『千鶴さんの休日』
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鶴来屋会長室 ― 夕刻 ―
「会長、この書類で最後です」
そう言って、足立さんがファイルケースを持ってきた。
「ありがとう、そこに置いといて下さいね」
「連休もやっとおわったねぇ」
先日までゴールデンウィークだった為、鶴来屋は大忙しでろくに家にも帰れないほどだった。
「えぇ、何とか今年ものりきることができました。 本当にごくろうさまでした、足立さん」
お互い会長と社長と言う立場の為、他の従業員と比較にならない程実務に追われていた。
「ちーちゃんもがんばったからね、たしか明日から休みにはいるんだったね」
「えぇ、すいませんが休み間の事はお願いします」
会長と社長が2人ともいなくなるわけにはいかないので足立さんとは、交代で休みを取る
事になっていた。
「まかせてくれていいよ、で、どこかに行くのかい?」
「特に決まってないんですょ、妹達はもう学校が始まってますし、耕一さんはもう帰られ
ましたから」
そう、GWの間は、耕一さんが遊びに来ていたがほとんど逢う事が出来なかった。
「耕一くんか・・・来年あたりそろそろ就職活動だね、鶴来屋に来てくれるんだろうか?」
足立さんは、耕一さんに、ゆくゆくは鶴来屋の経営に参加してもらいたいと思っている。
「どうでしょう?私としては、来てもらいたいんだけど・・・・・あぁ そう言えば連休明け
から教育実習だとか言ってましたよ」
「まさか、耕一くん、教師になりたいんじゃ?」
「違うみたいでしたよ、『先生なんてがらじゃないから気が重いよ』なんて言ってましたから」
「そうですか・・・」
でも・・・耕一さんが先生か、一度みてみたいなぁ・・・
そうだ!!
お休みに、耕一さんの所に行こうかな。
なれない教師なんてやって疲れてるだろうからせめて、お食事ぐらい作って元気づけて
あげなくちゃね。
耕一さんはきっとよろこんで、
『千鶴さんおいしいよ』
『もういつお嫁さんにいっても大丈夫だね』
とか言って、
『俺、毎日千鶴さんの手料理がたべたいなぁ』
なぁーんていってくれたりして、
ふふっ
ふふふふふふふふふふふっ
ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ・・・・・・・
「ちーちゃん・・・・・・・」
足立さんが悲しそうなあきらめたような顔をしている。
その頃、耕一は、
びくっ!
「何だ!いまの悪寒は??? 何か悪い予感がするなぁ」