『千鶴さんの休日』
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耕一のアパートに着いた千鶴さんは、合鍵を使って中に入り込んだ。
荷物を置いて、一息ついた所で部屋を見渡すと、
「あら、結構片付いてるわね」
部屋の中は奇麗にかたずいている。
前日に千鶴さんが来る、と言う連絡を受けた耕一は、千鶴さんに部屋を無茶苦茶に
されない為に、必死になって掃除を済ませていた。
これならあまりすることは無いはずだが、
「・・・・・・・・・・・まあいいわ、さっそく掃除を始めなくちゃ」
そんな事はいっさい気にせずに、千鶴さんは掃除を始めた(笑)
千鶴さんは、部屋を見渡し、
「ん〜〜、結構せまいわね?」
普段、あの大きなお屋敷に住んでいる千鶴さんとしては、ワンルームのアパート
など小さく感じてしまう。
「少しかたづけましょう」
そう言うと、辺りにある物をかたっぱしから押入れに放りこんだ。
注)千鶴さん的には押入れに収納しているつもりです。
「ここはこれでよしっと」
部屋の中は、がら〜んとなった。
「え〜と次は、洗い物でもしようかな」
千鶴さんは、台所へ向かう。
食器のたぐいは既に、綺麗に洗われていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・え〜と、食器棚にでもかたずけようかな?」
お皿を手に取り、食器棚はどこかな?っと振り返ったとき、
スルッ
パリ〜ン!
「あっ」
手からすっぽ抜けたお皿は床に落ちて割れてしまった。
「・・・・・・・・・・・ふ、古くなってたのね、きっと」
よく分らない言い訳を口にし、さっさと証拠隠滅をはかる。
なぜか、こういう時の手際はとても良いから不思議だ。
「そ、そうだ、お布団干さなくちゃ」
その場から逃げるように、布団を持ってベランダへ行く。
「あ〜良い天気・・・・・・でもないわね」
空はどんよりと曇っている。
「ま、いいか」
そう言ってふとんを干す。
何か、いまにも雨が降り出しそうだ。
・
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しばらくして、
「よし、お掃除終了」
ふと、時計を見るとそろそろ3時になろうとしている。
「・・・・耕一さん、今頃何してるかな?」
やる事の無くなった千鶴さんは、暇を持て余している。
「いつ、帰って来るのかな?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・暇だな、やる事が無い。
耕一さんに逢いたいなぁ。
「そうだ!」
勢いよく立ち上がり、
「耕一さんを迎えに行こう」
千鶴さんは、そう決めるとすぐに出かける準備を始めた。
街を見下ろす丘の上にある学校。ここが耕一が教育実習に来ている学校だ。
千鶴さんは、結局、耕一を迎えに学校まで来ていた。
時間が時間なだけに、辺りには、下校中の生徒の姿がちらほら見える。
学生ばかりの中で、千鶴さんは目立っていた。
すれ違う生徒達が男女問わずに振り返る。
「ふふっ、美しいってのも困るわね〜」
千鶴さんはうぬぼれて・・・
キッ!
千鶴さんが睨む!
うっ、ち、千鶴さんの美しさにみんなが振り返る。
とにかく、そんなこんなで歩いていると、
不意に、気配が伝わってきた、戦いの気配が。
はっ、と辺りを見渡す。
どこかで誰かが戦っている。
鬼にしては弱い気配だけど、普通の人がここまでの気配を出すなんてあまり
考えられない・・・・あっ!もしかして耕一さんの鬼がまた出てきたんじゃ!
そう考えた千鶴さんは、あわてて気配を探る。
あっち!学校の裏の方を見据え駆け出していく。
しだいに気配に近づいていく。
長い階段を登った所に見えるのは神社だろうか?
走りながら少しづつ、自分の中の鬼の力を引き出していく。
もう少しでたどり着く、耕一さん待ってて下さい。
残りの階段を思いっきり跳躍して神社の境内に飛び出した。
「耕一さん! 無事ですか!!」
千鶴さんは、大声で叫ぶ。
「えッ!・・・・・・・・・・」
「な、何?・・・・・・・・・」
そこには、2人の女の子がグローブを手に向かい合い、驚いた表情でこっちを
見ている。
辺りに耕一の姿は無いが、状況を見る限り先程感じた戦いの気配は、この子達
から発せられていたようだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、あれ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
女の子達は、突然の事に声も出せず、ジ〜っと不思議な物でも見るように
見つめている。
「あ、あの〜、耕一さんは・・・・・・」
ジ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ジ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あぁ、そんな変な人を見るような目で見ないで〜。
い、いけないわ!このままじゃただの変な人と思われてしまう。
なんとかフォローしとかなくちゃ!
千鶴さんは頬をポっと染めて言った、
「そ、そんなに見つめちゃ、イヤですぅ」