ひどく新鮮な感じを受ける。オレが

ぬぼけぇ〜っ、と毎日を過ごしている間も季節は少しづつ移り変わってゆく。

春はなんだか中途半端で嫌だと言い、夏には暑いと文句を言い、秋は寂しく

って嫌だと言い、冬には寒いと文句を言う。そんなオレでもやっぱり季節が

巡ってゆくのを感じると、やっぱり日本はいいものだなぁ、と思う。

もちろん、世界各国その国その国ごとに素晴しいところはあるだろう。けれ

ども、やっぱり四季折々の風情を感じさせてくれる日本に生まれた事をオレ

は幸福に思う。

幸福。オレは幸福なのか?それを日々感じているのか?夢を見ているときに、

それが夢である、と判らないのと同様に、幸福の中にいるオレには幸福とい

うものが判らないのかもしれない。でもやっぱり、それでもいいと思う。不

幸なんていつ自分に襲いかかってくるのか判らないものだ。たとえば明日世

界が崩壊するかもしれない。今この瞬間に宇宙そのものが消滅してしまうか

もしれない。

だからこの、今日という平凡で退屈な日をめいっぱい楽しむ。この不確かな

少年期をあかりや雅史や志保なんかと一緒にオレは走ってゆける。みんなで

バカをやっていられることが、たまらなく嬉しい。

『もう少しだけ、一緒にいような、あかり…』

オレは振り向き、優しい瞳であかりを見る。

「でね、そのときレミィがグレネードランチャーを………」

あかりの話はまだ終っていなかった(泣)。
 
 

「やあ浩之!」

校門側に立っていた雅史が、オレ達を見つけて駆け寄ってきた。あいかわら

ずさわやかなヤツだ。

「おう、久しぶりだな。で、さっそくなんだが……」

「ふふ、わかってるって。再会のキスだね?」

ばきぃ!

「ヴェズペッ!…な、なにするんだよう浩之〜?」

「アホ!クラス編成はどうなったかを聞きたいんだ!」

なにが悲しくて新学期早々に男とキスせねばならんのか!

「うう〜…みんな一緒のクラスだよぅ」

「そいつはめでたい……って志保もかい。うげ〜、騒々しい一年間になりそ

うだなぁ……」

「楽しくていいじゃない?」

「しかしアイツが同じクラスとなるとだな……」

「ふふ、浩之ちゃんたら、うれしいくせに♀」

「こら、なんだその接尾語は!?」

「なんでもないにょ〜ん!」

下らないけど楽しい高校生活。……でもなんだか本当に心配になってきたぞ?
 
 
 
 

4月10日。

朝のHR前。眠い時間帯だ。その上昨日はテレビの深夜映画を見ちまったからな。

うむ〜、担任が来るまで寝ちまおうかなぁ〜、などと考えてると、志保がわめ

きながら教室に飛び込んできた。

「ちょっと!大ニュース中ニュース小ニュースなのよぉ〜っ!」

「どれかひとつにしろ!」

まったく、遅刻寸前で登校してくるなり何なんだコイツは。

「うっさいわねぇ、そんな事より聞いてよぉ〜!あのね……」

「いや、結構だよ長岡君。僕は君のガセネタには興味がないものでね、フッ……」

話を始めようとする志保を片手で制して、オレは余裕を見せてやる。

「バカヒロ!今度のは本当に大ニュースなんだってばぁ!」

「はぁ、わかったよ。聞いてやるって。HRまで時間もないことだし、簡潔にな」

どうせ粘ったって最後には根負けしちまうんだろうしな。

「ふっふぅ〜ん!それがね、なんと!今年の新入生の中に、超能力使いがいる

んですってぇ!キャーすごい〜!」

「ああ、姫川琴音ちゃんだろ?」

バカはオマエだ志保。そんな事は当の昔に知ってるんだよーだ!

「…ぼへみあ〜ん、こんな特ダネ見つけてくるなんて、ああ〜ん志保ちゃん最

高〜!やっぱり日頃の行いが………」

しかし志保は勝手に悦に入ってしまっており、オレの話なんざこれっぽっちも

聞いちゃいない様子だ。

「ねえ、ヒロもそう思うでしょぉ?アタシってすんごいわよねぇ〜ん!」

「あー、はいはい」

病黄色い救急車でも呼んでやろうか、全く………。
 
 

昼休み。オレはチャイムの音と同時に雅史の手を引っ掴んで購買までの道のり

をひたすら走りまくった。一日0.5個限定の超レアなパン、その名もスパイラル

サルモネラティンクルスタータイタニアゴッドファイナルマッドエクストラ

『喝ぁぁぁぁぁぁっ!』サンドをゲットする為にだ。

「はぁ、はぁ、頑張れ雅史、昼メシの星はすぐそこだ!」

しかし雅史の返答はない。

「どぉしたぁっ?もうヘバったかぁ、そんな根性なしでは神宮にゃ行けねえぞ!」

「……それは野球………しかも……大学の……………僕が目指……のはサッカー

…………インターハイだよぅ……………」

「ああ?どうした雅史?」

ここでスピードダウンしてしまうのは痛いが、雅史の声がおかしくなっているの

でオレは急ブレーキをかけて止まる。

「げべぇ!」

しかし慣性の法則に忠実な雅史はこらえきれず、オレの手を振り切って廊下の壁

にダイビングヘッドバットをぶちかます。

ごい〜ん!

「なんだなんだ、だらしがねえなぁ。もっとグリップのいい上履きを履いて来いよ?」

壁と垂直に顔面倒立をする雅史。よく首が折れないもんだ。

「……あ痛ぅ……なに言ってるんだい。足を地面に付けるヒマなんかなかった

よぉ………」

「修行が足りねえな。」

「うう…浩之ったら強引なんだからぁ………」

「ほら、とっとと首抜けよ。パンが売り切れちまうぜ?」

「わかったよぅ……ふん!」

ズボッ!………ガラガラガラガラ!

雅史が首を抜いた途端、壁が崩れはじめる。

「わわわっ!」

「ちっ、もういいから放っとけ。行くぞ雅史!」

オレと雅史は壊れてしまった壁を無視して購買へ急いだ。
 
 

「……平穏な世の中に堕落せず、格闘の牙を取り戻しましょう!」

首の座らなくなってしまった雅史を引きずりつつなおも走るオレの耳に入ってく

る穏やかではない言葉。

「…5000年前、我々の先祖は力によって生き延びてきました。そして以降も、力

による争いによって世界は成り立っているのです。しかし私がここで言いたいの

はそんな歴史の事ではありません。大切なのは『力の無い正義は無力なのだ』と

いう事です。」

……なんか最もらしい事を力説している女の子。あれは……新入生の松原葵ちゃん

だな?

「浩之?パンが売り切れちゃうよ?」

「うっさい。」

「でも……」

「おらよ!」

ぺっしぃ〜ん!と雅史の顔面に小銭をぶちまける。

「拾え、んでもってオレの分も買っとけ。」

「そんなぁ、横暴だよぉ!」

「黙りなさい。世の中お金を持っている人間だけが正しいのですっ。」

「うう………」

「とっとと行かんかぁ〜!」
 

どげしぃっ!
 

「ボールは友達ぃぃぃ…………」 
 

ゅるるるるるるるるるる……………………………べちょ。
 
 

渋る雅史を購買の方角にバナナシュートして、オレは葵ちゃんの話の続きを聞く。
 

「…自分の大切なもの、あるいは人を守るためにも、やはり力は必要なのです。

法治国家となったこの日本においてもそれは変わりません。卑怯者に自分を踏み
 
にじられて、かけがえのないものを失って、それでも突っ伏したまま頭を下げて

いられますか?それでいいのですか?いざという時の為に自分を守る力を持って

いれば、そんな悔しい思いをしなくても済むんです!」

うむ、なかなかの演説だ。しかし……

「…自分に自信を持ちましょう!生まれて、出会って、愛して、それでも人間は

一人なのです。最後に頼れるのは自分一人だけなのです。だからこそ…………」

「あのさ、話の途中で悪いんだけど、君、松原葵ちゃんだよね?」

ついにオレは声をかける。

「え、あ、はい?そうですけど……」

「ひとつ君に質問があるんだけど……いいかな?」

「はい……構いませんけど?」

オレは深呼吸をひとつして、葵ちゃんの目を見る。
 
 

「誰に話してるの?」
 

…ひゅ〜〜

風が語りかけます、うまいうますぎる、十万石饅頭!

……ではない。オレと葵ちゃん以外誰もいない渡り廊下を寒い風が吹き抜けたのだ。

「えっと、えっと、アリさんに……です。」

「……意味あると思う、それ?」

「……ないです、多分。」

……………………………………

……………………………………
 

沈黙。気まずい雰囲気。それを壊すべく、オレは更に質問をする。

「……なんで周りに誰もいないのに、あんな演説してたの?」

「あの、だからアリさんが…………」

「アリは人じゃないだろ?」

「はぁ………言われてみれば………」

大丈夫なのか、この娘は?

「……君さ、最近なにかドラッグとかやってる?」

「いえ、やってませんよ?」

平然と言う。

「……じゃあ覚醒剤とかは?」

「やってませんけど?」

「……宗教の人?」

「ウチは仏教ですが?」

「……UFOに連れ去られた記憶は?」

「ないですけど?」

「……体育倉庫に生えてるキノコ食べたりしなかった?」

「食べてませんよ?」
 
 

(ではなぜ葵ちゃんはこんなにもブっ飛んでんだ?)
 
 

「あのう、私どこかおかしいですか?」

「…うん、おかしい。」

意味もなく力強く答えるオレ。

「そうですか……やっぱり………」

しゅん、とする葵ちゃん。なんかかわいいなぁ………

「あ、いや、ごめん。そんなつもりじゃ………」

かわいい女の子には優しいオレはそこで素直に謝る。

「いえ、気にしてません。……あの、お名前教えて頂けますか?」

「え?オレ?藤田浩之って言うんだけど………」

突然名前を聞かれて、少し驚いてしまうオレ。純情少年真っ盛りなのさっ!

「藤田浩之さん………あの、藤田先輩、私と格闘技をやりませんか?」

うぉう、いきなりだな全く。

…でもこの気の毒な人になりかけの葵ちゃんを放って置く訳にもいかないかな。

「う〜ん、いいよ、やろう。」

てなワケでオレは葵ちゃんと格闘技の訓練をすることになってしまった。全く

もって作者の御都合主義だぜ。<ほっとけ!(作者)

「では藤田先輩、放課後になったら学校裏の神社に来てください。」

「ああ、わかった。」

笑顔の葵ちゃんにオレも笑顔で答える。

「伝説の樹の下で待ってます。」

「…………」

なんの話をしてるんだ、この子は………

「?」

「あ、いや悪い、とにかく放課後になったら裏の神社に行けばいいんだな?」

「はい、よろしくお願いします!」

ぺこりと頭を下げる葵ちゃん。礼儀正しくてよろしい感じである。

「では失礼します。」

「おう、また後でな。」

タッタッタッ…………

葵ちゃんが元気に走り去って行く。
 

タッタッタッ…………

……と思ったら戻って来た。

「どうした?」

「あの、お尋ねしたいんですけど……」

「え?何?」
 

「アンパンマンの顔って毒なんですか?」
 

「……食べたの?」

「はい、この間バイキンマンと戦って疲れているところを捕獲しましたっ♪」

「あ、そ………」

ダメかもしんない……………
 
 
 
 

4月11日。

昨日さんざん葵ちゃんの練習に付き合って、身体中がギシギシ言っている。

しかしそれでもやはり朝は来てしまうのだ。正直学校なぞ休みたいのであるが、

一人で寂しい時間を過ごすよりも多少無理してでもみんなの顔を見る方が楽し

そうなので、己自身に気合いを入れて行くことにした。

「ふ〜ん、練習ってそんなに厳しいんだ?」

「ああ。でもま、そのうち慣れるだろ。」

いつもの通りあかりと一緒に登校するオレ。今日は寝坊しなかったのでかなり

ゆっくりペースだ。あるいは昨日疲れた身体を癒そうと早めに寝たのが良かった

のかもしれない。痛みはあまり引いてはいないが、この身体で走るという拷問

の如き目に遭わないだけでもめっけもんだ。

「で、どこが痛いの?」

「ん?あ〜、背中の筋肉と太腿が特に、な。」

「ふぅ〜ん。……ふふっ。」

いきなりあかりが笑い出す。

「なんだよ、気持ちわりぃ〜な?どうかしたのか?」

「いや、ちょっとね。」

「なんだよ、言えよ?」

「ふふっ。『セナキンぱ〜んち!』とかやったら怒るのかなぁ〜、って♪」
 

「……香港に売り飛ばす!」
 

「じょ、冗談だってばぁ〜、もう、浩之ちゃんたら!」

だめだな、こいつ。ちなみに『セナキン』とは背中の筋肉の略称である。誰が

そんなアタマの悪そーなネーミングをしたんだか。

「サギサワメグム先生だよ♪」

「素で答えるなっ!」
 
 

いつもよりも早く着いた学校。校庭にも廊下にもまだ人影は少ない。

「一番乗りだったりしてね。」

あかりの言葉ももしかしたら外れていないかもしれない。

ガラガラ……

「ドラマティックな出会い〜!」

「のわぁぁぁぁっ!?」

しかしそうは問屋がおろさないらしい。教室のドアを開けた瞬間に飛びかかって

くる金色の影。やはり先人がいたか。

「ダイナマイトボディプレ〜ス!……OH!」

つるべちゃ!

一人でボケて、一人で自爆する。漫才の最終境地だ。

「ウゥ……つるぺたじゃないネ!ワタシはダイナマイトでボヨヨンでダダーン

だヨ?」

コケたままでなおもオレ達にタダで笑いを提供してくれるレミィ。

「なんだそりゃ?わけわからねぇぞ。」

「で、伝説の勇者……かな?」

「NO!それはダ・ガーン。」

あかりのつまらないギャグにもしっかりとツッコんでくれる。ある意味貴重な

存在だ。

「レミィよぉ、ドラマチックでも犬チックでもいいけど、ストーカーの様に待ち

伏せているのはどうかと思うぞ?」

「そうですカ?……ザンネンです。」

ふらふらと立ち上がってうなだれるレミィ。なぜかあかりが赤面しているのには

触れずにおこう。

「最近読書ばかりだったカラ、ボディがなまってるネ。」

と、アクティブなレミィのイメージからは想像できない様なセリフが飛び出す。

「なんだ、レミィって実は読書家だったのか?」

「ダカラ最近、ね。ここ二週間ばかり本ばっかり買って読んでるのヨ。」

「フ〜ン。」

「昨日も一冊本を買ったんだヨ?」

「ほうほう、どんな本だ?」

「フフ、とってもダメになる本だヨ?」

「そんな本買うなっ!」

はぁぁぁ………レミィももうダメだ。いつぞやの様にオールイングリッシュになって

いないだけマシだとは言え、な。

「アカリ、コレ読んでみる?」

「う〜ん、なかなか興味深いよ………」

「よさねえかっ!」

どいつもこいつも………。
 
 

昼休み。午前中の静養(いねむりとも言う)が効いたのか、かなり調子を取り戻した

身体をオーバーアクション気味に動かしながら、オレは雅史と一緒に購買に向かっ

て歩いていた。

「ねぇ浩之?今日はどうして走らないの?」

「ん〜?お前まだ首治っていないだろ?もともとオレのせいみたいなもんだし、

たまにはゆっくりってのもいいだろ。」

実は琴音ちゃんとぶつかるのがイヤだから、なのだが、まあ雅史に言ってもわから

ないだろうし、少しくらいは雅史の首の事を心配しているのも事実だ。

「別に他のパンだってマズいワケじゃねえんだし、どうしてもってんならランチ

メニューって手もあるしな。」

「浩之………そこまで僕の事を……(感涙)」

……やべぇ。

「わかってるよ浩之……男の子だったら『浩平』、女の子だったら『みさお』って

名前に……」
 

ごめすっ!
 

「ごふぁっ!な、何するんだよぅ〜?」

「どうしてヤロー同士でアタマの腐った話をせねばならんのだっ!」

「ふふ、僕らの愛はそれだけキケンって事さ♪そう、例えるならNASAの安全

基準なみに……」

「もう一発欲しいか?」

「やん、一発だなんて……ヒロ君のえっち!」
 

ぶすり!
 

「外道が……」

オレは床にうずくまる雅史を踏みつけて、一人購買へ向かった。
 
 

「ぐふぅ!……ね、ねえ、今のは何?テキストだと刺されたのか注射をされたのか

わからないんだけどなぁ……浩之、ひろゆ…ぎ……………かゆ……うま……」

謎の物体Xを体内にねじ込まれた雅史。このままタイラントになってしまうのか?

待て、次回。
 
 

「ちっ、ロクなモンが残っちゃいねえ。」

購買に着いたオレは、あまりの貧弱な残りものに呆れ返ってしまった。

パンコーナーにあったのは、アンパンが二個、アンキパンが一個、みそ汁パン

が四個、ドーナツが一個。……たったこれだけだ。

「しゃあねえ、Bランチで我慢すっかな……」

そうつぶやいた瞬間。
 

どすん
 

「きゃっ!」

「おっと。」

女の子がオレにぶつかってきた。

「す、すいません。」

「んにゃ、気にする事ぁねえよ。」

ちょっとシャギーが入ったヘアスタイル。憂いを含んだ目。……ってもしかして?

「藤田さん、やさしいんですね。私、そういう男の人って………」

「……ちょっと待て。」

「え?なんですの?」

「……てめえ!」
 

ばすっ!びりびり!
 

無理やり抑え付けて服を剥ぎ取る。

「ああ〜、こんな人目に付くところでは……」

「誤解されるような言い方をするなぁ!」

「うう、どうしてバレちゃったのかなぁ……」

「初対面の人間がどうしてオレの名前を知ってるか!それよりテメエ雅史!

どこでこのカツラと制服を手に入れたっ!?」

「自分で買ったんだよぉ。盗んでくるよりはいいでしょ?」

「よくねぇよっ、このド変態が!」

「変態って……僕はまだ浩之程じゃないよ?」

「……殺す!『必殺』と書いて『必ず殺す』!」

「ふぅん、オトコ殺しぃ〜!」
 
 

……この後の惨劇についてはあえて触れないでおこう。ただ確実なのは、雅史が

社会的に抹殺されてしまったという事、琴音ちゃんと逢えなかった事、その二つだ。
 
 
 
 
 

3月12日。

先生が急用だ、ってんで急遽自習になった50分。みんなてんでに騒ぎまくってる

教室の中。もちろん真面目に課題に取り組んでいる生徒もいるのだが、そんなのは

しょせんごく少数だ。

さてオレは、と言うと………

「……I'm gonnna burst you so bad……Aren't you about ready to go home now?

……う〜む。」

めずらしく真剣に課題をやっていた。別に委員長やあかりに見せて貰ってもよかった

のだが、なんとなく、そんな気分だったのだ。

「……………」

「?」

「……なんや?」

「いや、わりい。なんでもねえ。」

隣に座ってる委員長がオレの方をじっと見ていたような気がしたんだが……。

気のせいかな。

「……ああっと、このfireは……ここでは『発砲』だな……」

「……………」

やっぱり見てるような気がする……。

「…have to……ん〜、この場合どう訳すんだ?」

「……………」

「shoot it……living dead……」

「……藤田君。」

「ん?大丈夫だぞ委員長。この位オレだけの力でやってみるさ。」

「……せやのうて……」

「え?わからないトコがあるのか?」

「……だからせやのうて……」

「なんだ?」

「……さっきから気になってたんやけど……」

「?」

「……『ロミオとジュリエット』にそないな英文、あらへんで?」

「……はぁ?これって『JESUS』じゃねえの?」

「違うわ。……あれ?なんで藤田君の課題だけみんなと違うんや?」

「そんな事オレにもわから………」
 

ピクッ!
 

「シッシッシッシッ………」

今……視界の隅であかりがケンケンの様な笑いを漏らしていた様な気が………

はっ!

「す、すり替えやがったなぁ、あかりぃ!……」

「シッシッシッシッシッ………」

……雅史に引き続き、あかりの処刑も決定したようだ。

「しゃあないなぁ。ほら、ウチのをあげるから、早よ仕上げてや。」

「委員長、すまねえ……って待て!委員長はどうするんだよ?」

「寝る。」

「え?ちょっと………」

「くぅ〜」

…既に眠りに落ちている委員長。器用な体質だ。

「…おい……このプリント、名前が既に書きこんであるじゃねえか……。」

しかもボールペンで。

「結局何の問題解決にもなってない……」

てなワケで、オレは委員長の残りの課題を丁寧に片付けるハメとなってしまった。

……どうも委員長に関わると、オレの運がなくなっていくような気がする……。
 
 

「おい保科、お前のプリントの筆跡が途中で変わっているのは何故だ?」

「……さ、さあ?そないな事ないと思いますけど?(しもたぁ!)」

後日、委員長が職員室に呼ばれた事など、オレは知らない。
 
 

キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン……

土曜日の授業は昼までだから、今日はこれでおしまい。

しかし葵ちゃんとの部活がある為、オレは志保の誘いも蹴ってとっとと裏の神社へ

向かうのだ。ん〜、なんか正しき高校生活、って感じでヨイ。
 

学校の裏にある神社には、不便な事に裏門からは行けない。一度正門を出て、塀に

沿ってぐるっと回って行かねばならないのだ。

「しっかしまあ、あいも変わらずすげえ道だよなぁ……」

太陽が見えない位に重なって繁る木々。いつも湿気に満ちた森の空間。獣道同然の

場所を半ば無理やりに進むオレの足にシダ植物のツタが絡み、むこうの方に咲いて

いるラフレシアから流れて来る悪臭がオレの中枢神経を侵し始める。

……本当に日本なのか、ここは?
 
 

「……見つけた。」

「ぬぅっ!?」

ようやく密林地帯を抜け、魔の300階段にさしかかろうとするオレは不意に投げかけ

られた言葉に戦慄し、立ち止まる。

「やっと……見つけた。今度こそ私が殺してあげるからね………。」

「だ、誰だ?」

振り向くと、石段の横に女の子が立っている。悲しそうな瞳、紫色で少しシャギーが

かかった髪の毛。

今度こそ間違いない、姫川琴音ちゃんだ。しかしオレを殺すとは?……尋常じゃない。

「気をつけて……道長達もこの時代に転生しているわ……」

「はぁ?ちょっと待ってくれ、一体何を言ってい……」

「!……記憶をなくしているの……私は…ずっとあなたの事を、あなたの事だけを

覚え続けてきたというのに……」

「こ、琴音ちゃん?」

「違うわ……思い出して!私の本当の名前は、万………」
 

「そうはさせませぇぇぇぇん!」
 

天高く響く女神の黄金旋律は、鈴を転がすような甘い声。

「っ!来たわっ!」

「???」

「とぉぉぉぅ!」

声のした方向に目を向けると、石段の最上段から飛び上がる影が!

ぼてぇっ!

……と思ったら着地に失敗して見事にコケてしまったようだ。

「うう〜……こ、このくらいでっ!」

ってゆーか今のは自分が悪いんじゃねぇか……?

「お前は……マルチ?マルチじゃないかぁ!?」

とまあ大体想像がついていた事ではあったのだが、やはりこのドジな刺客は違わず、

マルチであった。

「鷹久、念を集中するのよっ!」

ちんぷんかんぷんになっているオレに向かって、琴音ちゃんがまたもワケのわから

ない事を口走る。

「だ、だから一体何の………」

「うふふふふですぅ!どうやら記憶がなくなっているみたいですねぇ?」

「なくすもなにもオレは………」

「下がって!私が闘うっ!」

と、琴音ちゃんがオレとマルチの間に割って入った。

「今度こそ……今度こそあなた達を滅ぼしてみせるっ!」

ばりばりばり………

琴音ちゃんの両手で、何か眩しいエネルギーがスパークしている。

「あなた一人の力なんて、恐るるに足りませぇん!」

ぽけぽけぺけぽけ………

マルチのモップの先からミルク色のオーラが流れ出す……しかし……

「なんで私の時だけ効果音がへっぽこなんですかぁ?」

知らん。ってゆーかなんなんだこの二人は?

「来てます来てます、来まくりやがってます!」

「ディバインディングドライバ〜起動ですぅ!」
 

……誰か止めてくれ(泣)
 

「ゴットハンドパワー!」
 

琴音ちゃんがエネルギーのかたまりを発射!

「空間歪曲………突き突き突き突き突き突き突き突き突き
突き突き突き突き突き突きぃぃぃぃ!」
 

しかしマルチも負けてはいない。乱マの苦悩先輩の如きモップの千烈突きでエネル

ギー弾をかき消す!

「はぁ、はぁ、さすがに強いです……」

「ふにぃ〜、ふにぃ〜、モーター強制冷却装置稼働ですぅ。」

お互いに消耗しているのを確認しつつ、なおもにらみ合いを続ける琴音ちゃん&マルチ。

二人の小柄な身体のどこにこれだけのパワーがあるのだろうか?

「なぜバッテリー切れになってないんですかっ!?」

「そっちこそ超能力の使い過ぎで気絶しているはずですぅ!」

……オレってここにいる意味あんのか?

いや、ない。ぶっとんじまっているヤツらはほっといて……

「さいなら〜!」

オレは逃げ出した。もうどうなろうと知ったこっちゃねえ。
 
 
 

その後、少し遅れはしたもののオレと葵ちゃんはいつも通りに練習をして、帰りに

ヤックに寄って楽しいひとときをすごした。

「あの〜、オチがないんですけど?」

「気にしたら負けだぜ、葵ちゃん。」

「はぁ……………」

全ては終った事なのだ。それでいい………多分。
 
 
 
 

4月18日。

ずっと迷っていた……。

たった二ヶ月間だけの出会いの刻………。

オレは………。

どうしてここにいるのか……。
 
 

みんなが好きだ……。

みんながいたからこそ、今のオレがここにある……。
 
 

選ばなくてはいけない。

いままでの道のりの中で手に入れてきたもの……見失ってしまったもの……。

たくさん、たくさんの贈り物……。
 
 

たったひとつだけを………。

セピアの真実。
 
 

葵ちゃんはおとなしいけど、物事から逃げない女の子だった。
 
 
 
 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ
オラオラオラオラオラオラオラァァァァァッ!!」

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁぁぁぁっ!!」

「噛み切ってやるぜメ〜ン!」

「URYAAAァァァ!ブッ潰れよォォォォ!」

「キィンググリムゾン!時は進むぅぅぅ!」

「ザ・ワールドォォ!時よ止まれェェッ!」
 
 
 

「ふぅ、ちょっと休憩にしようぜ?」

「あ、はい。そうですね♪」

オレはクーラーボックスの中から飲み物を取り出し、一本を葵ちゃんに渡す。

「あ、どうもありがとうございます!」

「どーいたしまして。……しっかし葵ちゃんは強いよなぁ。パワーだけならなんとか

タメ張れるんじゃないかと思っていたけど、へへ、とんだ自惚れだったみたいだぜ。」

「そんな事ないですよ。先輩もしっかり練習を重ねれば私なんてすぐに追い越せます

ってば。現に今日なんてかなりいいとこまで行ったじゃないですか?」

「う〜ん、あそこで時を止められちゃったのが痛かったかなぁ。」

「慣れですよ、慣れ。発動の瞬間がまだ少しだけ私よりも遅いってだけです。」

「ん。とにかく修行あるのみだな。」

「はいっ♪」

「ようし、もいっちょ頑張ってみるか?」

「はいっ♪よろしくお願いします!」
 
 
 
 

そして時は動き出す……………
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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「って感じなんだけど、どうだ?」

「う〜ん、何とも言えないなぁ…………」

雅史の反応はイマイチ。まぁこいつは真面目なヤツだからな。オレの高尚なギャグセンス

を理解するのは難しいのかもしれない。

「で、浩之、これどうするつもりなの?」

「そうだなぁ………群ゾーか文ゲイに送ってみるってのはどうだ?」

「(苦笑)やめといたほうがいいと思うよ?」

「そっか……」

む〜、面白いのになぁ。

「それよりこれはみんなには見せない方がいいよ?」

「ああ、そうだな……」
 
 

「もう遅いよ………(怒)」
 
 
 
 

あかりの声………それに振り向いたオレの視線の先には………
 
 
 
 

「ヒロぉ〜?なんだか面白い小説を書いてらっしゃ
るそうねぇ〜?」

「藤田さん……ひどいです!」

「本場関西のド突き漫才を仕込んだろかぁ?」

「あう〜(泣)」

「私が犬ですって!?」

「出演料、くれるんだよね?ね?」

「…………(この薬を飲んでください。)」

「今度はワタシとのラブストーリーを書いてネ!」

「私、あんぱんマンなんて食べませんっ!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

………地獄を見た。
 

                                 <END>
 
 
 

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 あとがき
 

みなさまこんにちは。霞月洋祐です。
もうなにがなんだかわからなくなってますね(大汗)。反省しております。
 

とにかくイっちゃったお話を、と思い書き始めたこの作品ですが、本当によくわからん代物
になりました(/--)/
ここに引っぱり出してきた元ネタ関係を並べてみると、膨大な数に上ります。その面でだけは
がんばれた、と言えますが、アレンジがわからないと単なるかき集めモノでしかないのかも
しれません(滝汗)

さあ………どうなんでしょうか?(汗)

こんなヘタレSSの後編を辛抱強く待ってくださったた〜なさん、ありがとうございました。
そしてた〜なさんを含めた皆さん、ごめんなさい。
そして今回一番イモ引いたトゥーハートのキャラ達へ。
『いろいろやっちゃったけど、みんな大好きだよっ!』

ではまた。「次回」がありますように!(マジ)