葵ちゃんアフターストーリ』   

 

− 6 −   

 

 

 

あの後、俺は、セリオからみっちりと防御の技術を実地で教わった。

おかげで、攻撃を防ぐ事に関してだけは、自信がついたような気がする。

もっとも、調子に乗って攻撃しようとしたとたん、防御が疎かになって、セリオに

キツ〜〜イ、一発を貰っちまったがな。

 

 

外から差し込む日差しが赤く染まる。

そろそろ時刻は夕刻になろうとしていた。

「お〜い、葵ちゃん、そろそろ止めにしないか?」

綾香との組み手をやっていた葵ちゃんは、打ち合う手を止めて、こっちを振り返る。

ふぅ〜、息を吐き、汗を拭うと、

「そうですね、今日はもう止めにしましょうか、綾香さん、いいですか?」

「OK、私もそろそろ疲れてきたからね」

そう言いながら、手に嵌めたグローブを外しに掛かった。

「じゃあ、葵ちゃん、そろそろ晩飯の買い出しに行こうぜ」

「そうですね」

俺達は、買い出しに行こうとした時、

「あぁ、それはいいわ、姉さんがもう準備してるはずだから」

「えっ!? せんぱいが?」

「そ、合宿が決まった時からね、 『私もなにかお手伝いさせて下さい』 って言って、

1週間も前から、何か作ってたわよ」

「い、いっしゅうかん???・・・・・・・・いったい何が出てくるんだ?」

その時、俺の脳裏には、大鍋の前で怪しげな呪文を唱えるせんぱいの姿が浮かんだ。

想像中・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「葵ちゃん、俺、今、物凄い光景が頭に浮かんだぜ」

「わ、私もです。仕込みに1週間だなんて・・・・・いったい、どんな料理なんでしょうか?」

う〜ん、期待半分、不安半分ってとこだな。

 

 

 

俺達は、食堂の方へ移動した。

ここは、来栖川の本邸の方ではなく、施設内にある簡易な厨房だ。

1週間も本邸の厨房を占有されると困ると云う事で、こちらを使うよう頼まれたらしい。

食堂の厨房に入るとそこには、せんぱいがいた。

せんぱいは、こちらに気づくと、

ペコリ

とお辞儀をした。

「よっ! せんぱい、夕飯作ってくれるんだってな?」

コク

せんぱいは、頷いた。

「聞いたぜ、1週間も前から仕込んでたんだって?期待させてもらうぜ」

ポッ

頬を赤く染めて俯く。照れているようだ。

 

「あっ、芹香さん、わたしも手伝います!」

葵ちゃんが手伝おうとすると、

ふるふる

「えっ!もう出来てますって? そ、そうなんですか・・・・」

辺りにはカレーのような匂いが漂っている。

でも、カレーで1週間も掛かるんだろうか?

まあ、本格的に作ろうと思えば、それくらい掛かるのかもしれないが・・・・・・・・せんぱい

の事だからな〜

俺が怪しんでいると、

葵ちゃんも、同じ気持ちだったらしく、好奇心からか、恐る恐るせんぱいに聞いた。

「あ、あの〜、芹香さん? 何の料理を作ったんですか?」

葵ちゃんの質問に、ボソボソっと呟く。

「えっ、スタミナ抜群の特別料理!?・・・・・スタミナ・・・です・・か?」

たぶん、今、いろいろと想像をしてるんだろうな?

「あの〜どういう材料を・・・・・・・」

「葵ちゃん!!」

更に深く聞こうとした葵ちゃんを俺は制した。

俺は、葵ちゃんにだけ聞こえる声で、

「それ以上聞くと、夕飯、食べれなくなるぞ!」

葵ちゃんは、怖い考えを張り巡らせたようだ。

せんぱいが、 『あの〜どうかしましたか?』 っと聞いてくる。

「い、いえ、なんでもありませんです。はい。・・・・は、はは・・・・・・」

葵ちゃんの誤魔化し笑いに、せんぱいは首を傾げる。

 

 

 

「さあ、もう出来ているんなら、早速食べようぜ」

俺は、お皿とかを用意しようとした時、

せんぱいが、なにか呟いた。

「えっ?まだ、最後の仕上げが残っていますって?」

コク

せんぱいが頷く。

「そうなのか? じゃあ、俺も手伝うよ、何をすればいいんだ?」

ふるふる

「えっ、手伝ってもらう事は無いって?」

コク

せんぱいは微かに聞き取れるぐらいの小さな声で、

月が出るまで、待って下さい・・・・・・・・

確かに、そう言った。

「月って?あの月か」

俺は空を指差した。

コク

俺達は顔を見合わせる。

誰も何の事だか判っていないようだ。

「いったい、なんで月が??」

ぼそぼそ・・・と呟く。

「えっ!? そういう儀式なんです、だって?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

つまり、やっぱり、そういう料理だった訳だ・・・・・・・・・

 

 

 

俺は気を取り戻して、

「ま、まあ、そういう訳だから、え〜と、夕飯はまだ先になりそうだな」

それまで、どうしようかな?と考えていると、

「じゃ、先にお風呂にする〜」

ピクッ!?

綾香の、お風呂と言う発言に反応する。

「そうですね、ちょっと汗臭いですし、さっぱりしたいですね」

ピクピクッ!

葵ちゃんの入浴姿・・・・・・・・・・・・・見たい。

「お〜〜〜〜し、すぐに入りに行こうぜ!」

俺達は風呂に向かった。

 

 

 

お風呂は露天風呂だった。

残念ながら混浴では無かった。

まあ、あたりまえだが、もしかしたらと、少しは期待していたんだが。

 

カポ〜〜〜〜ン

 

ふぅ〜〜〜、壁一枚隔てた隣には、葵ちゃん達が裸でいるって言うのに・・・・・・・

俺は隣を睨み、

「なんでジジイと一緒に、風呂に入んなきゃならないんだ?」

「ふんっ! 小僧、貴様が不埒な考えを持っている事などお見通しだ!」

「ふ、不埒って、なんの事だ?」

すっ、と目をそらす。

「なぜ、目をそらす! ふんっ!まあいい、私がいる以上、決して覗かせには行かせん!」

ちっ、男のロマンを理解しない野郎だ。

 

 

 

一方女湯の方では・・・・・・・

 

ジ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「綾香さんって、やっぱりスタイルいいなぁ〜」

自分と見比べて落ち込む。

「あら?何いってんの、葵はこれからじゃない」

綾香は湯船に脚だけ浸しながら言う。

「今だって、昔と比べるともう、かなり女の娘の体つきになってきたわよ〜」

「そ、そうですか?」

「うんうん、昔は、まるでかわいい男の子って感じだったけど、今じゃねぇ〜」

意味ありげな視線で、

「この体で、浩之をメロメロにしたの?」

葵ちゃんは、真っ赤になり、

「あ、あ、綾香さん、からかわないで下さいよ・・・・・・・」

湯船に顔まで沈めて照れている。

「も〜、葵ったら本当にかわいいんだから」

綾香は葵ちゃんをおもちゃにして遊んでいる。

 

 

 

再び男湯・・・・・・・

 

女湯の方から2人の楽しそうな声が響いてくる。

クソ〜〜、これじゃまるで拷問だ。

「おい、じじい、あの声が聞こえないのか?」

「それがどうした」

「これで、覗かなければ男じゃないぜ!」

喝〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!

「そのような真似、わしの目の黒い内は絶対に許さん!」

「ほう、じゃあ、じじいを倒せばOKなんだな」

既に、覗きたい一心で、自分の実力の事など頭に無かった。

「小僧、貴様に私が倒せるかな?」

じじいは不適な笑みを浮かべる。

 

俺はじじいに近づき、

「俺の為だ! 死んでくれ〜〜〜〜」

渾身の一撃を繰り出した。

バシッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!

右の拳がクリーンヒットした・・・・・・・・・・カウンターで。

俺の渾身の一撃に合わせる様に、じじいのカウンターが炸裂した。

俺は、自分の考えが甘かった事を思い知った。

クソ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!

覗きたい一心からとはいえ、なんで、あんな隙だらけの

大振りしちまったんだぁ、俺は・・・・・・・・

 

 

薄れゆく意識の中で、明日こそは・・・・・・・・と、

お空に浮かぶ一番星に、打倒じじいを誓う浩之だった・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

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