雪洞(それは最強のシェルター)

 雪洞の中で一人で寝たことのある人はよほど山を知り尽くした人だろう。僕自身初め
ての雪洞体験は富山の毛勝山2414mの山頂直下であった。別にテントを持っていなかっ
た訳ではないが以前から興味のあった雪洞体験を実施してみたかった。剣岳の展望を
楽しみながら持っていったショベルで約2時間ほどかけて広さ1畳ほどの快適な雪洞を
こしらえた。ウーン初めての手作りにしては上出来だ。

冬眠するクマじゃあるまいし人間が雪の穴で快適に眠れると思っている人は少ないだ
ろう。一般的に考えればそんなことをすれば凍死してしまうんじゃないかと思うのも
無理はない。ところがどっこい,この空間の快適なこと。猛烈な風や雪がふきつける
冬山では雪洞は最強のシェルターになり身を守ってくれる。下手に冬山でテントを張
ろうものなら風でテントが引き裂かれたり,時として雪に押しつぶされてしまったり
と非常に危険な状況に陥ってしまう。その点雪洞の中は湿気はあるものの快適そのも
の,外が嵐であっても音は完全に遮音され,静寂そのものである。周りを削れば水は
いつでも調達できるわけだし,穴を掘れば何処でもトイレになり用を足す毎に雪で埋
めれば臭いが洩れることもない。蝋燭一本でも灯せば雪に反射してそれだけで明るく,
しかもそこそこ暖かく雪洞内は0度を下回らない。冬山においてはまさに夢のような
住まいなのである。

ただしこの雪洞にも欠点がないわけではない。雪洞内でガンガン火をたいていると天
井が融けてだんだん下がってくるのである。あらかじめ天井の厚みが十分ある場所で
掘らないと天井に穴が開くことさえあるのである。こうなったら最悪一晩中恐怖にさ
らされることになる。

かって厳冬期の穂高岳で一人雪洞を掘った時,夜ガンガン火をたいてそのまま就寝,
朝目が覚めて起きてびっくりなんと寝ている内に天井が下がってきて寝ている目の
上30cmほどまでに迫ってきていた。すんでの所で雪で生き埋めにされてしまうところ
であった。それ以後雪洞の天井の高さは十分高くするように心がけている。

誰しも子どもの頃に家の庭先でかまくらを作って遊んだ経験があるだろう。大人になっ
て子どものように夢中になってかまくらを掘るとは思いもしなかった。雪洞に限らず
山の世界には非日常的な楽しい遊びが一杯なのである。

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