「………♪…………♪」

 

柔らかな朝の陽射しの中、晶は器用にスケボーを操り高町家へと向かっていた。

最近の日課になりつつある神社でのトレーニング。

今はその帰り道である。

晶は右足で地面を蹴り勢いを付けると、高町家へと通じる最後の角を曲がった。

「ん?」

角を曲がると、晶は前方に何かを見つけた。

なんだろう? と思いスケボーのスピードを抑え目を凝らす。

晶の視線の先。 そこは高町の家の前だった。

そこには、門柱に体を隠すように顔だけを覗かせ、家の中を伺う全身黒ずくめの怪しい人影がいた。

晶は訝しげに見詰める。

その間もスケボーはゴロゴロと音をたてながら怪しい人影に近づいていく。

「!?」

その人影は、晶の近づく気配に気付いたのか、スッと頭を引っ込めた。

そして、何事もなかったかのように晶とは逆の方向に向け歩き出した。

「……………」

ガタッ

晶は高町の家の前に辿り着くとスケボーから降り、ボードを立てて片手に持つ。

「何だったんだろう今の人……」

晶は首を傾げつつその人影を見送った。

 

 

 

 

                      とらハ3SS 

『母の来訪』  

                                By た〜な

 

 

 

 

 

「ただいま〜」

晶が玄関をくぐると、丁度道場の方から恭也が出て来た。

「あ…師匠。 おはようございます」

晶は恭也に駆け寄ると、ペコリとお辞儀し挨拶を交わす。

「あぁ、おはよう。 朝練か? 感心だな」

恭也は晶の格好を見てそう判断したようだ。

晶は明心館の名の入った道着を帯紐で括り、肩に背負っていた。

「えへへ……。 那美さんの神社でちょっと……」

恭也に誉められて微かに頬を染めて微笑む。

が、不意に先程の不審な人物の事を思い出したのか、晶は恭也に尋ねた。

「あっ、そうだ……師匠。 ひょっとして今…誰かお客さんが来てませんでしたか?」

「客? いや、誰も来てないが……何かあったのか?」

晶は先程見掛けた怪しい人影の事を恭也に話した。

「……………」

晶の話しを聞いた途端、恭也の表情が険しくなる。

……しばし沈黙。

 

「…師匠…」

黙りこくった恭也を心配して晶が声を掛けた。

「あ、あぁ……すまない。 まあ、その人物がどう云う輩なのかは知れないが、注意するに越した事は無いだろうな」

「そうですね」

二人は浮かない表情のまま、リビングに向け歩き出した。

 

 

********************************

 

 

朝食の席。

恭也と晶は今朝の事をみんなに話した。

「……と云う訳で、怪しい人物が家の周りをうろついていたようなんだ」

恭也の説明にみんな首を傾げる。

「なんや…けったいな話しですな〜」

「ホントだね」

レンは晶に向き直り顔を指差す。

「晶……あんた寝ぼけてたんやないんかー?」

「誰が……お前じゃあるまいし」

その直後、ブンッと無言で放たれたレンの拳が唸るが、晶はひょいっと避けた。

「ふん、いつもいつも同じ攻撃が通用するとでも」

「ふっ…甘いわっ!」

サッ

晶のお皿の上からおかずが1品消えた。

「あぁ〜〜〜っ、俺のおかず。 てめぇ〜何しやがるっ!!」

「(モグモグ)う〜ん美味♪ 隙がある方が悪いんよ〜♪」

「返せ、返せ、返せ〜〜〜〜っ!」

カチッ…カチッ…カチッ!

晶が箸でレンのお皿を狙うが、ことごとく空を切る。

「ふふふ……今度はこっちの番じゃぁ〜っ!」

レンは右手に箸を構えると、再度晶に反撃に出ようと構えた。

その時…。

 

「ふたりとも、やめなさ〜〜〜いっ!!」

 

なのはが立ち上がり険しい表情で二人を見詰めた。

「もう、晶ちゃんもレンちゃんも喧嘩しちゃダメだよ」

「だって、なのちゃん。 レンの奴が…」

なのははレンを見詰め言った。

「レンちゃん。 晶ちゃんにおかず……返しなさい」

「うっ、マジですか?」

「マジです」

なのはは両手を腰に添えて仁王立ち。

流石のレンも、この家の真の実力者であるなのはの言う事には従うしか無かった。

「くっ…しゃあない。 晶、好きなもん取りや〜」

レンはお皿を差し出す。

「お…おぅ……」

なのはの取り成しで、なんとかこの場は納まったようだ。

 

そう感じた恭也は改めて晶とレンに話し掛けた。

「まあ一応安全の為た。 晶、レン」

「はい」

「なんです?」

「今日は一緒に登校してくれ」

『『え〜〜〜〜〜〜〜〜っ! こいつとですかぁ〜っ!!』』

二人の声が綺麗に重なる。

それが又面白くないのか、不満げに睨み合う二人。

恭也はそんな二人の事は取り敢えず置いといて、美由希に言った。

「美由希には、なのはの護衛を頼む。 出来るな?」

「うん、任せてよ恭ちゃん。 なのは…お姉ちゃんと一緒に学校に行こう?」

「うん♪」

なのはは、美由希と一緒に登校出来るのが嬉しいのかにっこり微笑む。

「フィアッセとかーさんには俺がつく」

「恭也が? そうね……フィアッセ、私達は恭也に守ってもらおうねー♪」

「うん。 恭也、無茶……しないでね」

「あぁ」

こうして、取り敢えず出来る限りの用心は心掛けた。

 

だが恭也の心配を余所に、結局その日は何事も無く1日が過ぎた。

 

 

********************************

 

 

翌朝。

高町家道場。

そこでは、日課の朝練に勤しむ恭也と美由希が汗を流していた。

「はぁ〜〜〜〜っ!!」

掛け声と共に、美由希の体から殺気が溢れ出る。

同時に抜刀。

キッーーン!!

二人の小太刀が空中ではじけた。

「…………」

「はっ!!」

再度、美由希の暫撃。

恭也はその暫撃を小太刀で受け流す。

「………いい太刀筋だ…」

「はぁ……はぁ…………」

美由希は息を整えながら微笑む。

が次の瞬間、二人の表情に緊張が走った。

 

『『!?』』

 

二人は自分達に注がれる微かな視線を感じ取った。

常人では感じ取れ無い程微かな気配。

明らかに消そうとした気配が……。

美由希と恭也は目で会話を交わす。

「(美由希……あれを使うぞ)」

「(わかったよ)」

二人は頷くと、同時に鋼糸を放った。

 

『『はっ!』』

 

鋼糸は道場の入口、僅かに開いた隙間を通り抜け、目標に到達すると瞬時に絡め取った。

「!?」

恭也と美由希は急いで道場から飛び出した。

「何奴っ!!」

鋼糸に絡み取られた人影は地面に片膝を付き、懐に手を忍ばせていた。

恭也達は慎重に小太刀を構え、一定の間合をおき対峙する。

 

「なんや、なんや」

騒ぎを聞きつけて家からみんなが出て来た。

「まだ危険だ。 離れてろ!!」

すかさず恭也は警戒を促した。

その時…。

スッ

鋼糸に絡み取られた人物は、無造作に立ち上がった。

そして懐から手を出すと次の瞬間、白刃が一閃……全ての鋼糸が断ち切られた。

「!?」

恭也と美由希は一層深く身構える。

 

だが、不思議な事に殺気は全く感じられなかった。

やがてその人物は、太刀を懐にしまうとゆっくりと振りかえり呟いた。

「……腕を…上げたようだな……」

聞き覚えのある声だった。

 

「み、美沙斗さん!?」

「母さん!?」

全身黒ずくめの謎の人物の正体は、美沙斗さんだった。

美沙斗さんは、みんなの視線を受けると顔を背ける。

「美沙斗さん。 一体どうして…?」

みんなを代表して恭也が問い掛けた。

「……いや……その、なんだ……」

美沙斗さんは頬をポリポリと掻き決まり悪そうにしている。

「母さんっ!」

美由希が鋭く呼び掛けると美沙斗さんは渋々呟いた。

「別にどうと云う事は無いんだ……。 私は只………娘に…会いに来ただけで……」

「私に会いに?」

美由希は首を傾げる。

「じゃあなんでコソコソしてたんですか?」

「それは………その……何と言って声を掛ければいいのか……迷ってな……」

美沙斗さんは恥ずかしそうに呟く。

恭也は小太刀をしまうと溜息をついた。

「次からは普通に来て下さい。 歓迎しますから…」

「…………わかった。 そうさせてもらおう」

 

 

 

********************************

 

 

 

高町家リビング

テーブルを囲んだみんなの前には、それぞれお茶が湯気を立てていた。

美沙斗さんは、ズズッとお茶をすすると一息つく。

「で、海鳴にはいつ来られたんですか?」

「……………10日程前になる」

 

『『10日!?』』

 

「その間、何やってたんですか?」

恭也の問いに美沙斗の目が泳ぐ。

「……………」

妖しげな態度の美沙斗さんに、美由希は心配そうに話し掛けた。

「母さん……まさか、また裏家業に……」

「ち、違う!! 私は只……遠くから美由希の事を見ていただけで、他には何も………はっ!」

美沙斗さんの額に嫌な汗が浮かんだ。

「………………」

「………………」

美由希はジト目で美沙斗さんを見詰める。

「……母さん…」

美沙斗さんは美由希の視線から逃れるように顔を背けた。

「………私を、尾行してたの?」

「ま、まあ……そうとも言うな……」

「…………そう……」

美由希はにっこり微笑むと、静かに小太刀に手をかけた。

 

 

 

********************************

 

 

 

庭では、美由希と美沙斗さんが凄まじい親子喧嘩を繰り広げていた。

 

「桃子。 このお茶、美味しいね♪」

「あら、本当♪」

この家の年長者二人は現実逃避を決め込んだようだ。

 

「お師匠〜お師匠〜」

レンは恭也の袖を引っ張る。

「美由希ちゃん達……止めへんでも、ええんですか?」

「まあ大丈夫だろう。 美由希がいくら強くなったと言っても、まだまだ美沙斗さんには適わないだろうしな。 ちゃんと手加減はしてくれるさ」

「ほなら…ええんですが……」

「でも美由希ちゃんの殺気……結構凄かったし……」

晶も心配そうに呟く。

「あっ、お姉ちゃんの攻撃が当たった!」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「ま、まさかな……」

恭也の脳裏に不安がよぎる。

 

そして、不安げに見守る一同の中。

美由希はついに、神速の領域に足を踏み入れた。

 

 

 

 

   おしまい

 

 

 


 あとがき

ここまで読んで下さったみなさん。

ありがとうございました。

最近SSをご無沙汰してた事を反省し、一念発起して書いてみましたがどうでしょう?

初の『とらハ3』SSです(汗)

やはり、初ものはちょっと、キャラの使い方が違ってるような感じもしますが、

それはそれ(笑) ういういしいと思って見逃して下さい(笑)

であ、みなさん。

感想などありましたら下さいませ。

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