ヘビイチゴとはちょっと怖い名ですね。名前を聞いただけで、気持ちが悪くなる人もいるかも知れません。いかにも蛇が潜んでいそうな、田圃や藪陰に長々とつる(匐枝:ふくし)を伸ばしています。花の後では、いわゆるイチゴができますが、なんだか毒々しいですね。蛇と付いているだけで、毒草だと思いこんでいる人もいるようですが、そんなことはありません。食べることはできます。でも、ふわふわしていて、味が無くてまずくて2個と食べることはできません。こんなものは蛇にでも食わせておけばいい、と言ったあたりが語源かも知れません。  
       ヘビイチゴ類の花の萼(がく)は、内外の2列になっています。外側の萼片(副萼片)の方が大きく、先端に鋸歯のような歯があり、葉のような形をしています。この萼の構造が、ヘビイチゴ属を識別する決め手になります。 ヘビイチゴ属の植物は、ヤブヘビイチゴとヘビイチゴの2種しかありませんが、この両者はとてもよく似ています。 
       
      わかりやすい相違点は次のようなことです。 
       
      
      
        
          
            | ヤブヘビイチゴ | 
            ヘビイチゴ | 
           
          
            熟した偽果は径13〜20mm、色が濃く、光沢がある。 
            
            果実(そう果)にはしわが無く、光沢がある。 | 
            熟した偽果は径10mm、色が淡く、光沢がない。   
            果実にはしわがあり、光沢はない。 | 
           
        
       
       
       図1からも明らかなようにヤブヘビイチゴの方が大型です。しかし「大きい」とか「小さい」とかいう比較級での区別は両者を並べて観察した場合のことであって、どちらか単独ではあまり決め手にはなりません。 
       ただし、上記の果実の違いは決定的ですから、果実を観察できれば間違うことがありません。では、葉だけしか分からないときにはどうしましょうか? 
       
       
      そう果:ヘビイチゴの花は、多数の雄しべと多数の雌しべでできています。1個の雌しべが1個の果実となるので、1つの花には、多数の果実ができることになります。それぞれの果実は果皮が乾燥しているので、痩果(そう果:痩せた果実、タンポポなどもそう果です)と呼ばれます。 
       早い話が、種子のように見えるつぶつぶが果実(そう果)であり、したがって果実のように見えるものは、「果実のようで果実でない」。すなわち、多数の雌しべをくっつけている部分を花床(かしょう)といいますが、この花床が大きく発達して果実のようになっているのです。そこで偽果(偽の果実)ということになります。皆さんの大好きなオランダイチゴも同じ構造です。私たちが喜んで食べている部分が花床です。 
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