FILE55  テイカカズラ
図1 スギの木によじ登って咲いたテイカズラ(平成12年6月11日)
図2 花序 図3 花の側面観
図4 花 図5 若い葉(裏面)
図6 未熟の果実(平成12年8月12日) 果実は長さ20cm近くの長い袋果で、普通2個ずつ対をなしているのが面白い。 図7 熟して裂開した果実(平成12年12月16日)
図8 裂開した果実から種子が現れたところ  図9 種子 スケールはmm
図10 毛の生え際 図11 毛の顕微鏡写真 図12 毛の断面(管になっている)
図13 毛の断面(多角形のものが多い)。逆光撮影のため暗く写っている。 図14 倍率100倍で観察すると、縮毛であることが分かる。(要するに天然パーマ)。単位は10μm。
図15 赤インクを吸わせて管状構造であることが確認できた。 図16 毛壁に道管状の肥厚が見えることがある。単位は10μm。

 テイカカズラという名は、謡曲の「定家」に由来すると言われています。
 平安時代の終わり頃、後白河法皇の第三皇女式子内親王は、幼くして賀茂斎院となり、十年にわたって神社に奉仕していたが、病のために退いた。この頃、歌人として有名な藤原定家が皇女を慕っていたが、皇女は独身を守って49歳で病気のため亡くなった。それでもなお、皇女を慕った定家は蔦葛(つたかずら)となって、皇女の墓石にまつわりついた。皇女の霊が、自分の墓に蔦葛がまつわりつく苦しみを、旅の僧に訴えるというものだそうです。そこから「つた」のことを定家葛と言うようになったというものです。(参考:万葉植物事典 北隆館、週刊朝日百科 植物の世界 85 朝日新聞社
 別名、マサキノカズラともいい、古今和歌集に「み山にはあられふるらしと山なるまさきのかずら色づきにけり」と詠われているとのことです。

 キョウチクトウ科の蔓性木本で、付着根を出しながら、他の樹木や岩にはい上がって成長します。図1のテイカカズラは、道路脇の杉の木を覆い尽くしていました。本州(中・南部)、四国、九州に分布し、石川県内でも全県下至る所の山野に生育しています。若い内は地を這うことが多く、そのような株では花を見たことがありません。6月、枝先や上部の葉腋に花を付けます。花冠は筒状で、上部が5裂し、裂片がスクリューのようにねじれています。とても甘くふくよかな芳香を発する花です。図3で分かるように、花の筒の部分が大変長いので、それに合わせた長い口吻(こうふん)をもったスズメガが、この植物の香りにひかれて花蜜を吸いに来て、花粉の媒介を行うので、ガ(蛾)媒花といわれています。

 図5は、若い葉の裏面ですが、このように独特の葉脈をしているので、山野で見かけたときにも識別は容易です。

 テイカカズラの種子が熟すのに時間がかかるとは聞いていましたが、開花が6月11日で、その後何度も観察しましたが、なかなか熟さず、なんと半年後の12月16日にやっと熟しました。この日はちょうど、種子を散らせているところでした。種子は大型で重いので、数百本の毛にも係わらず、かなりの急角度で滑るように落ちで行きました。
 種子の重さを測定してみました。入手できた16個の種子の平均値です。 種子本体:36mg、毛:4mg でした。ウバユリの種子1000個での平均値2.8mgと比べて、やはり相当重いものでした。 
 毛を顕微鏡(60倍の実体顕微鏡)で観察してみますと、どうも管状のように思えました(図11)。確かめるべく、毛をちぎっては断面を見ていましたら、ついに管になっている決定的な写真の撮影に成功しました(図12)。顕微鏡ではもっと鮮明に見えるのですが、デジカメの解像度不足のため、この程度の写真でお許し下さい。
種子が大型で重いぶん、毛を管にして浮力を稼いでいるのでしょう。テイカカズラもなかなか健気なやつです。

 毛をさらに倍率を上げて観察したところ、壁の厚みが所々で変化しており、縮毛構造であることが分かった。パラシュートのようにふんわりしているのは、天然パーマのせいであったようだ。ときどき、導管のような模様になって肥厚している部分も観察された。この構造も縮毛構造に深く関わっているようだ。
 スケールは接眼ミクロメーターの影で、この倍率(100倍での観察)では、1目盛りが10μmです。1μmは、1000分の1mmのことです。
 

図16 テイカカズラの虫えい(テイカカズラミサキフクレフシ 図17 虫えいの住人(テイカカズラミタマバエの幼虫)

 平成13年の10月、あるテイカカズラの自生地へ行ったところ、通常の果実もありましたが、虫えいの付いているものが非常に沢山ありました。本来は2個の果実がV字形に開くのに、先端でくっついたまま離れず、しかも丸まっていました。カミソリを使って切り開いたところ、テイカカズラミタマバエ(Asteralobia sp.)の幼虫が入っていました。


花模様