白山中宮道

白山には色々な登山道が存在するが一番好きな登山道はこの中宮道である。山頂から
中宮温泉に至る全長20kmにも及ぶロングコースである。一般的には下山時に使われる
ことが多く,最盛期でも人とすれ違うことはほとんどなく静かな静かな花を楽しむ旅
が満喫できる。このコースは途中営業小屋はなく2カ所の避難小屋を利用することに
なるので寝袋や食料は持参する必要がある。

ある年に訪れた秋の記録を述べてみたい。

ある年の10月の連休を利用してかみさんにお願いして市ノ瀬まで車で乗せていっても
らった。当然中宮温泉には車で迎えに来てもらう予定である。自炊道具で大きなザッ
クを一杯にしてまずは白山室堂を目指す。室堂では紅葉を楽しむ人でごった返してい
た。早くこの雑踏から逃れたい気分であった。山は静かな方が良い。

白山山頂では快晴に恵まれ心ゆくまで展望を楽しむことが出来た。展望を楽しんだあ
とはいよいよ山頂から中宮温泉まで20kmに及ぶ長旅のスタートである。

お池巡りをしながら釈迦新道との分岐から少し進んで下ればビルバオ雪渓である。此
処の雪渓は例年8月末まで残っている。もう人はほとんどいなくなった。先程までの
雑踏は嘘のようである。この雪渓からわずかでお花松原に到着する。白山で最も高山
植物に恵まれた花の楽園であるが存在すら知らない人も多い。クロユリを始め様々な
高山植物が競うように咲き乱れている。

お花松原に未練を残しながら先を進むと次は地糖とロックガーデンが混在する北弥陀ヶ
原である。草原地帯には地糖が点在しニッコウキスゲなどが咲き乱れている。静けさ
は一層増し振り返れば剣が峰や大汝峰の展望が素晴らしい。行く手の左には火の御子
や仙人谷のすざまじいガレ場が見渡せる。地獄絵のようである。

すれ違う人もなくアップダウンを繰り返せば中間点に位置するゴマ平小屋が見えてき
た。ここが今日の宿泊所である。新しく立て替えられたばかりのこの小屋は快適なこ
と申し分ない。水場も近く,静かな小屋でロウソクを灯しながら豚汁を作る。このよ
うな小屋で一人俗世間を離れて物思いにふけることは実に心身をリラックスさせてく
れる。普段の診療活動から解き放たれ自由になれる一時である。聞こえるのは動物や
鳥たちの鳴き声と風のささやきだけである。シュラフに潜り込んで普段より随分早い
就寝である。

朝起きると小雨が降っていた。柔らかいガスに包まれながら残り10km中宮温泉に向か
う。途中猿や鹿などの動物にも出会うことが出来る。人がいないと言うことは動物た
ちにとっては楽園なのである。シナノ木平小屋は薄暗く古びており泊まるならやはり
ゴマ平小屋であろう。この辺りはブナの大木も見事であった。

最後に清浄坂をいやというほど下れば中宮温泉が見えてきた。この辺りの温泉は登山
者には優しく気持ちよく温泉入浴をさせてもらえる。温泉に入りながら中宮道を思い
起こし幸せな気分に浸る。白山を楽しむならこのコースに限ると改めて感動した。

中宮道から剣が峰,大汝を振り返る。

ゴマ平避難小屋

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