葵ちゃんアフターストーリ』   

 

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2人はすぐには動かず、互いに距離をとって見合っている。

拳も蹴りも届かない、そんな距離を保ちつつ、じりじりと円を描くように移動する。

葵ちゃんは相手を眼で見据え、距離を計りながら間合をいっきにつめた、

「はぁっ!」

気合の声と共に右の蹴りを叩き込む。

しかし綾香は軽くバックステップを踏み葵ちゃんの蹴りをかわした。

葵ちゃんはさらに間合をつめ、拳を連打、連打、連打! そして得意のまわし蹴り!!

しかし、その事如くがガードされた。

葵ちゃんは1度引く、その動きに合わせて今度は綾香が間合をつめた。

攻守入れ替わって今度は綾香のラッシュが続く。

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2人の戦いは続いている。

 

「すごいな・・・・・・2人とも」

浩之は、感嘆の声をもらす。

「なんか体を動かしたくなってきたぜ。セリオ俺達も始めようぜ!」

「はい、ではまず、浩之さんの実力を計らせてもらいます。前大会の1回戦クラスの実力で、

攻撃させていただきますので、浩之さんはいっさい攻撃はせずに防御に専念して下さい」

セリオの指示に、

「攻撃しちゃいけないのか?」

「浩之さんの防御のレベルが知りたいのでなるべく攻撃はしないで下さい」

「そうか、わかったぜ!さっそくはじめてくれ!」

 

セリオが空を見上げる。

一瞬表情が固まり無表情になる・・・・・・・・・・

サテライトシステムからデータを取得しているらしい。

しばらくし、セリオに表情が戻った。

「では、はじめます」

浩之とセリオの戦いがはじまった。

 

まず、セリオが動いた。

間合をつめ、いきなり右のローキックを繰り出す。

浩之の左脚に入った!

態勢のくずれた所に、立て続けに拳が放たれるが、スウェーやダッキングを用いてなんと

かかわす。

いくつかの攻撃がきわどい所を過ぎていく。

浩之の表情に驚きと戸惑いが浮かぶ、この攻撃のスピードは葵ちゃんや綾香と同じくらい

のものだ!

気を引き締め直し、両腕を持ち上げ頭部を守る。

 

セリオが一歩踏み込んで、その頭部にミドルキックを叩き込む。

ガードの上からだが、かなりの衝撃が伝わった!

だが浩之は、ぐらつかなかった、防御の姿勢を崩すことなくセリオに向かい合う。

セリオは1度間合を取り、一呼吸おくとラッシュにでた。

拳の連打を上体に集中し、ローキックそしてハイキックにつながるコンビネーションを繰り出す

浩之は拳の連打をなんとか凌いだ所にローキックをくらい態勢を崩す。

その隙めがけてハイキックが襲い掛かった!

浩之はその場にとどまらずに前に出てきた、この距離では有効打はのぞめない。

セリオが下がるのに合わせて浩之も下がる。

2人は間合を取り直した。

 

「ちょっと待ってくれセリオ」

浩之の緊張が途切れた。

 

「これで、1回戦レベルなのか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

セリオは何も答えない。

防御で精一杯だった。

とてもこちらから攻撃する余裕なんてなかったぜ。

「俺、自信無くなったぜ」

1回戦相手に、こんなにも差があったなんて・・・・・・

「せんぱ〜い」「浩之!」

葵ちゃんと綾香が駆けよってくる。

 

「せんぱい!すごい、すごいです!いつの間にあんな動き出来るようになったんですか!」

えっ?

「浩之、やるじゃない!見なおしたわよ〜」

ええっ?

「何言ってんだ2人とも?1回戦相手に手も足も出なかったんだぜ、防御だけで精一杯

だったんだ、ぜんぜんすごくなんかねえよ!」

2人は顔を見合わせ、

「あの動きで1回戦なんですか?ほんとですか、せんぱい?」 

「あぁ、セリオがそう言ってたぜ、

    『前大会の1回戦クラスの実力で、攻撃させていただきます』って」 

「そうなんですか?セリオさん」 

葵ちゃんがセリオに聞く。

 

「申し訳ありません、取得するデータを間違えてしまいました」

「えっ!」

「先程、浩之さんが戦われた相手は、前大会のベスト4クラスの実力の持ち主です」  

「なっ、なんだって!ベスト4?どうりで強いわけだぜ・・・」  

「せんぱい、すごいです!上位ランカーの攻撃を凌ぎきったんですよ」 

「へへっ、でも防御だけに専念してたからなぁ」 

「そんな事ないです! 敵の攻撃を防御するのは基本中の基本です、基本をしっかり

マスターする事は後々、必ず武器になりますよ!」 

「そ、そうか?何か自信でてきたな、よ〜し葵ちゃん俺もっとがんばるぜ!」 

「はいっ!せんぱい!」 

 

 

 

盛り上がる2人をよそに、

「ねぇ、セリオ」

「はい」

「あれ、わざとでしょ?」 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」

「でもなんで?」 

「浩之さんに自信を持ってもらいたかったんです。はじめから上位ランカーと知っていたら

身構えてしまって、本当の実力が出せないんじゃないかと思いまして」 

「・・・・・浩之がぼろくそに負けるとは思わなかったの?」

「浩之さんの実力は、綾香さんとの練習で知ってましたから」 

「ふぅ、セリオもあんがい狸よねぇ、いったいどこで覚えたのかしら?」 

「・・・・・・・・・」

セリオは綾香を見つめ、優しく微笑む。

 

 

 

 

 

 

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