『幸せの時…』

− 3 −

 

 

 

後に残された私は、職員室の中に入る事が出来ずにいた。

何度も扉の前をうろうろとしていたが、やがて意を決して中を覗き見る。

「あぅ〜……知らない人ばかりだよぅ……」

私は職員室を覗き込んだまま涙ぐむ。

う〜、祐一とずっと一緒だと思ってたから安心してたのに……。

 

その時、不意に背中から声が掛けられた。

「何か見えますか?」

「えっ!」

驚いて後ろを振り向くと、そこには若い男の先生が立っていた。

「えと、えと…………あぅ………」

(……き、きっと真琴………怒られるんだよぅ……覗いてたから……)

私はあたふたと困惑する。

だが予想に反してその先生は、少し屈む様に目線を合わせてきた。

そして、ニコッっと微笑み……。

「もう予鈴は鳴りましたよ、早く教室に戻った方がいいですね」

(あぅ? 怒らないの??)

「どうかしましたか? あっ! もしかして君……水瀬さん?」

ぶんぶんぶん

私は大きく首を振る。

だって私……沢渡真琴だもん……。

「そう………違いましたかぁ。 あっ、それなら早く教室に戻らないと遅刻になりますよ」

コクコク

私は兎に角頷くと、逃げる様にその場を去った。

 

スタタタタタタタタッ………。

 

背後からは視線を感じる……。

あぅ〜、真琴……きっとあの先生に、怪しい奴だって思われちゃったよぅ。

 

 

 

********************************************

 

 

 

「はぁ〜………」

思わずため息が漏れる。

取り合えず職員室を離れては見たものの、別に行く当てがあるわけでもない。

ほとんど人通りの無くなった廊下を、私はとぼとぼと歩く。

私が逃げたって知ったら……祐一……怒るかなぁ……。

途方にくれて、目的も無くふらふらとさまよう。

「真琴………?」

突然、私の名前が呼ばれた。

あぅ? この学校で私の名前を知ってるって事は…………お姉ちゃん♪

呼ばれた方を振り返ると、1人の見しらぬ女の子が驚きの表情で私を見ていた。

お姉ちゃん……じゃない……。

あぅ〜、知らない人だよぅ。

「…………なんで、真琴の名前を、知ってるの?」

ちょっと訝しげな感じで聞いてみた。

「………覚えて……ないの…ですね……」

女の子の表情が悲しみに変わる。

そして、私の顔を見詰め何事かを考え込む……。

しばらくし、何かを納得したかのように表情を和らげると口をひらいた。

「………………以前に、相沢さんと、ちょっと………」

「あなた……祐一の事知ってるの?」

「はい……知り合いです……あなたはここで何を?」

祐一の知り合いなら安心だよぅ♪

私は気軽に答えた。

「真琴、今日から学校に通うんだよ♪」

「そうですか………相沢さんらしい考え方ですね」

その言葉は、とても思いやりに溢れていた。

「あぅ…?」

「何組ですか?」

「えっ?」

「クラスです。 何組になったんですか?」

「え〜と………」

ど、どうしよう……。

「もしかして、まだ職員室には行ってないのですか?」

「あぅ……行ったよぅ………………入らなかったけど………

小さな声で付け加える。

女の子は溜息をつくと、仕方ないですね……と呟き、

「私が付いて行きますから………一緒に職員室に行きましょう……ね?」

優しく手を差し伸べる。

「……………………」

なんだろう? この子の言葉……1つ1つが、とっても安心できる。

それに……なんだか前から知っていたような気がするんだけど……。

私は、女の子の顔をじ〜っと見詰める。

「どうかしましたか?」

「う…ううん。 なんでもないよぅ」

そうだよね……。

私が知ってる人って、秋子さんとお姉ちゃんと祐一くらいなもんだもんね……。

私は差し出された手をそっと握る。

そして、二人で職員室に向かって歩き出した………。

 

 

 

********************************************

 

 

 

しばらく歩くと、廊下の先から1人の先生がこちらに近づいて来るのが見えた。

あっ! さっきの先生だぁ……あぅ〜どうしよう……。

と、取り敢えずやり過ごさなくちゃ…。

私は顔を伏せて口を紡ぐ。

だが、そんな私の思惑とは裏腹に、先生は真琴達に気付くと声を掛けてきた。

「天野さん……予鈴は既に鳴っていますよ。 教室に戻って下さい……」

「あの……先生? 実は彼女、転校生なんですけど、職員室まで案内してきてもよろしいでしょうか?」

「転校生って、あれっ!? 君はさっきの………?」

あぅ…もうバレちゃった……。

「…………」

「真琴? 先生とは既にお会いされてたのですか?」

コクコク

私は頷く。

先生は、腕を組んで考え込む。

「君が転校生? う〜ん……おかしいですね。 転校生の名前は水瀬って聞いてますが……」

あっ! 思い出した!!

確か戸籍を作る上で、沢渡真琴から水瀬真琴に変わったって秋子さんが言ってたような。

「み、水瀬って、真琴の事だよぅ……」

「…………でも、さっきは違うって?」

「あぅ〜…………ま、真琴……忘れっぽいから、だ…だからだよぅ」

私は必死に言い訳した。

先生は私をじ〜っと見詰める。

「………わかりました。 では君が水瀬真琴さんだね……君は今日から、私のクラスの生徒という事になります。

……ちなみに担任は私ですから、これからよろしく」

「え〜と…………水瀬……真琴です………」

ペコリとお辞儀する。

「真琴………申し送れましたが、私は天野美汐と申します。 仲良くして下さいね」

「美…汐……? あぅ……真琴と………仲良くしてくれるの?」

「はい、嫌でなければ…是非……」

「じゃあ、じゃあ……………真琴と………」

一瞬迷ったが、思い切って口にする。

「真琴と………友達になってくれる?」

とても不安だったが、何故か予感があった……。

この子とは……美汐とは…友達になれるって。

ドキドキしながら返事を待つ。

 

「はい」

 

美汐は優しく微笑む。

「ほ、本当に?」

「はい、今日からお友達です。 そしてクラスメイトです」

「え〜〜〜っ!? お、同じクラスなの?」

先生を見詰めると……。、

コク、と頷く。

 

その時、祐一の言葉が頭に浮かんだ。

 

 

  『学校に行くと、たくさん友達が出来るぞ』

 

 

祐一が言った事は本当だったんだね。

 

本当に……本当に幸せな気分の中、私は心からそう感じていた。

 

 

 

 

 

 

           TOPに戻る    前のページ 次のページ

 

 

 

 


『あとがき』

ふぃ〜…なんとか真琴ちゃんの一人称に切り替えられたよ……

ちょっと不自然な処も結構あるけど……( ̄▽  ̄;;

まあ書き易いから良いや♪

 

さて、次回はついに、真琴のクラスデビューです。

まあ美汐がいるから大丈夫だろうね(⌒▽⌒)

それではっ〜♪

 

00/04/16(日) 加筆・修正

         真琴ちゃんの一人称に切り替え……