『いつか・・・』     

 




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・・どうしてだろ・・・逢いたくなかったはずなのに・・・・・・

 ・・・どうしてだろ・・・気が付くと、探していた・・・

  ・・・どうしてだろ・・大好きな人の姿を・・・・・

    ・・・・・大切な人を・・・




“あいたいよ・・・あいたいよ・・・ねえ・・どこにいるの・・祐一・・”



その夜、雪の降る街の丘に一匹の狐が姿を見せた。
……昔から、忌み嫌われていたはずの′マ……

その一匹の狐には、願いがあった。
・・・大切な、大好きな人と一緒にいること・・・

…そんな、悲しい願い・・・

そのとき・・・


   その丘が、光に満ちた。・・・神秘的な淡い光が・・三日月の夜に・・・






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「ふぅ、今日は三日月か・・・」

ベランダから空を見上げていた俺は、そう呟いた。

「・・未だ帰らぬ人を待つ・・・なんてな。」

自嘲気味に笑いながら、もう一度空を見上げた。

・・空に輝くのは、三日月と散らばった星達。

「早いけど、今日はもう寝るかな。」

本当はもう少し空を眺めているのだが、今日ばかりは予感がした。

・・何かがあるような・・・子供の頃に感じたような予感が・・・・・



“・・い・・ち・・・ゆ・・いち・・・ゆ、ういち・・祐一・・・”

声が聞こえた。


聞き間違えるはずはない。あの懐かしい声が。


 ・・・真琴っ!・・・

気が付くと、俺は走り出していた。



 “・・春が来て・・ずっと春だったらいいのに・・・”

いつかの、真琴の言葉。

その言葉が、俺の頭に浮かんだ。

真琴、やっと真琴の待ち望んだ季節がやってきたぞ。

心の中でそう言いながら、真琴がいるはずの場所へとやってきた。





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・・いた・・・

その場所に、真琴の姿があった。

「真琴、真琴っ!・・・」

俺の声が聞こえて、真琴が振り返った。

(・・・!)

・・・真琴の目には、涙があった・・・

「・・真・・・琴・・・・・・」

俺が真琴に近づこうとしたとき・・・

「・・なんでこんなとこに来たのよっ!」

思いもよらなかった言葉。

・・相変わらずだな・・・あの、天邪鬼ぶりは。

そう思っていたが・・・

「・・・真琴は、祐一なんかに会いたく無かったわよぅ・・」

「・・どうしたんだ、真琴・・?」

あの真琴が、こんなことを言うなんて・・・

「真琴、どうもしてないわよぉ・・・」

そう言うと、真琴は逃げるように走り出そうとした。


・・・その瞬間・・・さっきまで輝いていた三日月が雲に隠れた。



   ・・そして、さっきまで人間だった真琴は・・狐に・・戻った・・・

そのことを・・・知っているのかわからないが、そのまま真琴は走り出していた。

「おいっ! 真琴っ!」

俺は真琴の後を追って走り出した。







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いったい、どれだけ走っただろうか・・・さすがの俺も疲れてきた・・・・・

どうやら真琴も疲れてきたらしく、走る速さは落ちてきていた。

・・そして、真琴が石に足を取られたとき・・・




「・・つかまえたっ!」

俺は真琴を抱きしめた。


・・ぽかぽかぽかぽかぽか・・ぽかぽか・・ぽか・・ぽ・・か・・・

最初は抵抗していた真琴も、次第に抵抗しなくなった。

・・そして・・・雲に隠れていた月が輝きを取り戻した・・


  ・・・さあぁぁぁ・・・


「・・・真琴?」

俺の腕に抱かれていた“真琴”は、狐から人間になった。

「・・祐・・一・・・」

真琴が、閉じていた目が開いた。

「・・・どうした・・真琴・・」

「・・なんで、祐一がこんな・・・」

「真琴。」

「な・・なによぅ・・」

「なんで、俺の顔を見ないんだ?」

さっきまでの真琴は、目をそらして俺の顔を全く見ていなかった。

「だ・・だって・・ゆ、祐一の顔・・見ると・・・あうぅぅ〜〜」

顔を歪ませて泣き出した真琴は、俺の胸に顔をうずめた。

「いつも・・いつも、祐一に会いたいといつも思っていた・・・でも、会ってみると何言えばいいかわかんなくて・・

気が付くと、祐一を傷つけるようなことばっかり言ってた・・・」

「それに、それに・・・」

「・・真琴・・・」

「・・えっ!・・・ゆ、祐一・・・」

俺は、真琴を優しく抱きしめていた。

「真琴・・こんなとき、なんて言わなきゃならない?」

「(・・・・・ぼそっ・・・ぼそっ・・・)」

「なんて言った、真琴。」

「・・・て、ご・・・・・い、・・・・・・ま・・・」

「もう一度。」

俺はなるべく穏やかな声で、真琴に言った。

「め、迷惑掛けて・・ごめんなさい。・・・た、ただいまっ・・・祐一・・」

「よしっ! おかえりっ、真琴・・・」

真琴を抱いた腕に力を加えると・・・

「い、痛いっ・・・痛いってば・・・」

そう言いながら、真琴も俺の首に腕を回した。

そして、気が付くと・・真琴は涙を流していた。



・・今度の涙は、うれし泣きだった・・・





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「ふう、今日も三日月か・・・」
今日もまた、ベランダから空を見ながら呟いた。

 ドタドタドタドタドタドタドタドタ

足音が聞こえてきた・・

「ねえ、祐一ぃ〜」


  ・・がばっ・・・・・・ごづっ・・・


「・・・う゛っ・・・・・」

誰かに抱きつかれた勢いで、俺はベランダの手すりに頭をぶつけた。

「・・・どうしたの? 祐一。」

「真夜中にいきなり抱きついてくる奴があるかっ!」

 ごつっっ!

「あうぅ・・・イタイぃ・・なにすんのよっ、祐一。」

「おあいこだ・・・俺だって痛いんだから。」


あの日以来、真琴が狐に戻ることはなかった。

・・そして、真琴は俺の前で泣いたのが嫌だったらしく・・前にも増してに意地悪になった・・でも・・・

「・・・祐一、ごめん。」


でも、前より素直になったのが・・大きな進歩かな・・・・・



  ふぁっ・・・

真琴の髪に何がのった。

「・・なに? これ・・・真っ白いカラスの羽?」

真琴がそれを手に取り、見てみた。

それは、鳥の羽のようだったが・・・どこか違った・・

「・・・天使の、羽・・・だな・・・・・」

「へえ・・天使って、いたんだ。」

俺は、空を見上げると・・・

さっきまで三日月だった月が、満月だった。

・・そして・・・

その満月をバックに、踊る天使の姿があった。

その光景に見入っていると・・

「・・・どうしたの? 祐一。」

真琴が聞いてきた。

「・・何でもない。」

俺はそう答えた。


そう、なんでもない。なんでもないはずだ・・・



   ちりぃぃん・・・

そのとき,鈴の音が響いた・・・

『・・・えっ・・』

俺たちが気付いたとき・・・真琴の手首には、あの時買ったのと同じ鈴がついていた。

「・・・わぁ・・」

それを見つけた真琴は、嬉しそうな・・懐かしそうな顔をのぞかせた。

そして、真琴は手首の鈴を鳴らすのに夢中になっていた。







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  こつ・・・

「・・・ん?」

何かが肩にあたった・・・

・・真琴だった、どうやら鈴で遊び疲れたらしい・・・

「・・・すぅ〜・・・」


・・・おまけに、寝ていた・・・

「まったく・・寝顔はいいのにな・・・・・・ あれ?」

真琴の顔に何かついてたような気がして、顔を覗くと・・・

「・・祐一・・・真琴の大好きな・・・大切な人・・・」




  ・・・ちゅっ・・・・



「・・・すぅ・・・」

「・・・・・・」


い、いま・・真琴が俺の首に腕をまわして・・・・・・


「・・・ま、考えるのは後にしとこう・・・」

今は、この寝顔が見れただけでも・・・

「あ・・忘れてた・・・明日・・・」


・・本当に・・これ以上深く考えるのはよしておこう・・・

「ま・・寝るかな・・・」

そう思って、真琴を抱きかかえてみると・・・


「・・・お、重い・・・」


・・昔より・・・・・・重かった。

「・・・真琴、肉まんの食べすぎだ・・・」

肉まんと聞いた真琴は、嬉しそうな顔をした・・多分、肉まんを食べてる夢を見ているのだろう。

「幸せなやつ・・・」

そんな光景が微笑ましくて、いつの間にかにか真琴の重さを忘れていた。

「・・そういえば、あの日から・・・ずいぶんと月日が経ったんだな・・・」


・・・その月日で・・俺も背が伸びたり・・・真琴も女らしくなったり・・・性格は・・・ほとんど成長してないな・・・・・・

「それだけ、心配掛けてたのかな・・・」






   ・・ごめんな・・・真琴・・・でも、明日からは・・・








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、、、、、、そして、、、次の日、、、


「祐一さんと真琴、綺麗ですね。」

「お母さん、だって、二人とも幸せそうだもん。」

「私も、いつかここに来ることができるんでしょうか・・」

「そりゃあ・・いつか、ね。 栞。」

「その前に、オレと美坂が・・いててっ・・・」

「・・・二人とも、綺麗・・・・・」

「あはは〜・・・ほんとに綺麗ですね。」





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・・その結婚式は、静かな式だった。

・・・祝う人が少なくても、主役の二人はとても幸せそうだ。

・・・・・・そうだよね。 真琴、それに祐一。

・・・こんな猫に構ってくれた、最初の二人なんだから。





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・・本当に、二人とも綺麗だね。

・・・ボクの隣にいるのが祐一君だったらよかったのにな。

・・・・・・でも、、、ボクはもう逢えないから。

・・・もう逢えないって、約束しちゃってるから。

・・だから、、、ここで見てるよ。






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「・・・なあ、真琴。 今、幸せか?」

「・・祐一がいるから。真琴、すごく幸せだよっ!」

「そうか・・その前に、この結婚式に一人だけ呼んでおかないといけない奴がいるんだ。」

「・・・だれ?」

「それは、、、」









  ・・・これ読んでる、あんただ。





















‥‥‥‥‥‥>あとがき<‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
 た〜なさん。

  ごめんなさい、かなり長(永)くなりました。 m(_ _)m

 書き始めたときは、こんなに長(永)くなるとは思っていなかったんですが・・・

 書き終わるころには、こうなってました。 ( ̄▽ ̄;)"""

………それは置いといて(笑)  (/ ̄▽ ̄;)/



  た〜なさん、魔法の書庫。40000ヒットオーバーおめでとうございます。


 最初に言わなきゃならないことが、遅れましたね。(汗)
 


 ・・・このSSは、真琴SSです。決して、名雪SSではありません。
   (真琴SSということをほとんどの人が気づいてくれませんでした。)

 ・・た〜なさんは、信じてくれますよね。

 

  と、いうわけで(何が と、いうわけでだ?)

                   月の欠片でした。それでは。