※ いらっしゃいませ☆
※ お客様、お一人様ですか?
※ それではこちら、9番テーブルの席へどうぞ〜。
パタパタパタ
店内を忙しげに駆け回る長髪の女性。
(カラン〜♪)
入口の鐘が鳴る。
その女性。イレインは音に振りかえると、にっこりと微笑み、とびっきりの営業スマイルを浮かべた。
「いらっしゃいませー。翠屋へようこそ♪」
とらハ3SS
『イレインと翠屋』
By た〜な
「店長ーっ、シュークリーム15個お持ち帰りでーす」
「了解♪」
「チーフ、そろそろランチ終わりますけど、メニュー回収しますか?」
「あっ、お願いねー」
「はーい」
翠屋店内にイレインの元気な声が響き渡った。
カウンターにて、そんなイレインの仕事振りを見詰める視線が3つ。
「………」
「………」
「………」
3人は互いに顔を見合わせると、その内の1人が静かに口を開いた。
「ねぇ桃子〜。イレイン、よく働くね♪」
嬉しそうに話すのは、この店のチーフウェイトレスのフィアッセだ。
「うん。本当に助かるわぁ」
そして大きく頷き返すのが、この店の店長兼菓子職人のかーさん。
「紹介してくれた忍ちゃんに感謝しなくちゃね」
「うんうん」
「………………」
(この二人は素直に喜んでくれてるようだが――――俺としてはとても心配なのだ)
心配――と言っても、イレインの働き振りに不備はない。
常々『自分は高機能だ』と息巻いていたのも頷ける仕事っぷりだし、
今の処、特に失敗らしい失敗もしてはいない。
おまけに、フィアッセが言うには密かに固定客(ファン)まで存在しているようなのだ。
「………………………………………ま、イレインも成長したと言う事なんだろうな」
俺はそう無理やり自分を納得させると、心に一抹の不安を残しながらも自分の持ち場に戻っていった。
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ー イレイン’s View −
「えーと。次は6番テーブル、6番テーブル……(きょろきょろ)……ん、あれね」
目標を視認すると、あたしはテーブルに向かう。
テーブルには餌待ち顔な人間が1人。
あたしは早速、偽善チックに溢れる詐欺紛いの笑顔を作ると小さく息を吸う。
「お待たせしましたーっ。翠屋シュークリームとアイスティーになりまーす☆」
にっこり笑顔。
微妙に伸ばした語尾が可愛らしさを20%程UPさせている。
(ふっ、完璧ね)
あたしは笑顔を保ちつつ反応を待つ。
「……………………………」
(ん?)
どうも反応が薄い。
あたしはもう一度繰り返した。
「えと……翠屋シュークリームとアイスティーになりまーす☆」
が、客の反応はやはり薄い。
(むかっ!)
訝しげに客の視線を辿って見る。
視線の先。それは、何故かあたしではなく右手に注がれていた。
(手フェチ?)
首を傾げそんな事を思っていると、ようやく客が口を開く。
「あの、頼んだのはブレンドとアップルパイなんですが……」
どうやら、あたしではなく手に持った注文の品を見ていたようだ。
しかもこの客。わざわざ、このあたしが持ってきてあげた品に、ケチをつけてるようだ。
(自分の立場って言うものが分かっていないようね)
あたしは素早く辺りを見まわし、チーフと店長の注意がこちらに向いていないのを確認すると、
威嚇を込めて睨みつける。
(じろっ)
「ひっ!」
怯える客に、更に身を乗り出して威圧。
「お前は”この”あたしが間違えたって言いたいわけっ!」
「い、いえ、そう言う訳じゃ」
怯んだ客に、止めとばかりにびしっと言い放つ。
「対してかわんないんだから、我慢するっ!」
「は、はい」
ばんっ!!っと、テーブルの上に翠屋シュークリームとアイスティーを置くと、あたしは颯爽と立ち去る。
「…………………」
呆然とした客の視線が、あたしの背中にそそがれる。
(まったく失礼しちゃうわよね、このあたしが注文を間違えるなんて初歩的ミス…するわけ……ん?)
ふと心によぎる不安。
何気に、控えの伝票に視線を落とす。
そこには……。
『9番テーブル。翠屋シュークリーム1 アイスティー1』
「…………………9ばんてーぶる」
言葉に出して呟く。
そして、先程のテーブルを振り返る。
「あれは、6ばんてーぶる」
額に一筋の汗が。
「…………………こ、こういう時は……」
あたしは素早く今後の行動をシュミレートしてみる。
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@あやまる
× A戦略的撤退
△ B見なかった事にする
◎ C誤魔化す
○ D翠屋消滅
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「…………………………………さて」
(きょろきょろ)
店内を見まわす。
と、丁度チーフが目的のブツを手にしようとしている処だった。
(だっしゅ〜っ!)すたたたたたたたっ
「チーフぅ〜」
遠間から声を掛けつつ猛ダッシュで駆け寄る。
「ん?何?」
「はぁはぁ……そ、それ、6番テーブルの注文ですか?」
息を整えつつチーフが持っているトレイを指差す。
チーフは一瞬トレイを見て確認すると顔を上げ訝しげに頷く。
「う、うん。そーだけど」
少し怪訝そうな表情を浮かべられるが気にしてはいられない。
「あ、あたしが持っていきますね♪」
「えっ、でも」
「いいから、いいから、あたしに任せてください」
ドンと胸を叩き、訝しげな表情を浮かべるチーフから強引にトレイを奪い取ると、
あたしはフロアーに向け歩き始めた。
そう、証拠を隠滅する為に……。
「ふふふっ……」
9番テーブル
「お待たせしましたーっ。ブレンドとアップルパイになりまーす☆」
おしまい
あとがき
ここまで読んで下さったみなさん。
ありがとうございます。
…………………………さて、イレインの性格が滅茶苦茶ですね( ̄▽  ̄;
が、それは気にしてはいけません。いけないのです(ぐっ
あたしの中では、こういうイレインもありなのです。
こんなイレインもありかなぁーと思えるあなた!!
ご一緒に『イレインとひなたぼっこ』も如何ですか?(笑) こちらはなんと、挿絵付きなのです☆
当初この物語。結構な長編だったのですが、まとめきれなくて(汗)ボツにしてました。
でももったいないのでw 1シーンを引っ張ってきて、イレインの翠屋バイト物語……として
新たに生まれ変わらせました。
世の中に数少ないイレインSS。 何か、少しでも心に感じるものがあれば、感想など下さいませ。
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2003年5月4日(日曜日)