笠が岳・五ノ沢(冬季日帰り)2897m 岐阜県
新穂高から厳しいラッセルに耐え笠が岳を目指した。如何に安全に山頂に立ち念願だった五ノ沢を滑降するか。
厳しい困難の末に無事新穂高に戻ることができた。五ノ沢の全貌を写真に捉えることもできた。
地図をにらめっこしながら冬季笠が岳の山頂に立てる最短の安全なコースはこのルートしかないと考えた。
ワサビ平正面尾根は予想通りの快適で安全な尾根であった。
ワサビ平正面尾根2200m
尾根の下部は樹林帯でラッセルもつらかったが標高が上がれば雪面も強風で堅くなってきた。
杓子平まで快適にスキー歩行ができた。稜線に上がる際は雪庇を少し崩してはい上がった。
杓子平
稜線にあがれば真っ白な杓子平が広がっていた。
杓子の笠
杓子平から笠が遥か遠くに純白に輝いていた。
錫杖岳
冬季の錫杖もすざまじい眺めであった。
杓子からの槍
この時期飛騨沢も白く輝いていた。どこでもシュプールが描けそうだ。
主稜線にて
主稜線から笠までアップダウン,ラッセル,クラストと厳しいアイゼン歩行を余儀なくされた。
笠山頂
強風で雪炎が舞い続け背後の景色はかき消されていた。
山頂からGo
雪炎の中パウダースキーを満喫した。
播隆平からの穂高連峰
播隆平では穂高を見ながらの滑降である。
五ノ沢入り口
播隆の扇の要はすべて五ノ沢に狭まっていく。手前で偵察中の深澤君。
五ノ沢に落ちる
いよいよ50度を超す五ノ沢に。上から見ると落ちていく感覚である。
飛んだ
ジャンプターンの連続で一人ずつ落ちていく。
五ノ沢核心部を過ぎて
両側断崖絶壁に囲まれた五ノ沢。日も射さず,クラストして堅ければスキーは不可能だ。
降雪後がチャンスである。
デブリの山
滑る前はすべすべ斜面だったが滑走後はデブリの山となった。
五ノ沢全景
無事滑り降りることに成功した。
穴毛谷
ようやく林道に戻り恐怖の穴毛谷を振り返る。もう二度と滑りたくない。これが本音。
山行記録2004年3月10日(水)
幾多の危機を乗り越え、多分過去に例がないと思われる冬季の
笠ヶ岳日帰り+山頂からの五ノ沢滑降を成し遂げました。
今日は生きれ帰れてよかった。これに尽きます。
【山域】笠ヶ岳 2897m
【場所】岐阜県
【日時】3月10日(水)
【コース】新穂高−ワサビ平小屋正面尾根−杓子平−稜線−笠
五ノ沢−穴毛谷本谷−新穂高
【メンバー】僕・深澤君
【装備】サロモン・Verse7 150cm,ディアミール3,ノルディカTR12(僕)
サロモン・ポケロケ 175cm,ディアミール2,ローバストラクチュラ(深
沢)
【天気】快晴、強風
数日前にかなりの降雪があり此処笠も厳しいラッセルが予想された。
だからこそ日帰りの挑戦をしたかった。それと長年の課題の山頂からの
五ノ沢滑降を是非成功させたかった。パワーの有り余っている深沢君には
ちょうどよい運動になるだろう。
3月9日(火)
昼休みの仕事の合間に明日は笠へ行くから心しておくようにと携帯した。
深沢君は早速仕事を切り上げ新穂に向かうとのことだった。
僕も仕事が終わった夜7時過ぎあわてて荷をまとめ新穂に向かう。
大沢野の大衆食堂島田でいつものオムライスをたらふく食べて気合
を入れる。
新穂には先日の雪がまだ路面に残っていた。駐車場には山梨ナンバーの
深沢号がすでに。早速僕のパジェロで宴会。如何に安全に笠を目指すか。
以前から研究していたワサビ平小屋正面尾根なら安全だろうと打ち合わせ。
このコース自分で考えたもので本当に安全か否か正直自信がなかった。
誰か此処から冬季笠を目指した方いるでしょうか。
少し酔いが回ったところでお開き、起床は深夜1時45分。スタートは2時半と
伝えた。明日も気合入れまくりだ。
3月10日(水)1時45分起床。3時間睡眠はちとつらいが、がんばるしかない。
いつものごとくエンジン音を響かせ深沢君に合図。彼ももう起きていた。
急いでラーメンをすすり荷支度をする。万一に備えピッケルのほかアイス
バイルも持つことにした。
2.30 1050m 新穂発。林道の除雪はなく、駐車場からシール歩行。
林道は雪が締まっており歩きやすかった。満天の星を見上げ
無事の帰還を祈る。
4.04 1402m ワサビ平小屋。小屋の手前で猛烈なデブリ、怖い怖い。
小屋での積雪は約2mたっぷりの量である。此処で少し休んでいよいよ
正面の尾根に取り付く。樹林帯は靴上のラッセルだった。やはり甘くはない。
数年前5月に穴毛谷から笠を往復したが、冬季はやはり厳しい。
ハイペースでどんどん高度を上げる。僕のライトは電池切れ、面倒なので
電池も代えず月明かりで進む。
5.07 1650m 此処は平坦地で格好のテン場になろう。標高1800mあたりから
進路はやや左に折れる。尾根の左右は沢に挟まれ此処は安全地帯である。
ドンドン高度は上がる。ラッセルも相変わらず靴上である。上部に雪庇の
たれる稜線も見えてきた。もうすぐで杓子平である。
7.53 2472m 稜線杓子平着。雪屁を一部崩して這い上がる。此処からは
笠の眺めが素晴らしかった。杓子平を横切り、抜戸−笠の稜線を目指す。
ラッセルは続き、やはり厳しい試練。根性を入れようやく稜線到着。
9.29 2753m 主稜線着。此処から笠はアップダウンが続き、長い道のりだ。
稜線はクラスト部分が多く、気を抜けない。下りでいきなり深沢君のクトーが
アイスバーンにささり大転倒した。まずいクトーをはずして進もう。
しかしこれが悪夢の始まりだった。クトーは万一に備えザックベルトにつけ
万一滑落してもうつ伏せで止まれる位置に付けた。
クトーをはずしゆるい下りを滑った瞬間だった。カチカチのアイスにシールが
滑り僕は転倒した。その瞬間滑落した。足を下にしてブレーキをかけるも
カチカチの斜面では無駄だった。下に谷が見える。あそこまで落ちたら
助からないかもしれないと思った。わずかな時間だがいろいろな思いが
脳裏を駆け巡る。もうだめかと思った瞬間、わずかな吹き溜まりがあり
此処で止まった。助かった。千載一遇の出来事だった。
後ろで深沢君の叫び声が聞こえた。彼も同じ場所で転倒し滑落した。
僕が止まった場所より下まで落ち体が頭から回転しうつぶせになった瞬間
止まった。クトーである。腹のベルトに付けたクトーが雪面に刺さり助かった。
二人顔を見合わせて、僕たちまだ世の中の役に立てると神様が助けてくれ
たんだ。そう思った。もうスキーは止めアイゼンに履き替えつぼ足で歩くこと
にした。此処から笠までまたクラスト斜面やラッセルを続ける。
11.21 2810m 笠の小屋。もう山頂が間近である。風は強く、雪炎が
舞っている。最後は膝上ラッセルでようやく山頂に着いた。
11.42 2897m 笠ヶ岳山頂着。硬く握手を交わし、記念写真を撮る。
今日もハードだった。しかしこれからが本番である。五ノ沢だ。
12.15 2897m 笠ヶ岳山頂発。雪の状態はよく稜線から見える。
穴毛谷もデブリは皆無だった。弱層もなく、この日をおいて
五ノ沢滑降はありえない。行くぞ深沢君。
彼も腹を決めていた。万が一滝が出てたり、凍り付いていたら
登り返す覚悟であった。体力はまだ大丈夫だ。
山頂から播隆平へ滑り込む。雪質はよかった。急斜面もジャンプターン
でこなしていく。扇はだんだん狭まりいよいよ未知の五ノ沢だ。
1.07 2540m 五ノ沢入り口。下は見えない。怖い。深沢君は先発隊で
降りれるか見てくれた。ちょっとやばいかも。岩も出ています。
急で下が見えませんという。行くしかないだろう。ビビル深沢君の尻を
押した。だめなら登り返してこい。僕も鬼であった。
すごい沢であった。50度以上はある。滑るというより落ちると言う表現が
あっている。ジャンプターン以外手はなかった。一人ずつ落ちていく。
一方は周囲に細心の注意をはかり、雪崩の危険を伝える。
核心部の喉を過ぎ、少し下った途端側壁から雪崩が出た。深沢逃げろ。
デブリが深沢君に迫るが間一髪逃げた。監視がなかったらアウトだった。
さあ休まず一気に行くぞ。気温も上がりだしてきた。
1.43 1850m 穴毛谷本谷。ここでも不気味な音が聞こえる。
やはり監視しながら一気に行く。また側壁から一発来た。
深沢君逃げろ。ストックを置いたまま一目散に逃げる。
これまた大丈夫であった。もう休まず下るしかない。
直滑降で僕たちは穴毛谷を滑り降りていく。
2.06 1300m 穴毛谷堰堤。もう大丈夫だ。安全地帯だ。よかった。
もう二度と五ノ沢は御免だな。お互い顔を見合わせて納得した。
2.16 1245m 左俣林道。後は新穂まで一気に下った。
2.30 1050m 新穂高。12時間の厳しいスキー山行だった。
正直いろいろな危険もあったが考えさせられることも多かった。
危険を回避するためにできる限りの事を行ったがやはり自然には
敵わないと思った。二人の協力があってはじめてなしえた山行だった
五ノ沢は決して人にお勧めできないエクストリームな沢でした。