西穂高・西尾根(2908m)厳冬期日帰り滑走

西穂高のバリエーションルートである西尾根,山頂まで厳冬期はつらく長いラッセルが待ち受ける。上部の岩峰群を

如何にこなすかが鍵である。過去に例がないであろう厳冬期の日帰り滑走を行い,山頂から小鍋谷を滑降した。

コース概要

新穂高からトレースは一切無く,標高差1800mを越える過酷なラッセルが待ち受けていた。山頂からの

小鍋谷は予想通り超快適な滑走であった。

穂高平避難小屋と西尾根

年末年始以外の厳冬期は訪れる人もなく,閉鎖されている。

後に見えるのが西穂に突き上げる西尾根である。どこからでも取り付ける。

笠の夜明け

午前7時過ぎ笠にようやく朝陽が当たりだした。既に標高は1900m近くに達していた。

第一岩峰手前

標高2400m付近で正面に大岩峰が立ちはだかっていた。僕たちは左の谷から巻いた。

第一岩峰の巻き

岩峰を巻く途中に西尾根を振り返る。

標高2500m付近

第一岩峰の巻きは急な雪壁のトラバースが続いた。

岩峰を巻いて尾根に復帰

岩峰を巻くとようやく正面に西穂高山頂が見えてきた。まだまだ岩峰は続く。

岩峰を振り返る

奥から第1,第2岩峰が見える。この先も尾根上は難所が続く。

標高2550m

ここからも山頂まで尾根上はアップダウンが続くためここで右の小鍋谷に下りて山頂下まで一気に

トラバースする事にした。

トラバースルート

中央がジャンクションコル。山頂下雪壁までトラバースして一気に登り上げることにした。

トラバース

雪の状態は安定していた。トップスピードで一気に危険地帯を通過する。

山頂下雪壁を行く

最後の標高差200mがつらく長かった。ザイルは不要であった。

西穂山荘からの尾根

右手には西穂山荘からの通常コースがノコギリの歯のように見えた。

山頂記念写真

奥穂をバックに万歳であった。出発から9時間を超える難行であった。

山頂からの展望

見慣れた奥穂から槍への稜線。

霞沢岳

やはり今シーズンの厳冬期に日帰りした霞沢岳が最も感慨深かった。

いざ山頂滑走へ

山頂から小鍋谷を滑走することにした。正面が西尾根である。上部は岩が出ており

横滑りと斜滑降でこなす。

Go

さて深澤君の滑りを見せてもらいましょう。この辺りクラストしてカチカチの急斜面。

見上げ

雪炎を上げ宙に舞い続ける深澤君。

小鍋谷上部

小鍋谷上部はカール状でとても広く快適。雪の状態は極めて安定していた。

標高2500mの見上げ

どこまでも広く快適な斜面は続く。

小鍋谷標高2300m

谷は次第に狭まってくる。標高2100mまで無木立であった。

小鍋谷下部から

一番奥にジャンクションコルが見える。

コルの向こうが西穂沢,向こう側を滑って白出に出ることも可能。

標高1900m

この辺り標高差300mほど超快適なU字谷が続いていた。雪質は最高であった。

ようやく穂高平小屋に

谷を行くと最後広い牧場に出た。標高1600m付近をうまくこなしてください。

新穂高にて

愛車の前で記念写真。今日も完全燃焼であった。体重は4kg減ってしまった。

山行記録2004年2月1日(日)

多分過去に成し得た人はいないであろう厳冬期の西尾根経由日帰り山頂滑走。今日も
あの人と12時間を超える限界に近い難行の末成し遂げることができた。西穂山頂から
の小鍋谷滑走は今期最高のパフォーマンスであった。

【山域】西穂高岳 2908m
【場所】岐阜県
【日時】2月1日(日)
【コース】新穂高−穂高平避難小屋−西尾根−西穂山頂−小鍋谷−新穂高
【メンバー】僕・深澤君
【装備】サロモン・Verse7 150cm,ディアミール3,ノルディカTR12(僕)
    サロモン・ポケロケ 175cm,ディアミール2,ローバストラクチュラ(深沢)
    50mザイル,登攀具,アイスバイル,ピッケル
【天気】快晴

厳冬期こそが山スキーの優位性を示せる最高の時期で,かつ最高の滑走を楽しめる季
節でもある。このコース,厳冬期ツボ足なら強力なパーティで望んでも最低3日はか
かると思われる。山スキーなら日帰りも可能であることを今日も実践したかった。

1月31日(土)先週の白鳥で風邪を悪化させた僕は今週薬漬けでだましだまし日々を
過ごし何とか仕事だけは休まず無事遂行することができた。この日も仕事が終わった
夜7時,今シーズンの大きな目標であったこのコースをまたあの人と実践しようと金
沢を発った。時間に余裕のある山梨の深澤君は先に新穂高に入っていると言うことだっ
た。

高速を富山で下りて国道41号を南下する。今日はとろ一ではなく大沢野の大衆食堂島
田に決めた。大沢野警察署を過ぎ約500m左手にこの店はある。何がうまいかって,と
にかくオムライスがうまい。オムライスと言えば島田。島田と言えばオムライスであ
る。ここで腹一杯になり新穂へ急ぐ。

夜10時前新穂に到着。登山届けを出して駐車場へ。既に深澤君は酔いが回りできあがっ
ていた。僕の車に入ってもらい打ち合わせをした。山スキー以外に山に全く関心がな
い彼はもちろん西穂へ行ったことなんか無い。僕もこのコースの知識は皆無に等しい。
万全を期すために50mザイル,登攀具,アイスバイル(ダブルアックスに備え)は持
参することにした。さて朝は早いすぐに寝るとしましょうか。

2月1日(日)朝2時起床。今日も激しい一日になりそうだ。正直風邪に寝不足が重な
り頭はフラフラし体調は芳しくなかった。でも気力だけは充実していた。

2.48 1100m 新穂高ロープウェイ駐車場発。さあ行くぞ。山頂まで標高差は1800mで
ある。駐車場を出るといきなりラッセルであった。せめて林道だけはトレースを期待
したがこの時期あるはずがなかった。いきなりの激務に早くもめまいがしてきた。多
分退却かもと脳裏をよぎった。深澤君は僕の体調不良を察して先頭を行かしてもらい
ますと頼もしいサポートであった。僕も彼の友情を裏切れるはずが無く頑張るしかな
かった。

4.01 1350m 穂高平避難小屋着。ここまでも厳しかったがこれからが本番である。
未知の尾根に暗闇の中前進した。取付は小屋のすぐ先であった。

4.10 1370m 西尾根取付。いきなりの急登を膝ラッセルでガンガン行く。今日は深
澤君におんぶにだっこである。たまに先頭を交代するが見るに見かねて深澤君が交代
してくれた。厳しいラッセルは延々と続く。一体いつまで続くのだろう。

6.14 1946m 西尾根地図上1946mピーク。ようやく此処で斜度は緩み平坦な道が続い
たのも束の間尾根は徐々に細く険しくなっていく。右手には雪庇もチラホラ。

8.30 2343m 西尾根地図上2343m。ここから前方に巨大な岩峰が立ちふさがっていた。
どうやってこなそうか。何とか左から回り込めそうである。急峻な谷を左から登り上
げ何とか岩峰の先に出ることができた。岩峰の先には更に3つほど岩峰が立ちはだかっ
ていた。アップダウンもありそうでクラストしたミックス帯は勘弁して欲しい。雪は
安定しており僕たちは一端小鍋谷に下りてトップスピードでトラバースしながら山頂
直下の雪壁に取り付くルートを取ることにした。

10.56 2700m 西尾根から小鍋谷トラバース。二人間隔をおいてトップスピードで危
険地帯を通過して山頂直下雪壁に到着した。ここからスキーを担ぎアイゼン歩行に切
り替えた。ここからも厳しいツボ足ラッセルが待ち受けていた。深澤君は自ら先頭を
かって出てくれた。なんという偉い人だろう。彼もつらかったはずである。何度も立
ち止まりながら大息をついていた。こんな姿を見たことはない。何とか雪壁を登り切
ると山頂が間近に見えた。

12.03 2908m 西穂高山頂着。やったついに到着である。僕たちは山頂で大の字になっ
て寝ころんで固く握手をした。実に9時間を超す厳しい闘いであった。誰もいない山
頂で記念写真を撮り帰りのルートを探った。山頂裏の雪壁から小鍋谷に滑り込むこと
で話は決まった。

12.20 2908m 西穂高山頂発。いよいよ行きますか。山頂直下は岩がたくさん出てい
るのでターンはできず,岩を避けながらの斜滑降しか選択肢はなかった。標高2800m
辺りで岩が無くなった途端僕たちはいつものように宙に舞い続けることができた。雪
は安定しており雪崩の跡は皆無で,表層雪崩も全くでなかった。

小鍋谷は上部は広いカールで最高のゲレンデであった。こんな素晴らしいゲレンデが
あったんだ。二人感動の嵐であった。お互い先頭を譲りながら交互に滑走シーンを写
真に収めた。もうこれでもかというくらいパウダーを満喫することができた。

1.59 2100m 小鍋谷本流を外れる。 このあたりから谷の本流を外れ広い台地上の
斜面に入った。ここにも素晴らしいパウダーが待ちかまえていた。何もしなくて勝手
にスキーがターンしてくれるそんなパウダーであった。

標高1550mの狭い斜面も難なくこなし,また広い緩斜面に出ると穂高平牧場に合流し
すぐ目の前に避難小屋が見えた。

2.51 1350m 穂高平避難小屋着。ここからも林道をカットしながらパウダーを楽し
んだ。

3.09 1100m 新穂高ロープウェイ駐車場着。お疲れ様でした。12時間を超す難行で
したが無事帰還し,二人感動の余韻に浸りながら荒神の湯で汗を流した。

小鍋谷は予想通り最高の斜面でした。春ならこの谷を突き上げジャンクションコルに
出て西穂沢を下る周回コースも楽しめそうです。是非挑戦してみてください。


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