オートルート(馬場島ー新穂高1泊2日)初日
立山から槍に至る稜線を一般的に日本オートルートと呼ぶ。初めての挑戦は僕達のオリジナルを出そうと
立山の入山はバスを使わず馬場島から歩く事にした。車の回収の手間を考え新穂高に下山する事にした。
常に標高2500m前後を歩く長大なコースで逃げ場は少なく,晴天を狙って一気に行く事が成功のカギである。
総距離約50km,累積標高差5200mに及んだ一級のハードコースであった。
5.3(木)
12.11 850m 馬場島発
2.10 1300m 毛勝谷出合い
6.08 2360m 室堂乗越着
8.21 2700m 一ノ越
11.03 2710m 獅子岳
11.22 2348m ザラ峠
11.57 2450m 五色が原
3.10 2591m 越中沢岳
5.00 2265m スゴ乗越小屋
5.4(金)
4.05 2265m スゴ乗越小屋発
5.00 2585m 間山
7.10 2900m 北薬師岳
8.05 2926m 薬師岳
8.39 2294m 薬師峠
11.00 2661m 北の俣岳
11.21 2460m 中俣乗越
1.00 2751m 黒部五郎の肩
1.38 2345m 黒部五郎小屋
3.31 2841m 三俣蓮華岳
4.33 2500m 双六小屋
4.46 2150m 双六谷大ノマ出合
6.06 2480m 大ノマ乗越
6.45 1500m 左俣林道
7.10 1400m ワサビ平小屋
8.24 1100m 新穂高
初日約17時間,二日目16時間半行動だった。
深夜零時過ぎスタート,危険な立山川は一気に抜けようと考えた。ライトを頼りに徒渉,高巻きを繰返し
右岸左岸をいったり来たり,今年はデブリだらけで通過は難儀だった。
標高2000mを越えると剣岳が見えてきた。朝日に照らされた剣は山の王者だ。この長い縦走の先どこからも
剣岳は見える事だろう。
標高2350mの乗越に着くと剣御前の肩から朝日が輝いていた。ここまで6時間,標高差1500mの試練だった。
さあスタートラインだ。クラスト斜面を雷鳥沢まで下りて行く。
遅れた名人が顔面血だらけでやってきた。転倒して顔面を切ったらしい。朝の立山は美しい。
雷鳥沢から標高差400m,一登りで一ノ越しに着く。振り返れば奥大日が美しい。
この日早朝前日の嵐で立山は完全に氷結していた。この条件での登頂はかなり厳しい。
一ノ越から龍王岳を巻くように御山谷を標高2500mまで下って龍王,鬼岳鞍部に登り返した。
鬼岳山頂まで登りここから獅子岳との鞍部まで滑り込んだ。
氷結斜面をアイゼンで獅子岳を目指す。遥か先に薬師岳が見える。
獅子岳山頂からもザラ峠まで快適に滑り込めた。標高差360m
ザラ峠から少し登り返すと広大な五色が原に出る。
五色から鳶山を巻いて越中沢との鞍部まで滑り込んだ。ここから緩斜面を越中沢岳に登り返す。
越中沢から可能な限りスキーで下りたが岩が出ている箇所も多く所々担いだ。下のスゴの頭手前鞍部を目指す。
スゴの頭登り返しで雷,氷,突風の洗礼を受けた。雷にビビって今日は薬師を抜ける事を諦めスゴの小屋付近の
平坦地にテントを張る事にした。
3ー4人用のテントを持ってきたので広くて快適,名人と抱き合って寒さを凌いだ。食事はカレー,シチュー
スープなど盛り沢山。食事には妥協しない。燃料,食料は3日分持ち込んだので停滞があっても大丈夫。
雪も断続的に降り出し,夜中に強風で深夜1時半目を覚した。もう眠れないので起きて朝食にした。
山行記録2007年5月3,4日
長年の課題だったオートルート、僕たちのポリシーにこだわって自分の足だけで歩こ
うと立山までもアルペンバスを利用しないで馬場島を起点にスタートして1泊2日で
新穂に抜けられるか挑戦しました。初日17時間、二日目16時間半の試練に満ちた山行
で何とか抜け切りました。
【山域】馬場島-新穂のオートルート
【場所】富山県、長野県、岐阜県
【日時】2007年5月3日(木)、5月4日(金)
【コース】馬場島―立山川―立山―五色ヶ原―越中沢岳―薬師岳―北の俣―黒部五郎
―三俣蓮華―双六谷―大ノマ乗越―小池新道―新穂高
【メンバー】僕・名人
【装備】フォルクル・マウンテン 156cm,TLT,ガルモント(僕)
K2サミット 150cm,ディアミール2,LWストラクチュアー(名人)
【天気】初日快晴のち一時暴風雪、二日目快晴だが稜線は強風
この日のために以前から名人と打ち合わせをしていた。僕たちらしい山行という事で
アルペンバスは使わない、小屋も利用しない、自分の力で歩き抜くという事で意見は
一致した。前日2日雨の中新穂で待ち合わせ。名人の車を新穂にデポ、僕の車で馬場
島へ向かった。
馬場島は雨が降っており立山川は濁っていた。果たして立山川は行けるのかここで敗
退になりかねないかもと心配がよぎる。馬場島荘の方に立山川の状況を聞くと下で割
れてますから徒渉になると暗いお返事。おまけにこの増水で明日はどうなるか、いき
なりの試練だ。
少し早く着いたので名人が徒渉点を見て来るという。何とか一カ所渡れそうな場所が
あるがその先は不明で極端な雪不足だと嘆いていた。完全防水グッズで遡行するしか
なかろう成せばなるだ。夕方7時前に酒を飲んで寝た。起床は夜11時。発は深夜零時。
5.3(木) 予定通り夜11時に起きた。カップ麺とます寿司でエナジー万全。月の明か
りも射さない暗闇の立山川にいざ。
12.11 850m 馬場島発 しばらく林道を歩くとようやく雪が出た。しかし川の水量
は多い。ライトだけを頼りに進む。前日名人が下見をしてくれた地点でかろうじて濡
れずに徒渉出来た。しかしこの先も雪は少ない。ゴルジェは高巻きヤブ漕ぎが待って
いた。いきなりの試練だ。オートルートは遙か先だ。
2.10 1300m 毛勝谷出合い 立山川を右岸左岸と雪を求めて行ったり来たりでよう
やくここに着いたが、以前水量豊富。一体どこで谷が埋まるのか。おまけにデブリだ
らけで歩きにくい事この上ない。スキーのトレースは皆無。今年はシーズン無しだっ
たようだ。
標高1600m付近でようやく谷は埋まった。良かった。これで敗退しなくて済む。標
高1800mを越えるとカチカチの斜面、スキーを担いで慎重に高度を上げる。標高2000m
を越えてようやく朝が開けた。目指すは室堂乗越。
6.08 2360m 室堂乗越着 ようやく着きました。すでに出発から6時間、標高
差1500mのたっぷりのアルバイト、ようやくスタートラインだ。しかし第二の試練が
やって来た。
室堂乗越から僕が先に快適に雷鳥沢に滑り込んだ。ここで名人を待つも一向に来ない。
どうした名人。しびれを切らした頃名人が顔面血だらけで下りてきた。どうしたんだ。
暗くて雪面が良く見えず段差で転倒して思いっきり顔を氷化斜面に打ち付けたらしい。
眉の上は約5cm切れていた。すぐにバンダナを包帯変わりに巻いて止血した。
転倒時に脳震盪を起こしよく覚えていないが無意識に外れた板を掴み、片足で滑落を
免れたらしい。さすが名人だ。取りあえず行くしかない。時間もない。
8.21 2700m 一ノ越 朝の立山はカチンコチンだ。ここから御山谷を2500m付近ま
で滑り込み龍王岳と鬼岳の鞍部を目指す。まだ雪面は堅くスキーを担いでアイゼンで
進む。鬼岳山頂からは際どく獅子の鞍部に滑り込む。ここからまたアイゼンで登り返
し。
11.03 2710m 獅子岳 この辺りアップダウンの繰り返し。遙か遠くに薬師が見え
る。ようやく雪も緩み山頂からザラ峠を一気に滑り込む。超快感。できれば今日は薬
師峠まで行きたい。
11.22 2348m ザラ峠 ここから少し登り返し。
11.57 2450m 五色が原 五色の小屋は閑散としていた。まだ営業していないのか。
鳶山から一気に越中沢の鞍部に滑り込む。やっぱスキーは早い。緩斜面を登り切ると
またピークだ。
3.10 2591m 越中沢岳 ここからスゴの頭まで岩場が出てたりしてかなり厳しかっ
たが可能な限りスキーで滑った。しかし第三の試練、急に空は悪天の兆し。スゴの頭
の登りで雷、パチンコ大のあられおまけに突風の洗礼。雷の中スゴから先薬師は無理
だろうと判断。
5.00 2265m スゴ乗越小屋 この辺りは平坦地が多く。悪天候の中この先は危険
と樹林の中にテントを張る事にした。ようやく17時間行動が終わる。雪の中テントを
設営。ゆっくり過ごせるように少し重いが3-4人用のテントを持ってきた。名人と飯
を食いながら明日の作戦会議。出発は朝4時とした。
5.4(金) 夜中に激しくテントを叩く風の音。安眠できず深夜1時半に起床した。眠
りながら悪天にならない事を神に祈った。朝もたっぷり牛丼を食べ今日に備えた。
4.05 2265m スゴ乗越小屋付近発 さあ新穂まで抜けるぞ。モチベーションは高
い。高度が上がるにつれ雪面は氷化しだした。
5.00 2585m 間山 ここで朝日が上がる。ここから先はスキーを担いでアイゼン
で行く。氷の世界だ。雷鳥のつがいも散歩している。ここから薬師までが長かった。
これでもかこれでもかとアップダウンが続く。
7.10 2900m 北薬師岳 まだ薬師は先、風も強く激しい雪炎が巻く。しかし厳冬
期に鍛えた僕たちには問題ない。名人は心地良いと申していた。
8.05 2926m 薬師岳 ようやく着きました。感無量です。遙か先に双六が。あそこ
まで抜け切らねば。太郎からの登山者も続々と登ってきた。山頂から登山者を横目に
快適な滑り。これしかない。
8.39 2294m 薬師峠 あっという間。さあ北の俣まで登り。
11.00 2661m 北の俣岳 山頂で休んでいた登山者からHPを見て今日ここに来る事知っ
ていましたと有り難いお言葉。それではまたお先に行きます。
11.21 2460m 中俣乗越 ここからも強風の中五郎を黙々と目指す。五郎の斜面も上
部は氷化しておりアイゼンで行く。
1.00 2751m 黒部五郎の肩 ここから一気に滑り込む。
1.38 2345m 黒部五郎小屋 小屋にはスキーヤーが数名。この時期冬季小屋は使用
できるらしい。閑散としていた。さあ時間との闘いだ。最後の気力を振り絞り行くし
かない。
3.31 2841m 三俣蓮華岳 ようやくここまで来た。先行する3名パーティが見えた。
ここから正面ピークまで滑って登って双六小屋までトラバースして進む。
4.33 2500m 双六小屋 ここも閑散としていた。もう休まず一気だ。
4.46 2150m 双六谷大ノマ出合 さあ最後の300mの登りだ。ゴールは近い。もうへ
とへとでラッセルを交代して登る。悲しいかな登りのトレースは皆無だった。
6.06 2480m 大ノマ乗越 万歳、ようやくここまで来た。後は滑るだけだ。この時
間小池新道は貸し切りだった。大斜面を二人で自在にシュプールを描く。
6.45 1500m 左俣林道 もう大丈夫だ。真っ暗になってもライトで帰れる。
7.10 1400m ワサビ平小屋 ここで日没。ここの小屋も営業してなかった。真っ暗
な林道をライトを頼りにダッシュする。
8.24 1100m 新穂高 ゴール、無事成し遂げました。感無量です。こんな計画に付
き合ってくれるのは名人、君しかいない。有り難う。二人で荒神の湯で汗を流し、ま
た2時間かけて馬場島まで僕の車を回収しに行く。ここから自宅まで睡魔との闘い。
自宅に着いたのは日が変わった深夜2時。もう一度風呂に入って食事をしたらもう朝
4時半だった。
このコースは一端悪天候に捕まれば逃げ場が少ないのでそれなりの装備が必要だと思
いました。僕たちは3日は過ごせる食事と燃料を持ちました。
このコース体力はもちろん、スキー技術、冬山技術が必要な総合力を要するコースだ
と再認識しました。しかし苦労しても有り余る感動を与えてくれる事は間違いなさそ
うです。