FILE12 ミズバショウ Lysichiton camtschatcense (L.) Schott
 図1 白峰村大嵐谷
図2 白峰村大嵐谷                       図3 白峰村大嵐谷
図4 崖崩れの箇所で、根が露出していた 図5 最初に雌しべが顔を出す
図6 雌しべの下側の雄しべが顔を出す 図7 次いで、雌しべの上側の雄しべが顔を出す
図8 雌しべの左右の雄しべも顔を出し満開となる 図9 雄しべが枯れて、花は終わりを告げる

  私のもっとも好きな植物の一つです。兵庫県以北の日本海側に分布するということで、東北・北海道などでは、田圃のあぜ道の横にも生えていると聞きます。石川県は分布の南限に近いのですが、三蛇山(輪島市)・東原町(金沢市)・大倉岳(小松市)・布橋町(小松市)・丸山町(小松市)・大嵐山(白峰村)・根倉谷(白峰村)・白山釈迦岳等県下の山間地の各所に自生しています。毎年自生地を訪ね歩くのが楽しみです。
 石川県で、人里に近く鑑賞し易いところでは、たいてい地元独自の天然記念物などに指定されて保護されています。もっとも、根が深く伸びていて、これを掘り取ることはほとんど不可能ですから盗掘の心配は少ないのですが、盗掘しようとして根元でちぎられたり、花を摘まれたりしてダメージを受けることは充分考えられます。また、写真を撮るために根元を踏み荒らすのも問題でしょう。

 白い花びらのように見えるものは、苞(ほう)と呼ばれる構造です。仏像の背中にある光背のように見えることから仏炎苞と呼ばれています。FILE3のマムシグサと同様です。

 苞の中央にある棒状の部分に小さな花がたくさん付いています。これを肉穂花序といいます。花は直径4mmほどで、4枚の緑色で肉質の花被があり、それぞれの花被の下から4本の雄しべが出てきます。
 まず、徳利形をした雌しべ(図5)が、花被を押し広げて顔を出します。次に、雌しべの下側の雄しべ(第1雄しべ)が現れ(図6)、ついで上側の雄しべ(第2雄しべ)が現れます(図7)。次に、左か右の雄しべが現れ、最後に残った雄しべが現れて満開となります(図8)。満開になる前に、先に出た雄しべが枯れてしまうこともあります。


図10 果実は緑色に熟する。
図11 完熟すると、果穂がもろくなって崩れ落ちる。

 ミズバショウの果実は、6〜7月にかけて
緑色に熟します。同じサトイモ科のマムシグサが秋に赤く熟するのとは大違いです。かつて、一般向けの参考書で、赤く熟すると書いてあるのを見たことがありますが、まさに空想の産物です。そのように記載されている文献をご覧になりましたら、ご一報下さい。
 7月15日に、白山麓の自生地で果実の取材を行いました。果穂は熟するに伴い長く・太くなります。完熟すると内部がスボンジケーキ状にふわふわになり(適切な表現を思いつきません)、形を保っていることができなくなって、地上へ崩れ落ちます。子房の部分もふわふわしていて、つまむとバラバラに崩れてしまいます。このスボンジケーキ状の構造は、水に会うと溶けるように分解し、種子は流れに乗って分布を広げることができます。

図12 果実。先端の円錐状のものは、雌しべの柱頭。下部は子房。 手に取るとぼろぼろの断片になってしまう。 図13 2個の果実を拡大したもの。それぞれ、子房は2室で、各室に上下に並んで2個の種子がある。
図14 2個の種子は弾力のある薄い膜で包まれている。臍(へそ)はくぼんでいる。種子1個の大きさは、約4mm。 図15 臍(へそ)の反対側は、ドーム状に盛り上がっている。その頂部から発芽するはずである。

 図12は果実をアップしたものですが、とんがり帽子のように見える部分は、雌しべの柱頭です。その下の長方形に見える部分はふわふわのスポンジケーキのようになっており、簡単に崩れてしまいます。そのふわふわしたもの(子房の組織)を取り除くと種子らしいものが左右に現れてきます。それぞれは、2個の種子が縦に連なったものであることが分かります(図13)。2個の種子は、弾力のある薄い膜に包まれています(図14)。すなわち、1個の果実の中には、子房が2室あり、それぞれに種子を2個ずつ含んでいます。
 それぞれの種子は、つぶれた円盤状で、片面が吸盤のような形をしており、こちらは臍(へそ)であり(図14)、反対側はドーム状に盛り上がって(図15)、その頂部から発芽します。


図16 木道上で食べられた果実。右のものは古くて干からびている。 図17 トウモロコシをかじったような形で食べられている。
図18 花柄が折られて食べられている。 図19 地上で食べられている。


図20・図21 種子が散らばったのが、7月半ば、約2週間でここまで育った。図15で予測したように、臍(へそ)の反対側の種皮を破って根と葉が伸びている。細い方が根で、太い方が葉である。(平成13年8月5日)

 さて、ミステリーがあります。保護のために敷かれた木道上に図16のようなミズバショウの果穂が放置されており、その犯人は?ということなのです。
実況検分
1 放置されてから相当の日数を経て干からびた果穂と前日あたりに放置されたらしい新鮮な果穂が見られる。
2 新鮮なものを見ると、トウモロコシをかじった時のようなはみ跡が見られる。
3 HP上の写真でも分かるように、地上で食べられたものや空中で食べられたものもある。
4 食べられているのはいずれも完熟前のものである。

犯人は誰か
1 人間説……見学者がちぎってバラバラにした。 この時期の自生地へは、よほどの物好きでなければ見学にくるとは思えない。しかも何度も。まして、かじるなんて……
2 熊・狸・狐等説 ……熊がザゼンソウやミズバショウを好むと言うことを聞いたことがある。熊にしては、食べ方が上品(?)すぎるようです。四つ足の小動物が、安全のため、見晴らしの良い木道上で食べたのかも知れません。木道上には少なくとも新旧5本の果穂が見られた。
3 猿説……猿が花柄をちぎって、木道上で食い散らかしたと言うのが最も妥当と考えられるが、猿がミズバショウを好むかどうか、また、群で行動する猿にしては食べた数が少ない。
 最新の情報では、このあたりに猿は出没しないとのことです。

みなさんも、謎解きをしてみませんか。


 毎年、この場所の見学をしているのですが、その後も継続的に見ることができました。林業試験場の熊に詳しい方に間接的にお聞きしたところでは、犯人は「熊」だろうとのことです。熊は意外と器用で、そういう食べ方をするらしいです。

花模様