山スキーとは

山スキーとは創造と自然回帰のスポーツである。冬,山はすべてが雪に閉ざされて白
銀一色になる。この時期山は人間世界とは隔絶され本来の原始の姿を取り戻す。もち
ろん登山道なんて無い。白一色の雪原や谷,尾根などどのようなルートを取って登ろ
うとも滑ろうとも自由自在である。山スキーでは登るときにはスキーの裏にシールと
言って特殊なナイロンを装着する。これによってスキーは前方向には進むが後ずさり
をしない一歩通行になる。もちろん滑るときはシールを外すから普通のスキーのよう
に滑り降りることが出来る。つまり歩行と滑走の両機能を兼ね備えている。

元々スキーはゲレンデスキーが広まる遙か以前に雪山でいかに人間が効率的に移動で
きるかを考え抜いた末に生まれた産物なのである。スキーがあれば雪山でも潜らずに
歩けるし,滑ることで早く下ることが出来る。いわば雪山で人の行動の自由を広げる
魔法の道具なのである。僕はスキーが大好きではあるがゲレンデスキーには一切興味
がない。人間が自然を破壊して作り出した味毛のない無味乾燥な斜面など滑っていて
もおもしろくも何ともない。そこには創造がない。

その点山スキーは斜面一つ取ってもアイスバーン,パウダー,ザラメ,モナカ雪と標
高によっても天候によっても時期によっても雪質は刻々と変化する。最高の贅沢とさ
れるパウダーなど粉雪を顔面まで吹き上げながら滑る快感はスキーの中でも極上の快
楽とされる。時々刻々と変化する雪質すべてに対応できる能力が必要なためゲレンデ
に比べれば滑走は遙かに難しい,それがまた冒険心を駆り立てるのである。

またわずか1本の短時間の滑りのために1日がかりの汗が必要な一見馬鹿らしいような
行為がまた山スキーの魅力なのである。1本の滑りのために神経を集中して全身全霊
を傾ける。これもまた魅力である。

冬はすべてのものが雪で覆われるため藪はすべて隠れてしまう。無雪期には藪が深く
て登れないような山でもスキーを使うことで容易に登頂することが出来る。ブナの原
生林や白樺の林などその合間をぬって自由自在にスキーを滑らせるほど楽しいものは
ない。これこそ文明が発達して人間が忘れかけていた自然への回帰を呼び起こしてく
れる楽しいスポーツなのである。一度この世界にはまってしまうとなかなか抜け出す
ことは容易ではない。

山スキーのシーズンは長く,毎年11月から6月一杯までの8ヶ月間たっぷりこの世界に
浸れることが出来る。1,2月なら金沢近郊の医王山あたりでも十分山スキーを満喫す
ることが出来る。この時期医王山山頂でも4〜5mの積雪があり展望台はすっぽり雪
に隠れてしまう。雪が少しずつ溶けだして春が訪れると雪を求めて北アルプスがゲレ
ンデとなる。雪を求めて尾根から谷へと移動していく。6月の中旬でも富山の毛勝谷
では標高差1500mのスキーが楽しめるなんて一般の人には想像だに出来ないだろう。

6月にシーズンが終わればまた雪の降る11月まで新たなシーズンを迎えるまでの僕の
しばらくの冬眠が始まる。山スキーは人間が失いかけている創造と自然回帰を呼び覚
ますスポーツなのである。

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