山のパートナー

山に雪のある11月から6月の8ヶ月間のシーズン本番は僕は山スキーに没頭している。
この時期の最近のパートナーは山梨県在住の深澤君という僕より10才若いネットで偶
然知りあった友人である。彼はこれまで僕が山で出会った仲間の中でも最強のパート
ナーである。これまで体力的に山で人に負けることはほとんどなかった僕だが彼にだ
けはどうあがいても勝てないと脱帽した。山に対する気力,集中力,体力,スキー技
術はこれまで出会った登山者の中でも最高のレベルに達している。今シーズンも厳冬
期の北アルプスの峰々(五竜岳・西穂高岳・霞沢岳・焼岳・笠が岳・大日岳)などの
日帰り山行を成し遂げることができたが彼の存在無しには成功し得なかった山行ばか
りであった。

一方7月から10月までの雪のないオフシーズンは4男剣(小4)が僕の山のパートナー
となる。剣は小2から山を始めたが,3回目の登山で白山を,5回目の登山で剣岳を日
帰りしたほどの健脚である。昨年の夏も馬場島からの剣岳や新穂高からの笠が岳など
標高差2000mを軽く越えるようなハードな山行を日帰りで楽々こなしてくれた。大人
でも手強いような毛勝山も昨年の秋,共に登頂した。今年で小4だが本気で登らせれ
ば多分僕より山では強い脚力を発揮するだろう。子供は4人いるが上の3人はそれほど
山には興味を示さなかった。しかし剣は山にはかなり関心が強く一人で山の本を読む
ことも多く,一度登った山は必ず覚えており標高や名前もすらすら言ってしまう。好
きこそ者の上手慣れとはこのことかも知れない。

しかしこの健脚が災いし山で僕とはぐれてしまいあわや遭難しかけるというハプニン
グがあった。昨年の夏休み僕と剣は北海道へ山登りの遠征に出かけた。大雪山系に属
する美瑛富士とオプタテシケ山を縦走して日帰りするという大人でもかなりハードな
山行を計画してその日真っ暗な白金温泉を朝3時に出発した。僕はすでにバテバテに
なってようやく稜線に到着し,共に眼下に聳える美瑛富士を目指した。元気な剣はド
ンドン先を行き,僕を置いてきぼりにしてしまう。登山道が分岐するところは絶対立
ち止まるようにいつも念を押していたが,わずか数分の差で遅れた僕は十字路にぶつ
かった。右の進路が美瑛富士へ通じる正しい道であり見晴らしが良くそこには剣の姿
はなかった。わずか数分の差だから正しい道に進んでいれば見える範囲にいるはずで
ある。多分間違えて見通しの悪いまっすぐに進んだのだろうととっさに判断し僕は大
声で剣の名を叫びながらまっすぐを走った。しかし行けども行けども姿は見えず此処
で完全に剣の消息は不明になった。人も通らないような北海道の深い山中で剣とはぐ
れてしまったのだ。

もう一度十字路に引き返し此処で大声を出して剣の名を叫び続けた。するとかすかに
剣の泣き声が美瑛岳の方向から聞こえるではないか。剣は正しい道を一人で進んでい
たのだった。わずか数分の差だったが既に僕の目の届かない高さまで登っていたのだっ
た。僕は泣き声が聞こえる方向に一目散に駆けつけ,お父さんお父さんと泣きじゃくっ
て藪をさまよっていた剣と合流することができた。本当に良かった。それ以来僕も剣
に負けないように健脚にならなければと頑張っているが,年々その差は広がっていく
のではないかと心配している。

毛勝山頂

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