※ いらっしゃいませ☆
※ お客様、お一人様ですか?
※ それではこちら、9番テーブルの席へどうぞ〜。

 

 

 

 

パタパタパタ

店内を忙しげに駆け回る長髪の女性。

(カラン〜♪)

入口の鐘が鳴る。

その女性。イレインは音に振りかえると、にっこりと微笑み、とびっきりの営業スマイルを浮かべた。

 

「いらっしゃいませー。翠屋へようこそ♪」

 

 

 

                           とらハ3SS 

『イレインと翠屋』  
              By た〜な

 

 

 

 

 

「店長ーっ、シュークリーム15個お持ち帰りでーす」

「了解♪」

「チーフ、そろそろランチ終わりますけど、メニュー回収しますか?」

「あっ、お願いねー」

「はーい」

翠屋店内にイレインの元気な声が響き渡った。

 

 

カウンターにて、そんなイレインの仕事振りを見詰める視線が3つ。

「………」

「………」

「………」

3人は互いに顔を見合わせると、その内の1人が静かに口を開いた。

「ねぇ桃子〜。イレイン、よく働くね♪」

嬉しそうに話すのは、この店のチーフウェイトレスのフィアッセだ。

「うん。本当に助かるわぁ」

そして大きく頷き返すのが、この店の店長兼菓子職人のかーさん。

「紹介してくれた忍ちゃんに感謝しなくちゃね」

「うんうん」

 

「………………」

(この二人は素直に喜んでくれてるようだが――――俺としてはとても心配なのだ)

心配――と言っても、イレインの働き振りに不備はない。

常々『自分は高機能だ』と息巻いていたのも頷ける仕事っぷりだし、

今の処、特に失敗らしい失敗もしてはいない。

おまけに、フィアッセが言うには密かに固定客(ファン)まで存在しているようなのだ。

 

「………………………………………ま、イレインも成長したと言う事なんだろうな」

 

俺はそう無理やり自分を納得させると、心に一抹の不安を残しながらも自分の持ち場に戻っていった。

 

 

 

 

************************************************************************************************

 

 

ー イレイン’s View −   

 

「えーと。次は6番テーブル、6番テーブル……(きょろきょろ)……ん、あれね」

目標を視認すると、あたしはテーブルに向かう。

 

テーブルには餌待ち顔な人間が1人。

あたしは早速、偽善チックに溢れる詐欺紛いの笑顔を作ると小さく息を吸う。

「お待たせしましたーっ。翠屋シュークリームとアイスティーになりまーす☆」

にっこり笑顔。

微妙に伸ばした語尾が可愛らしさを20%程UPさせている。

(ふっ、完璧ね)

あたしは笑顔を保ちつつ反応を待つ。

 

「……………………………」

 

(ん?)

どうも反応が薄い。

あたしはもう一度繰り返した。

 

「えと……翠屋シュークリームとアイスティーになりまーす☆」

 

が、客の反応はやはり薄い。

(むかっ!)

訝しげに客の視線を辿って見る。

視線の先。それは、何故かあたしではなく右手に注がれていた。

(手フェチ?)

首を傾げそんな事を思っていると、ようやく客が口を開く。

 

「あの、頼んだのはブレンドとアップルパイなんですが……」

 

どうやら、あたしではなく手に持った注文の品を見ていたようだ。

しかもこの客。わざわざ、このあたしが持ってきてあげた品に、ケチをつけてるようだ。

(自分の立場って言うものが分かっていないようね)

あたしは素早く辺りを見まわし、チーフと店長の注意がこちらに向いていないのを確認すると、

威嚇を込めて睨みつける。

(じろっ)

「ひっ!」

怯える客に、更に身を乗り出して威圧。

「お前は”この”あたしが間違えたって言いたいわけっ!」

「い、いえ、そう言う訳じゃ」

怯んだ客に、止めとばかりにびしっと言い放つ。

「対してかわんないんだから、我慢するっ!」

「は、はい」

ばんっ!!っと、テーブルの上に翠屋シュークリームとアイスティーを置くと、あたしは颯爽と立ち去る。

 

「…………………」

 

呆然とした客の視線が、あたしの背中にそそがれる。

(まったく失礼しちゃうわよね、このあたしが注文を間違えるなんて初歩的ミス…するわけ……ん?)

ふと心によぎる不安。

何気に、控えの伝票に視線を落とす。

そこには……。

 

『9番テーブル。翠屋シュークリーム1 アイスティー1』

 

「…………………9ばんてーぶる」

言葉に出して呟く。

そして、先程のテーブルを振り返る。

「あれは、6ばんてーぶる」

額に一筋の汗が。

 

「…………………こ、こういう時は……」

あたしは素早く今後の行動をシュミレートしてみる。

 

 ***************
     @あやまる
  
× A戦略的撤退
  △ B見なかった事にする
  ◎ C誤魔化す
  ○ D翠屋消滅
 ***************

 

「…………………………………さて」

 

(きょろきょろ)

店内を見まわす。

と、丁度チーフが目的のブツを手にしようとしている処だった。

 

(だっしゅ〜っ!)すたたたたたたたっ

 

「チーフぅ〜」

遠間から声を掛けつつ猛ダッシュで駆け寄る。

「ん?何?」

「はぁはぁ……そ、それ、6番テーブルの注文ですか?」

息を整えつつチーフが持っているトレイを指差す。

チーフは一瞬トレイを見て確認すると顔を上げ訝しげに頷く。

「う、うん。そーだけど」

少し怪訝そうな表情を浮かべられるが気にしてはいられない。

「あ、あたしが持っていきますね♪」

「えっ、でも」

「いいから、いいから、あたしに任せてください」

ドンと胸を叩き、訝しげな表情を浮かべるチーフから強引にトレイを奪い取ると、

あたしはフロアーに向け歩き始めた。

 

そう、証拠を隠滅する為に……。

 

「ふふふっ……」

 

 

 

9番テーブル

「お待たせしましたーっ。ブレンドとアップルパイになりまーす☆」

 

  おしまい

 

 


 あとがき

ここまで読んで下さったみなさん。

ありがとうございます。

…………………………さて、イレインの性格が滅茶苦茶ですね( ̄▽  ̄;

が、それは気にしてはいけません。いけないのです(ぐっ

あたしの中では、こういうイレインもありなのです。

こんなイレインもありかなぁーと思えるあなた!!

ご一緒に『イレインとひなたぼっこ』も如何ですか?(笑) こちらはなんと、挿絵付きなのです☆

 

 

当初この物語。結構な長編だったのですが、まとめきれなくて(汗)ボツにしてました。

でももったいないのでw 1シーンを引っ張ってきて、イレインの翠屋バイト物語……として

新たに生まれ変わらせました。

世の中に数少ないイレインSS。 何か、少しでも心に感じるものがあれば、感想など下さいませ。

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2003年5月4日(日曜日)