長く辛かった冬が終わる

あいつと出会った冬

あいつと結ばれた冬

そして、悲しい別れ………

色々な事があった。

 

それでも、あいつは帰って来てくれた。

この家に

そして、俺のもとに………

 

 

 

 

 

『幸せの時…』

− 1 −

 

 

 

 

 

「それじゃ、真琴。 行ってくるぜ」

「行ってくるね、真琴ちゃん」

いつもの登校風景。

「うん…いってらっしゃ〜い」

真琴は手を振って見送ってくれた。

俺達が見えなくなるまで、ずっと…ずっと……

 

一つ目の角を曲がり、真琴から俺達の姿が見えなくなると名雪が静かに口をひらく。

「ねえ祐一………気付いてる? 真琴ちゃんの事」

「あぁ、あんな顔されたらな……」

真琴はいつも、笑顔で見送ってくれる。

………無理して作った笑顔。

だけど見送る姿からは、いつも寂しさが滲み出ている。

あいつは結構意地っ張りだから、自分からは寂しいなんて絶対言わないだろうし……。

「なんとか、しなくちゃなぁ………」

俺はこの時、既にある事を考え始めていた。

 

 

********************************************

 

 

日曜の朝。

俺は、頃合を見計らって切り出した……。

「真琴………お前学校へ行ってみないか?」

「えっ!? 学校?」

「あぁ……いつも家で留守番してても暇だろ?」

俺は出来るだけ穏やかに話した。

「あぅ〜、ヤダよぅ〜っ」

途端に嫌そうな顔をされるが、俺はひるまず続けた。

「学校に行くと、たくさん友達が出来るぞ」

「………友達?」

真琴は、『友達』という言葉に反応する。

「………祐一………それ本当?」

興味が出てきたのか、上目づかいで伺う様に聞いてくる。

「あぁ、本当だぜ。  そうだよな? 名雪…」

隣でくつろいでいる名雪に同意を求めた。

「うん、本当だよ。  真琴ちゃん可愛いから……すぐに友達出来ると思うよ」

名雪の言葉に、真琴はパッと嬉しそうに顔を綻ばせる。

が、次の瞬間我にかえり、急に沈み込んだ。

「あぅ〜………でも…真琴、本当の人間じゃないし………」

「そんな事、関係ないだろ!」

「あぅ……でも…」

「人間だろうが妖狐だろうが、真琴は真琴……だろ?」

真琴は、じぃーっと俺の顔を見詰める。

「いいの?」

不安げな眼差し。

「……真琴……本当に学校へ行ってもいいの?」

「いいに、決まってるだろ」

ポンッ、と頭をひと撫でし俺は言った。

「そうすれば、毎日一緒に学校に通えるしな」

途端に真琴の顔に、満面の笑みが浮かぶ。

「うん、真琴学校に行く〜。 そうすれば、いつも祐一と一緒だね♪」

「あぁ……そうだな…」

 

真琴は、学校へ行く気になってくれた。

これで、真琴に寂しい思いをさせずに済むだろう……。

それに真琴に友達が出来るというのは良い事だしな。

そんな事を考えていると、不意に名雪が話し掛けてきた。

「ねぇ祐一……私、思ったんだけど……。 真琴ちゃんって戸籍とか無いよね?」

「………戸籍?」

「うん。 転入の手続きとかってどうなるんだろね?」

「うっ……」

………そ、そこまでは考えてなかったぜ。

「祐一………真琴学校には行けないの?」

真琴が不安気な視線を向けてくる。

う〜ん、どうしよう。

戸籍って、どうすれば貰えるんだ?

「……………………………」

ダメだ……思いつかないぜ……。

やっぱりこう言う事は、大人の秋子さんに聞いてみるのが1番かもな……。

俺はダメもと覚悟で、秋子さんに聞いて見る事にした。

「あの……秋子さん? 真琴の戸籍ってどうにかなりませんか?」

「ふふふ……大丈夫ですよ♪ その事については、もう手を打ってありますから……」

「えっ、手を打ったって…………どうやったんですか?」

戸籍なんて簡単にどうこうなるもんじゃないと思うが……。

「実は、ちょっと知り合いに頼んでね…………”偽造” してもらいましたから♪」

普段と変わらぬ穏やかな笑みを浮かべたまま、秋子さんはとんでも無い事をサラッと告げる。

「ぎ、偽造!? 一体どうやって?」

「それは………ひ・み・つ……ですよ、祐一さん♪」

秋子さんは、口元に人差し指を当てて、楽しそうに微笑む。

(…………あ、秋子さんって一体……

 

あっけにとられて黙り込んだ俺に代わって、秋子さんが真琴に話し掛ける。

「……と言う訳で、真琴はこれから、正式に私の娘と言う事になるわよ。 名雪はお姉ちゃんになるわね♪」

「へへっ、お姉ちゃんか………何だか恥ずかしいな♪」

秋子さんも名雪も、当然の様にすんなりと真琴を受け入れた。

だが真琴は、急な展開に戸惑っているようだ……。

「あぅ……いいの? 真琴なんかが家族になっても……」

「真琴ちゃんは、もうとっくに家族だよ」

「そうよ、私もずっと前からそう思ってたわ」

二人は真琴の不安を包み込むように、優しく微笑みかける。

「でも……でも………」

尚も不安げな真琴。

「それに、真琴は祐一さんのお嫁さんでもあるんだから、もう家族以外の何者でもないわ」

「あ、あぅ〜……」

真琴は、『どうしたら言いの』と言う眼差しを俺に向ける。

俺は、真琴の頭に手を乗せて言った。

「よかったな、真琴。 お母さんとお姉ちゃんが出来たんだぞ。……それに素敵な旦那様もだ」

「…………………………………」

真琴はどうしていいのかわからずに、秋子さんを見詰め……。

「あぅ〜………お、お母さん?」

「なぁに……真琴?」

名雪を見詰め……。

「お、お姉ちゃん?」

「なに? 真琴ちゃん」

二人共、優しい眼差しで真琴を見守っている。

真琴の顔に、パッと笑顔が浮かんだ。

「お母さん、お姉ちゃん、祐一。 へへっ、真琴の……真琴の家族なんだね♪」

真琴がこの家に帰って来てからの、一番の笑顔。

そんな真琴を見て俺は思った。

 

 

秋子さんがいて

名雪がいて

そして、みんなの中で笑ってる真琴がいる。

 

これこそが、俺が望んだ光景そのものだったと………。

 

 

 

 

 

 

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『あとがき』

ついにKanonのSSに手を出してしまいました。(^_^)

発売後は、ネット上どこにいってもKanonの話題で一杯だったので、洗脳される様に

いつのまにか買っていました。(笑)

確かに話題になるのがわかるぐらい良いゲームでしたね。

しかし、全体的に見て、最後にはハッピーエンドになっている(?)シナリオでも

その前に、1度は、不幸な展開になって、気持ちをどん底まで落としている為、

最後を迎えて、よかったね、と思いつつも、暗い気持ちが心に残ってしまいました。

でも、そうする事でPlayerの心に残るシナリオになっているとも思えるので、後は、

SSの方で、幸せにしちゃおう(笑)、と思い真琴SS書いて見ました。

所々、私の思い込みや願望が入り混じっていますがご容赦下さい。(致命的な所があったらご指摘下さいね)

全体のテーマとして、とにかく真琴を幸せに、と思って書いていくつもりですので

よかったら、ぜひ、ご意見・ご感想をお願いしますね♪

 

 

99/07/17(土) 改稿

お話の冒頭部分をちょっと追加しました。

後、一部文章を変更しました。(ほんのチョットですが)

祐一が真琴に、学校へ行くよう薦めた背景を描写して見ましたがどうでしょう?

 

99/09/06(月) 加筆・修正

00/04/16(日) 加筆・修正

         久しぶりに読み返すと、文章がかなり変ですね(汗)まあ、KanonSSの1発目だから……( ̄▽  ̄;;

         と、言う訳で色々修正して見ました♪

         でも、半年もすれば又、変に見えるんだろうな……