ヒクランギ 1752m

年末年始のハードなニュージーランド(NZL)山行でも最も印象の深かったのがこのヒ
クランギ山である。ヒクランギは標高こそ2000mに満たない山であるが,NZLでも最も
東に位置する名峰である。世界で最も早い日の出が拝める山として注目をあびている
山であり,昔からNZLの原住民マオリ人の聖なる山として崇められている山であった。
ナウルホエ山から下山した僕はそのまま休むこともなく疲れた体にむち打ってNZLの
中央から東に移動した。移動距離約600kmと一日としては最も長い距離の運転だった。
東半島の中心都市ギズボーンが食事のできる最後の街だったのでここでケンタッキー
に入って腹一杯チキンを食べることにした。ここからは車もほとんど走らないような
田舎道で地図をにらめっこしながら,ここから先150kmの登山口のある牧場へと向かっ
た。

国道から牧場に入る脇道が分からず迷ったあげく引き返してようやく牧場のある山奥
にたどり着いた。マイナーな山ゆえ道しるべは登山口まで一切無かった。牧場の入り
口にはゲートがかけられ仕方なく川の畔でテントを張ることにした。時はもう既に
夜10時近く,とっぷり日も暮れていた。車のライトを助けにテントを張った僕はもう
疲れ果てて死んだように眠り込んだ。

翌朝4時前に目を覚ました僕は今日も真っ暗な山道をライトと地図だけを頼りに歩き
始めた。もちろん入山者は誰もおらず登山者は僕一人のようである。ヒクランギの山
頂までは牧場から標高差で1600mほどであったがそれにも増してアプローチは長かっ
た。登山道の下部は牧場の中を延々と片道約15kmも歩く長いものであった。暗闇の中
複雑に入り組んだ牧場の道を地図だけを頼りに右往左往しながら進んだ。時々大きな
牛の群れが行く手を塞ぎ牛の角で刺されないかハラハラした。

牧場を歩いている途中ようやく日の出が始まり僕は世界の誰よりも早く1月2日の日の
出を拝む人になった。真っ赤に染まるヒクランギを見ながらそのギザギザした山容か
ら剣岳を懐かしく思い出して夢中になってシャッターを切り続けた。歩くこと3時間
ようやく牧場の終点に着きここに宿泊施設となっている山小屋があり付近には巨大な
マオリ像が多数立てられていた。初日はここで泊まるのが一般的であるらしいが帰国
を明日に控えた僕にはそんな余裕はなかった。

この山小屋から本格的な山道になった。登山道と言っても踏み跡がかすかにある程度
で時折登山道の脇に目印となる木が刺してあるだけであった。時には藪を分けながら
高見を目指し続けたが8合目付近で急に登山道は消えてしまい,ここから完全に藪を
漕ぐ羽目になった。藪の中にはイバラのたくさん突き出た堅い植物が生えておりこれ
に触れると針で刺されるように激痛が走るためこの植物を避けながらの登りとなり岩
にしがみついたりガラガラの谷を登ったりと困難の果てにようやく山頂(北峰)にた
どり着いた。

この山は双耳峰になっており南峰が数m高く,実は正しい登山道は南峰に付けられて
いてこの北峰へは登山道がないことを後で知った。どおりで厳しいはずであった。山
頂から見る太平洋,NZLの峰峰は素晴らしくこの山が原住民の聖なる山とされている
ことがよく理解できた。山頂で360度の展望を楽しんだ後また駆け足で帰路を急いだ。

林道では何度も振り返ってヒクランギに別れを告げた。この山も一生忘れることので
きない想い出の山となった。

ヒクランギの夜明け

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