『温もりと絆と奇跡』

                        by 流石 龍之助

 

 

 

 

 

それは、奇跡としか言い様のない物だった。

二度目の奇跡。

奇跡も二度続くと、有り難みがなくなりそうだ。

だけどそんなことはない。

それらはどれも、掛け替えのないものだ。

 

何者にも代え難い存在。

彼女が存在し、俺の側で笑っている。

それは、奇跡なんて安っぽい言葉で括りたくはないほどだ。

でも俺は、頭が悪いから他に言葉なんて思いつかない。

だから、コイツが俺の隣で眠っているのを見て、やっぱり思うんだ。

これは奇跡なんだって。

 

 

 

 

「すぅ..すぅ...」

真琴が俺の横で眠っている。毎晩恒例のことだ。

みんなが寝静まった頃、コッソリと枕を抱きながら俺の部屋には行って、ベッドに潜り込む。

俺のことを上目遣いで見上げながら、

「へへ..いい?」

って訊いてくる。

俺はそんな真琴の言葉に、ギュッと片腕で抱き寄せて答える。

 

 

最初に一緒に寝たのは、もう冬のことになる。

あまりの寒さに閉口した真琴が、俺の部屋に身を震わせながら訪ねてきたのが始まりだ。

それ以来、毎晩のように一緒に寝ている。

春になり、春眠暁を覚えずになった今でも。

 

真琴の体はポカポカと暖かい。まるで人間湯たんぽだ。

子供の体温が、冬の厳しさには有り難かったっけ。

真琴も、俺の体にすり寄ってくるもんだから尚更。

それは春になった今でも、心地よさは変わらない。

さすがに、真琴なしでも充分暖かくなったが、それだけじゃない。

人肌ってのは、そんなものとは関係なく落ち着くものだ。

真琴と体をすり寄せあいながらじゃれていると、いつの間にか眠くなってくる。

それに身を委ねるだけで、とっても気持ちよく眠れる。

 

 

「祐一の体..暖かい...」

「生きてるからな..当たり前だ」

「へへ..そだよね」

「お前だって、ポカポカして気持ちいいぞ」

「うん..真琴も生きてるからね」

「あぁ..そうだな」

取り留めのない会話に花を咲かせれば。

「んんんーーっ」

「なんだ?どうした、急に体押しつけて」

「祐一が暖かいから、もっと感じようかなって」

「それじゃ、こうしてやる!」

「あうーっ、く、苦しいよ」

「俺も真琴を感じるよ」

「あうぅーっ」

無邪気に体を擦り寄せあうこともある。

そうこうしている内に、真琴が先に眠ってしまうのだ。

「うにゃ...」

「どうした?」

「ううん..何でもない」

俺よりも先に寝るのが悔しいのか、決して眠いと言わない。

でも段々と瞼が落ちていくのを見ると、可愛くて仕方ない。

ついからかいたくなるので、真琴の頬をムニュッと抓る。

「あぅ..何すんの?」

「いや..真琴があんまり可愛いからツイ」

「あぅ..」

寝ぼけ眼が、一気に覚め、真っ赤な顔になる。

 

「でも..やだよ。そんなことしちゃ」

「わりぃ、わりぃ」

「..でも、祐一ならしてもいいかな?」

「そっか..じゃ、遠慮なく」

「あうぅーっ、ちょっと痛いよ」

「そりゃ、遠慮してねぇもん」

「あうーっ!」

そんなやり取りが再会される。

でも、夜も遅い時間なので、再び真琴の目が降りてくる。

「ぅん...にゅ...」

時計を見ると、もう日付が変わりそうな時間だ。

仕方なしに俺は、真琴をからかうのを止めにする。

 

「もう寝ろ。明日辛くなるぞ」

「うん..」

真琴の背中をポンポンと叩きながら言う。

すると、直ぐに寝息をたててしまう。

「くぅ..すぅ...」

サラサラと、栗毛色の真琴の髪を撫でながらそれを聞く。

もう、頬をムニュッと抓っても起きない。変な顔のまま眠り続ける。

 

俺も段々眠くなってきた。

キュッと真琴を抱き寄せて、布団代わりに暖をとる。

こうやってくっつけば、風邪を引くこともないだろう。

「おやすみ..真琴」

最後にもう一度真琴の頭を撫でて、俺は瞼を閉じる。

 

たぶん、明日も真琴はこの部屋に来るだろう。

明後日も、その次も。

春が終わり、夏がきて、寝苦しい季節になっても。

そして一年経って、再び冬が来るときも。

こうやって、お互いの温もりを分け合いながら眠りにつくのだろう。

 

 

 

 

それは七年越しの想いの作った奇跡。

俺と真琴の強い意志が作り上げた。

あの頃のような弱い心はもう卒業した。

何があってもこの腕の中の温もりは離さない。

そう決意できるほどには強くなった。

 

二度も起こった奇跡。

もう次はないだろう。

これ以上望んだら、バチがあたっちまう。

今あるこの幸せを守る事に意義があるのだ。

こいつの笑顔は、俺次第なんだって。

今俺の横で無邪気な顔をしているこいつを守るのは俺だって。

そう誓うことが出来る。

 

俺にとって真琴は、何者にも代え難い大切な存在なのだから。

固い絆でつながれている、家族以上に大切な。

だから俺は、この温もりを守ることが出来るのだ。

 

 

 

 

                 FIN