FILE72  コバギボウシ Hosta albo-marginata (Hook.) Ohwi
図1 コバギボウシの大群落
図2 花序(花は1日花で、古い花はうなだれている) 図3 花(花被内面の濃い紫色のすじが特徴)。葯と柱頭が離れているのは、自花受粉を避けるため。
図4 若い果実 図5 葉の表面(葉脈のくぼんでいるのが特徴) 図6 株の全体。葉の出方が分かる。
図7 蕾の断面(雌しべが長い) 図8 花が終わった後も、雌しべの柱頭は外にある
図9 透明線(花の内側から見る) 図10 透明線(花の外側から見る)
図11 透明線の目立つ個体

  コバギボウシは石川県では、県下全域の湿地で見られます。9月頃になると懐かしく思い出される花です。
 昔から有名な湿地を訪ねました。この湿地には、石川県では割と少ないミズゴケも産します。ノハナショウブ、サワギキョウやオオニガナもある楽しい湿地です。サギソウもあったはずですが、いまでは見ることはできません。湿地が段々になっているところを見ると、昔はたんぼを作っていたのではないかと思われます。
 訪れてみると、激しい踏み後がありました。大勢入ったのかなと思って後ろを見ると、私の後ろもひどい踏みつけになっていました。湿地は植物がびっしりと生えているために、わずか一人が通っても、ひどく痛めつけられてしまいます。反省の気持ちはありましたが、つい歩き回って撮影してしまいました。
 コバギボウシは沢山あるにはあるのですが、オモダカやオオニガナ、シロネなどと混生していて大群落という状態を撮影するのが困難でしたので、段々を順番に巡っていったところ、ついに大群落に出会いました。幸いここには、誰の踏み後もありませんでした。そうっと縁の方を回って撮影したのが図1です。
 
 石川県で見られるギボウシは、オオバギボウシとコバギボウシだけです。どちらも変異の幅が広いのですが、オオバギボウシは葉が大きく幅広です。花は、8月中旬にはオオバギボウシからコバギボウシに交代します。
 似た種として、石川県には分布しないミズギボウシというものがありますが、葉の幅が2cm内外と細く、花数が少なく、葉脈がほとんど凹まないということで区別できそうです。(図5:コバギボウシの葉の表面)

 コバギボウシは他花受粉の花です。図7のように、蕾の時から雌しべの方が長く、図2・図3のように、開花しても雄しべと雌しべは離れています。花が終わった後も、ツユクサのように雌しべが巻き込むことはなく、花の外に残ったままです(図8)。

 
透明線:いろいろ調べていましたら、ギボウシ属の花被の合着部は少し凹み、無色透明の線(透明線)となっているという記載に出会いました。開いた花の内側から見ると一目瞭然(図9)ですが、外側からでも分かります(図10)。多くの蕾では不明瞭なのですが、中には、蕾の段階から明瞭な個体もあります(図11)。
 

 9月号の表紙で、「1日花である。」と言明した後で、私の愛読しているある参考図書を見たところ、「花は3日の命で、3日目にはしぼむ」ということを明記してありました。私のフライイングかと一瞬焦りましたが、どうも日頃の観察結果と合わない気がいたしましたので、撮影して確認したところ、やはり1日花でした。
(下の図は、同じ花序を3日間にわたり撮影したもので、図中の文字は、開花日です。)
図12 9月7日 7時16分 図13 9月8日 10時55分 図14 9月9日 7時3分
当日の花は、それぞれ横向きに咲いているが、前日の花は、すでに下を向いてしおれている。
9月6日の花から、白い糸のようなものが垂れているのは、目印の木綿糸である。
図15 9月7日 0時9分
深夜、蕾がほころびて、雌しべが顔を出す。
左端の6日に開花した花には、目印の木綿糸が巻き付けてある。
 懐中電灯を頼りに撮影。


図16 9月7日 0時49分
この時間帯では、葯はまだ開いていないので、柱頭に花粉は付いていない。

図17 9月7日 7時16分
目覚めて、柱頭を見ると、もう花粉がビッシリ付いている。
図18 9月8日 1時25分
子房の上端付近の溝の部分から、蜜が分泌され始めている。

図19 9月8日 3時32分
蜜の量が増えている。
ただし、図18とは別の花である。
花は、深夜から夜明けにかけて開く。
 観察の結果、午後8時過ぎ頃から蕾の先端が少しほころびかけ、深夜にははっきりと開き、雌しべの柱頭が花被から顔を出します(図15)。この頃は、まだ花粉が出ていないので、柱頭は白いままです(図16)。花を解剖してみますと、子房の上端部から蜜の分泌が始まっています(図18)。
 一眠りして、早朝、花を見ると、すでに完全に開花しており、雌しべの柱頭が花粉で黄色くなっているのが、肉眼でも分かります(図17)。
 自花受粉が絶対にできない構造なのに、早朝、ほとんどの花で、受粉が終わってしまっていました。

一体、いつの間に、誰が????
 次の日、ほとんど徹夜の状態で観察していますと、6時25分頃、羽音高く1匹の蜂が飛んできました。ずんぐりとした小型の蜂で、おそらく花粉媒介者の「マルハナバチ」なのでしょう。花の中にすっぽりと入り込んで、蜜を吸っていますが、何しろ短気な蜂で、すぐに出てきて、次の花へ移っていきます。デジカメは、こういうすばしっこい連中の撮影には全くお手上げで、画像としては1駒も撮れませんでした。

 蜂の撮影はできませんでしたが、いろんな収穫のあった3日間でした。一応満足。

花模様