栂海新道

北アルプスの縦走路で最も好きなルートをあげるとすれば僕は迷わず栂海新道をあげ
る。このコースは海抜0mの日本海(親不知)から3000m級の北アルプスに抜ける厳し
くも絢爛豪華な高山植物に出会える素晴らしい縦走コースである。岳人なら一度はこ
のコースにあこがれるはずである。このコースはその標高差もさることながら長い道
のりとアップダウンにとみ,しかも道中水場が少ないという難コースのため一般的に
これを抜ける登山者はよほど熟練した体力のある登山者か大学の山岳部の学生たちで
ある。

僕が初めてこのコースに挑んだのは今から6年前の暑い7月であった。当時小学校1年
生と3年生と5年生だった3人の子供を連れて30kgを越す4日分の食料とテントで満杯に
なった大型ザックを担いでのそれはつらいつらい山行であった。親不知から標
高1200mの白鳥山までは標高が低い上に水が無く,炎天下の中それは長く厳しい道の
りであった。7月というのに山頂手前ではまだ雪渓が残っており僕たち4人は持参した
たっぷりのミツで楽しいかき氷を堪能した。白鳥山山頂からは日本海が一望できまさ
に360度の絶景が楽しめた。

その日は頑張って犬が岳まで抜けて平坦地にテントを張ったが親子4人疲れ果てた体
を寄せ合って皆死んだように寝袋にくるまった。翌朝も夜明けから僕たちは縦走を続
けた。この年は残雪が多く登山道も不明瞭であったが至るところで雪解け水が蕩々と
流れており,この水でそうめんを作ることができ僕たちは高山植物に囲まれての雲上
の楽園を満喫することができた。すれ違う人もほとんどなく自分たちのペースで遥か
北アルプスを目指した。

黒岩平,アヤメ平と高山植物の咲き乱れた楽園を通り過ぎるといよいよ眼前に白馬連
山や朝日岳という3000m級の山々が見えてくる。折り返し地点の朝日岳はまだまだ先
であった。出発してようやく3日目に標高2418mの朝日岳に到着してテントを張った。
朝日小屋の主人はこんな小さい子供を3人も連れて栂海新道を歩いてきた人は見たこ
とがないと驚いていた。

朝日岳からも残雪が豊富で子供たちは雪の上を転びながら顔を真っ黒にして歩き続け
た。最終地点の朝日町の小川温泉にたどり着いたときはもう4日目であり,炎天下の
中食料もお菓子も食べ尽くして皆フラフラ状態だった。しかしあの夏休みの想い出は
僕の心にも子供たちの心にも今でもしっかり焼き付いている。楽しいだけの経験はす
ぐに忘れるものだが,つらく楽しい経験はそう簡単に忘れることはない。

栂海新道テント泊

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