涸沢岳・西尾根(3110m)厳冬期ワンディ滑降
冬季穂高に入山するクラシック尾根だが取り付から蒲田富士は標高差1200mの急峻な尾根である。スキーがあればこのコースでもワンディできる事を
証明したかった。15時間に及ぶ氷との闘いであった。
コース概要
新穂高から山頂まで標高差2000m,ラッセルが無い時は季節風をまともに受ける尾根なので森林限界以上では厚い氷が雪面を被い,ダブルアックスで行くしか無い。
白出小屋
厳冬期の小屋の風景,積雪はこの時期が最も多い。帰りの写真だがまだまだ余裕であった。
涸沢岳西尾根下部
尾根は全般に急で徐々に痩せて行く。スキーを脱ぐと膝下まで潜った。短いファットスキーなら楽勝だ。
急峻な時は
急峻な場所ではスキーを脱いでつぼ足で行くしか無かった。木に捕まるモンキーもしばしば。
スキーはもう限界
標高2300mからはスキーを担いだ。靴上から膝下ラッセルが森林限界まで続く。
西尾根の右手
西尾根の右手には西穂高西尾根が西穂山頂まで続いて行く。
西尾根の左手
蒲田富士
森林限界を超えると蒲田富士2742mの端正な姿が見える。
蒲田富士手前からの見下ろし
蒲田富士までも凍り付いた氷壁をダブルアックスで登り詰めて行く。
ナイフリッジ
蒲田富士からはプラトーなナイフリッジが続く。ザイルで確保されながら慎重に進む僕。
滝谷
このコースの最大の見せ場は凍り付いた冬の滝谷である。
ラスト400
最後の標高差400mがつらく長かった。山頂までカチカチの氷壁が続き,アイスバイルでさえも刺さらない
場所があった。アイゼンはつま先が1cmほどしか入らなかった。
山頂手前からの尾根の見下ろし
核心部分のナイフリッジを見下ろす。
山頂まであとわずか
何度も偽山頂に騙されて登り続ける。
ついに3110m涸沢岳山頂に到着した。10時間を越す苦行であった。
山頂は風が強く,急いで下った。穂高岳山荘までも堅い氷に悩まされた。
風は強く稜線には雪炎が舞う。
風の無い東面に回り込んでクラスト斜面を穂高岳山荘まで下った。
山荘から見上げる奥穂方面はマッターホルンのようだった。
標高2850mまでカチカチの斜面をダブルアックスで下る。甘くは無かった。
白出沢は大滝上部までデブリも無くとても快適だった。
どこまでも快適な斜面が続く。
大滝の巻きで氷壁に阻まれまた懸垂下降した。
大滝下合流部は雪崩の巣でデブリの嵐だった。危険地帯は一気に通過。
白出下部は安全なモナカ斜面だった。後は林道を下るだけ。今日も完全燃焼だった。
山行記録2006年2月22日(水)
時には限界に迫るような山行に挑戦してみたい。過去に記録があるかどうか分からな
いが15時間に及ぶ今期最長の挑戦だった。
【山域】涸沢岳 3110m
【場所】岐阜県
【日時】2月22日(水)
【コース】新穂高―涸沢岳西尾根―蒲田富士―涸沢岳―穂高岳山荘―白出沢―新穂
【メンバー】僕・深澤君
【装備】アトミックシュガーダディ 153cm,ディアミール,ガルモント(僕)
アトミックシュガーダディ 153cm,ディアミール,ガルモント(深沢君)
【天気】快晴
直前まで立山か涸沢岳か迷ったが、より安定した天候が求められる涸沢岳に挑戦する
ことに決め深沢君に万難を排して来るように連絡した。
2月21日(火)いつものように大沢野の島田でオムライスを食べて新穂に向かう。
すでに深沢君は到着していた。登山届けを出して宴会である。地図を見ながら明日の
コースはかなりハードだから朝2時半発と伝えた。睡眠時間は3時間もあれば十分だ
ろう。
2月22日(水)朝2時起床。パンをかじって急いで準備である。深沢君はもうとっ
くに起きてカップ麺やおにぎりをバクバク食べていた。
2.30 1110m 新穂高ロープウェイ駐車場発。さあ行くぞ、工事のため林道はしばら
く除雪されていた。暗闇の中黙々と歩いていく。トレースがある。先日の三浦さんの
ものか。林道はカットして穂高平山荘はパスした。
4.12 1540m 白出小屋。ようやく到着。ここで大休止、先は長いエネルギーを補給
する。
4.30 1530m 涸沢岳西尾根取り付き。いよいよ尾根の取り付きだ。この尾根蒲田富
士まで標高差1200mの急峻な尾根である。スキーで上がろうなんて考える人はまずい
ないだろう。ラッセルはなかったが斜度はきつくモンキーラッセルを使いながら高度
を上げる。クラストしている場所ではスキーを脱いでツボ足で歩く。ツボ足なら膝ま
で潜る。辛い登りが続く。
6.00 2000m 西尾根標高2000m。まずまずのペースである。このままスキーを使え
ればよいが甘くはなかった。斜度は更に増しおまけにクラスト急斜面でもうギブアッ
プだ。
8.30 2300m アイゼン歩行開始。アイゼン歩行も難儀だった。膝ラッセルに一向に
高度は稼げなくなった。時間200が精一杯だった。高度が増し2600mからは凍り付い
た雪壁の登りとなった。ダブルアックスでアイゼンのつま先で登り上げるのが精一杯
だった。滑ったら一巻の終わりである。
10.13 2742m 蒲田富士。ようやく着いた。眼前には圧倒的な涸沢岳がそそり立つ。
残り400である。ここから尾根はプラトーになりナイフリッジや雪庇帯を進むためロー
プを出して確保して歩く。時間はどんどん過ぎていく。
滝谷を見ながら氷壁をガンガン登っていく。アイスバイルさえも刺さらないほどのカ
チカチの斜面も出てきてビビリまくる。つま先1cmがやっとで綱渡り状態で高見を目
指す。この時期やはり3000m峰は甘くはない。長く辛い凍り付いた尾根をこれでもか
と進むとようやく山頂が見えた。最後の一踏ん張りだ。
12.56 3110m 涸沢岳着。強風で長居はできない。記念写真を撮って早く下ろう。穂
高岳山荘から白出沢を下ろう。今日は雪は安定しており問題ないだろう。
1.13 3110m 涸沢岳発。まだまだ凍り付いた尾根は続く。ダブルアックスで慎重に
下りようやくスキーが使えそうだ。一気に山荘まで滑り込んだ。
1.54 2983m 穂高岳山荘着。ここからもう楽勝だと思ったが、白出沢上部はまたも
氷壁でスキーは使えず標高2850mまでアイゼンで下りた。
2.40 2850m 白出沢スキー滑降開始。これで下りられる。デブリのないまっさらな
沢を自在にクルージングである。ようやく苦労が報われる。
3.21 2200m 白出大滝巻き。巻きの途中で氷壁が出てきてまたもザイルのお世話に
なる。最後まで楽ではない。巻きが終わると猛烈なデブリ帯、早く安全地帯へ急ごう。
白出沢下部は快適なモナカ帯であった。
4.51 1540m 白出小屋。ようやく林道だ。もう怖い場所はない。後は一気にすっ飛
ばした。
5.30 1110m 新穂高ロープウェイ駐車場着。着いた。15時間の難行だった。今日は
久しぶりの完全燃焼であった。
自宅に帰ると体重は今期最低の55kまで落ちに落ちていた。
山スキー万歳、今日も無事に山行が終わり山の神様に感謝した。
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