剣岳、小窓尾根 ワンディ山行記録2010年10月17日(日)

馬場島を起点として小窓尾根を経由して本峰に立ち早月尾根を下降するワンディ周回を行った。

20時間に及ぶ厳しい山行になった。小窓尾根は予想通り薮ジャングルであった。

1.20 白萩川取水口 970m
2.44 小窓尾根取付 1110m
3.24 池ノ谷分岐  1540m
10.52 ドーム    2400m
14.00 三の窓    2700m
15.42 剣岳     2999m
16.00 剣岳発    2999m
17.42 早月小屋   2200m
20.41 馬場島    780m
21.20 白萩川取水口 970m

小窓尾根の適期は薮が隠れる残雪期だが薮が濃い無雪期に敢えて体力作りを兼ねて挑
戦してみた。

この尾根を最初に歩いたのは今から20数年前、この時はテントを担い
で一泊二日で歩いた。単独行での挑戦だったが、道を間違えて池ノ谷に入り込んだり
氷化した池ノ谷ガリーの登りに肝を冷やした懐かしい思い出がある。

さて今回は若いシンちゃんを連れての山行である。深夜零時に金沢の医院に待ち合わ
せした僕たちは気合い十分で馬場島に向かった。土曜日も激務で夜まで仕事が続いた
僕の仮眠時間は数時間、シンちゃんは遊びに精を出し過ぎて1時間しか寝ていないと言
う。寝不足状態だが気合いだけは充実していた。

真っ暗な馬場島に到着して白萩川方面に車を走らせるとちょうど一台の車がやって来
た。白萩川の取水口には既に一台止まっており、計三台の駐車となる。皆物好きだ。
どこへ行くのだろうか。大窓だろうか。

1.20 白萩川取水口発 970m 急いで支度をしてさあ取水口を出発だ。タカノスワリ
は高巻きが一般的だがこの時期水量は少ないし、どうせ一度は必ず徒渉があるので川
沿いを歩く事にした。

先週は雨でかなり水かさが多く苦労したが、今日は水も少なめで徒渉は楽勝だった。
軽量化の為に足袋を持参してある。左岸右岸と計4度徒渉して小窓尾根取り付きに到着。

2.44 小窓尾根取付着 1110m 小窓尾根の取り付きからすぐに急登が始まる。池ノ
谷方面は登山者も多く分岐までは踏み跡はしっかりしているので歩き易い。ハイペー
スでガンガン登って行く。

3.24 池ノ谷分岐  1540m ここで池ノ谷方面は右に下って行くが小窓尾根は尾根
伝いに激薮を進んで行く事になる。いきなり激薮の崖の様な場所を登る。厳しいな、
この先が思いやられる。この先踏み跡は皆無である。

笹だけならまだましだが灌木帯が続くと背負ったストックが引っかかり思うように進
めない。おまけに薮は朝露で濡れている為カッパを着込んで全身びしょ濡れで歩く。
手袋もぐしょ濡れで気温が低く手が寒い、気温は氷点下か霜が降りている。濡れた手
は辛く凍傷になりそうなくらい冷たかった。

どこまでも続く激薮に1時間頑張っても標高差で100−200m稼ぐのがやっとだった。
あちこち枝に擦れて擦り傷もできてしまった。

気が付いたらシンちゃん、買ったばかりのストックの先が薮に持って行かれなくなっ
ていた。シンちゃんショックで茫然自失で声も出なかった。かわいそうに、果てしな
く続く薮に時間はかかり果たして何時に劔に届くか不安になった。

時折見える富山平野の夜景を励みに暗闇の薮漕ぎは延々と続く。

ようやく6時を過ぎ夜が明けた。今日は快晴だ。絶好の登山日和だ。振り返ると富山平
野から日本海が見える。猫又山に朝日が射し輝いている。目指す剣岳はまだ遥か先で
ある。

薮ももう飽きて来た頃眼前に尖ったニードルが見えて来た。中々の光景である。これ
ぞ小窓尾根の象徴の言う岩である。ニードルが見えてからも中々遠かった。そそり立
つ尖塔ニードルにワクワクしながらひたすら薮を漕いで進む。

10.52 ドーム 2400m ようやくニードルにたどり着きそれを超えると今度はドーム
である。最初に小窓に挑戦した時はこのドームのピークの平たい場所でテントを張っ
た。しかし当時と違い現在は薮が生い茂り快適な幕営場所は無かった。しかも昔はこ
こから先はもう薮も無く快適に歩けたはずだが現在ではこの先も薮は濃く試練は続い
た。

ドームから一旦下ると今度は眼前にマッチ箱ピークがそびえる。昔どう登ったかは記
憶は無くただひたすら登りやすそうな岩場に必死にしがみついてフリーで登って行く。
意外と手がかりは多く危険は感じなかったが高度感はバッチリで落ちたら終わりの世
界である。

マッチ箱を過ぎても厳しい岩場のトラバースやナイフリッジが続く。ずっと経験のあ
る僕が先頭でルートを延ばしてシンちゃんが後を着いて来る。ナイフリッジでは左右
どちらも深い谷に落ち込んでおりよく事故が起きて滑落するのはこの辺りではとハラ
ハラしながら通過した。

小窓の王が近づくとルートは尾根を外れて左側を巻くようになる。さすがに標高
が2600mを超えるとようやく薮は無くなって快適な歩きとなった。三の窓へは確かガレ
場を下ったはずだ。しかしルートを外れて危うくガレ場で足元が崩れ谷底に引き込ま
れそうになるが何とか踏みとどまり難を逃れた。
 
14.00 三の窓 2700m 正しいルートに復帰してガレ場を下るとそこは懐かしい三の窓
だった。この辺りからシンちゃんの足が止まった。高度障害に陥ったようで脈拍が極
端に速くなると狼狽えていた。

何言ってんだシンちゃん頑張らないと山頂に着く前に暗くなるぞ、張ってでも降りる
から気合いで頑張れと励ました。辛いのは僕も同じ、ここまで来れば体力より気力の
問題だ。

池ノ谷ガリーでもシンちゃんは足が止まり、待っている時間と登っている時間が同じ
くらいになる。池ノ谷ガリーには少し雪は残るものの氷結しておらずアイゼンはいら
なかった。池ノ谷乗り越しまで上がるとようやくガスが晴れいよいよ本峰に向け
最後の頑張りとなる。

長次郎の頭は左から巻きラスト100m

15.42 剣岳 2999m ようやく日の傾きかけた誰もいない山頂に到着した。素晴らし
い展望である。出発から14時間の試練だった。待つ事しばらくシンちゃんも無事登頂
した。二人で記念写真を撮り喜びを分かち合った。

さあのんびりはできない暗くなる前に少なくとも早月小屋までは降りないと危険であ
る。

16.00 剣岳発 2999m シンちゃん根性で頑張ってくれ、ガンガン降りるぞ、この時
間山頂は愚か見渡す限り誰も人の影は無い、後は時間との闘いである。通常なら2時間
後半で馬場島まで帰れるだろうが今日はもう疲れ切っており時間はかかりそうだ。

僕が先頭で降りるがシンちゃんの足がついて来ないのでゆっくりペースで降りる事に
した。それでも徐々に差が開いて行く、標高2400m辺りでついに闇が迫って来てライト
が必要になった。早月尾根はシンちゃんも学生時代に歩いた事があると言う事なので
シンちゃんにはゆっくり降りてもらい僕が先に降りて車を回収して馬場島まで回す事
にした。

17.42 早月小屋 2200m もう小屋は閉鎖されており誰もいなかった。振り返ると遥
か上方にシンちゃんのライトが見える。こちらからもライトで合図を返す。

完全に暗くなると足元がぼやけてもう慎重に歩かざるを得なかった。おまけにガスが
光を散乱してしまい視界が悪い、ただただ根性で下って行くだけだった。時折ガスの
晴れ間から見える富山平野の灯りを慰めにいつかは馬場島に着くからと頑張った。

長い長い下降だった。早く降りたいのは山々だが怪我をしたら元も子もなくなるので
慎重に慎重に降りた。

20.41 馬場島 780m ようやく着いた。後は車を回収してシンちゃんを待つだけであ
る。馬場島に降りて休む事も無くダッシュで車を回収しに行った。

21.20 白萩川取水口 970m ようやく車を回収荷を積んで馬場島に戻ったところでシ
ンちゃんに合流、20時間に及ぶ闘いは終わった。自宅に連絡をする為に馬場島荘によっ
たところご主人と奥さんからコーヒーでも飲んで行かれとごちそうになった。手作り
のパンまで有り難うございました。

こんな遅い時間まで山にいたのは厳冬期の白鳥で反対の谷に降りてしまい道に迷った
時以来である。無雪期の小窓ワンディ、もう行く事も無いだろうが本当に試練だった。

北鎌ワンディも大変だったが、薮ジャングルの小窓ワンディはもっと大変だった。

暗闇の白萩川徒渉

秋になれば水量は減り徒渉も楽、高巻いても一度は徒渉があるので地下足袋を持参した。

小窓尾根取り付き

取り付きから標高1540mの池ノ谷への分岐までは踏み跡はしっかりしている。

小窓ジャングル

分岐を過ぎたら猛烈な薮の始まり、身の丈を超える灌木帯は1時間で100m稼ぐのがやっと、標高差で1000mは

薮漕ぎに耐えなければならなかった。

夜が明けた

ようやく暗闇から開放され猫又山に朝日が当たり出した

劔本峰が

遥か先に本峰が、まだまだ遠い

まだ余裕

まだまだ余裕の表情

小窓尾根を振り返る

白萩川もずいぶん下になった。

ニードルとドーム

正面にニードルとドームが見えたがここから意外と遠かった

ニードル

ニードルは小窓尾根の象徴

ニードルを横目に

ようやくニードルの高さまで登って来た

岩と薮のミックス尾根

時にはロープを頼りに慎重に登って行く

際どいトラバース

下は谷底、慎重にトラバース

おお怖

ニードルを超えてもドームまでかなり際どいアップダウンがあった

ドーム

ドームのピークはテンバになるが昔に比べ薮っぽくなっていた

ピラミッドさらにマッチ箱へ

ドームを過ぎたら今度は這松の薮が延々と行く手を遮ってくれるではありませんか

ナイフリッジ

左右とも谷底、慎重に超えて行く

這松帯

這松も中々手強い

どこまでも続く岩岩

天候が悪ければ滑って危険だろう。晴れた日に一気に勝負だ。

岩場を振り返る

岩場もアップダウンの連続で時間はドンドン過ぎて行く、午前中に山頂に着くだろう考えは甘く何とか明るい内に着ければ

と修正する。

ガス

午後になるとガスもわき出し幻想的な景色になった。後方に見える山頂までまだまだ試練が続きそう。

急ぐぜ

さすがにのんびりもしていられない、慎重に先を急ぐ

小窓の王

小窓尾根もようやく終わりに近づくと小窓の王が迎えてくれる

池ノ谷ガリー

小窓の王の基部を三の窓に降りて池ノ谷ガリーを登り返す。シンちゃんガンバ。

池ノ谷乗り越し

乗り越しまで上がるとガスが晴れ後立山の大展望が広がっていた。さあ行くしか無い。

山頂

14時間かけてようやく山頂に着いた。時間は既に夕方4時、馬場島まで闇との闘いになった。

張ってでも降りるでシンちゃん。。。

 

HOMEへ戻る